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優れたフォワードが11人いても試合には勝てない

あるシステム開発の見積もりをします。工数は120人月。工期は1年。120人月÷12ヶ月=10なので、1ヶ月あたり10人の開発者がいればリソースは足りている計算になります。リスクを見込んで11人としましょう。プロジェクトマネージャーを1名立てて、残りは10人の開発者。さぁプロジェクトスタートです。

プロジェクトマネージャーを中心に、プロジェクト計画を立てます。要件定義チームと開発チームに分けましょう。要件定義チームは顧客とともにシステム要件をまとめます。開発チームは開発環境を作りながら技術調査。WBSも作成し、プロジェクトは順調なスタートを切ったはずでした。しかし、要件定義終了時には1ヶ月遅れ。プロジェクトマネージャーは「顧客が要件を決めてくれなかったから仕方ない。設計フェーズで挽回しよう」と言って設計フェーズのスケジュールを1ヶ月縮めました。

しかし、設計フェーズではさらに2ヶ月の遅れが発生しました。おかしい。人数は足りているはずなのに。残りの作業量を計算すると、88人月。期間は8ヶ月。88÷8=11人なので、1ヶ月あたり11人の開発者がいればリソースは足りている計算です。プロジェクトマネージャーは1名増員し、開発をスタートさせました。

結果は・・・

プロジェクトはどんどん遅れていきました。結局、予定していた期限内には終わらず、6ヶ月のリリース遅延を発生させてしまいました。その分の費用は自社でほとんどを補うこととなり、大赤字の失敗プロジェクトになってしまいました。

何故こんな事が起きたのでしょうか?

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状況を簡単に書いてしまいましたので、当然いろんな見方があると思います。プロジェクトマネジメントはしっかりできていたのか?プロジェクト計画が甘かったのでは?そもそもの見積が不足していたのではないか?EVMで管理すべきだったのでは?ウォータフォールは適切だったのか?etc...

今回はシンプルに焦点を絞ります。タイトルにある通り「フォワードしかいないチームはサッカーの試合に勝てない」という点です。また、ここでの大前提は、どんなポジションもこなせる天才はいないということです。

フォワードとはサッカーチームにおいて攻撃役。通常、11人の中に2~3人(トップ下も含めて5人という考え方もありますが)程度配置することが多いと思います。

では、非常に得点力のあるフォワードが11人いたとして、そのチームは必ず勝てるか?というと、そんなことはありません。

サッカーの試合では、相手チームが攻めてきたときにディフェンスが必要ですし、シュートを打たれたらゴールを守るゴールキーパーが必須です。また、ボールを奪った後、相手の選手をかわしながらパスを回してフォワードにボールを運ぶ役割も重要です。

いくらシュートが上手くても、相手のゴール前でパスを渡してくれる仲間がいなければ、フォワードの得点力も宝の持ち腐れとなります。

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今回のプロジェクトで、プロジェクトマネージャーはメンバの役割を、要件定義チーム/開発チームに分けました。また、開発フェーズでは、製造担当/テスト担当を機能単位で割り当てました。しかし、プロジェクトで発生する問題は多彩です。様々な問題に対して、同質の役割を与えられたメンバは各自の強みを発揮できないまま、プロジェクトは遅延していくことになりました。

多少の得意不得意を考慮していたとは言え、プロジェクトマネージャーは、メンバをほとんど同質なリソースとしてしか見ていなかったのです。これでは、サッカーの試合で、11人のフォワードを出場させ、無理やりディフェンスやボール運びをやらせているのと同じ。

ドラッカーは「人の強みに焦点を合わせよ」と言いました。

その強みとは、「製造が得意」とか「要件定義が得意」という切り口では大きすぎると考えます。

例えば、メンバをよく観察すると、このような人がいます。

・誰かが困っている時には必ず助けてくれる人
・チーム全体の課題によく気がつく人
・人と人の間に入って情報を繋いでくれる人
・打ち合わせで場を管理し進行を促進してくれる人
・チームの文化をまわりに広めてくれる人
・目標意識が強く、品質基準を高く保ってくれる人
・チームを明るくしてくれる人
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これらはその人の大きな強みであり、この強みを活かしてチームを運営することがチームリーダとして必要なことです。

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プロジェクトが遅延した理由の一つには、要件定義チームと開発チームのコミュニケーション不足にありました。コミュニケーションルールや仕組みの不足が問題だったかもしれませんが、「人と人の間に入って情報を繋いでくれる人」を1人配置するだけで、もしかしたらこの問題は解決したかもしれません。


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