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人は時間を拘束されると考える~「ゲンロン」イベントが長い理由~東 浩紀 × 鹿島 茂、東 浩紀『ゲンロン戦記』を読む

今月の月刊ALL REVIEWS、ノンフィクション部門は東浩紀の『ゲンロン戦記~「知の観客」をつくる~』。著者の東さんが鹿島さんのノエマスタジオにお見えになりました。東さん、ノエマの本棚に興味津々です。
東さんは『存在論的、郵便的 ―― ジャック・デリダについて』でサントリー学芸賞をとりましたが、そのときの審査員が鹿島茂さん。
そんな話から、熱情的な話は始まります。
いや、ともかくこの対談、超絶面白いから聞いてください!2時間弱、全く無駄のない至高の時間を楽しめます。
※お二人の対談動画はこちらから購入できます。(1500円+税)
https://allreviews.jp/news/5310

サントリー学芸賞は下読みがない!

東さんが世に知られるきっかけとなったのはサントリー学芸賞を受賞した『存在論的、郵便的 ―― ジャック・デリダについて』。このときの審査員が鹿島さんです。鹿島さんは審査員の守秘義務があり審査の過程については話しませんでしたが、代わりに、サントリー学芸賞の知られざる特徴について話してくださいました。いわく、サントリー学芸賞には下読みがない!審査員は候補作を何作品か持ち寄り、プレゼンしていくシステムだそうです。審査基準は山崎正和さんが作ったもので、一つは、学会内だけで通用する作品を選ばない、もう一つは功労賞とはせず、今後論客になっていく人を選ぶということ。この開かれた賞に東さんはぴったりだったわけです。

『誤配』が日常のフランス

受賞作『存在論的、郵便的』の中で、東さんはデリダの中であまり注目されていなかった「郵便」と「誤配」に注目します。メッセージが途中で失われたり、間違った相手に届くということが哲学の基礎となることを書いているのですが、注目される「誤配」という概念、フランスと日本ではかなり受け取り方が違うのではと鹿島さんは指摘します。フランス、特にパリなど都市のアパートには、日本には当然ある部屋ナンバーがありません。郵便はアパートの入り口までしか配達されません。そこから各戸に配達するのは通常は管理人の役目です(筆者注:最近は入口に個別の郵便受けを置くアパートも増えています)。管理人に意地悪されると郵便は配達されません。フランスでは管理人への付け届けが重要となるというのが鹿島さんの見解。デリダの誤配は実体験に基づくものなのかもしれない、東さんもフランスの郵便配達制度の説明に喜びます!

人間は時間を拘束されると考える!

鹿島さんと東さんの対談は2時間弱。月刊ALL REVIEWSとしては長い時間ですが、東さんが主催するゲンロンのイベントとしては短いものです。東さんの話が2時間で凝縮されているので、ぜひ購入してご確認ください。

いったいなぜ、ゲンロンのイベントは長いのか。実は大学の先生を含め、日本の知識人は自分の考えを思う存分話す場が殆どないことに東さんは気づきました。日本の記号論の大家石田英敬先生がゲンロンに登壇したとき、パワーポイント200枚の資料を用意してきました。石田先生ほどの方であっても、思う存分語りつくす機会は早々ないのです。

一方、長い討論は、観客にも良い影響を与えます。人間、拘束されるとその拘束されている時間、いろいろと考えます。講師が語っている時間、人は考えます。要約を読むと3分で済むかもしれませんが、3分間の拘束ではものは考えられないとと東さんは力説します。

観客の重要性~出版社は読者を大事にせよ

『ゲンロン戦記』のサブタイトルは『「知の観客」をつくる』。東さんは観客を作ることが重要と考えています。現代は全員が表現者になることが求められている時代。しかし、全員が表現者になることは無理です。その中で、重要なのは、質の良い観客をできるだけ厚くしていくこと。東さんはもう少し観客を大切にする、観客が褒められる社会を目指したいといいます。

鹿島さんもこれには賛成。かつてフランス人の家にいったとき、書棚にミシェル・フーコーがあった。ミシェル・フーコーの本を買うような「スノッブ」が文化を支えています。

最後に鹿島さんから告知。NHK大河ドラマ『青天を衝け』は渋沢栄一が主人公。かつて、渋沢栄一の伝記を書いた鹿島さん、渋沢栄一のムック本を書いています。大河ドラマのガイドとしてどうぞ。本書のサブタイル「道徳的であることが最も経済的である」には東さんも激しく同意。

何度も言いますが、この討論、本当に無駄がなく、かつ2時間で終わります。ぜひ対談をご覧ください!

【記事を書いた人】くるくる

【「ALL REVIEWS 友の会」とは】
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入会すると、日本を代表する書評家、鹿島茂さんと豊崎由美さんのお二人がパーソナリティーをつとめる、書評YouTube番組を視聴できます。
友の会会員同士の交流は、FacebookグループやSlackで、また、Twitter/noteで、会員有志が読書好きにうれしい情報を日々発信しています。
友の会会員の立案企画として「書評家と行く書店ツアー」、フランスのコミック<バンド・デシネ>をテーマとしたレアなトークイベントや、関西エリアでの出張イベント等が、続々と実現しています。リアルでの交流スペースの創出や、出版の構想も。
本が読まれない時代を嘆くだけではダメだと思う方、ぜひご参加ください。


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