スタメン

J2第34節 vs水戸ホーリーホック 一点のカオス |アルビレビュー

10月になり、暑い日がありながらも少しずつ秋めいてきました。秋といえばコスモス。今年も綺麗な花が見られるはずです。そして「コスモス」には他の意味も。そう、秩序を意味するコスモス、それに対して混沌のカオス。今回の勝負の分け目はまさに「カオス」でした。


1.試合結果

新潟 3-0 水戸
得点者 新潟  4' シルビーニョ 90+3', 90+5' レオナルド
    水戸 なし

詳細なデータはJリーグ公式サイトFootball Labへ。
ハイライト動画もどうぞ。


2.マッチレビュー紹介

🔸hitoshiさん

おなじみのレビュワーとなってきました。同じ試合を同じ新潟視点から書いているので大体かぶっちゃいますね。水戸さんのレビュワー募集中!


3.マッチレビュー

スタメンはこちら。

スタメン

新潟のスタメンはおなじみになってきた11人。ベンチにDF登録がいないのは不安だったが結果的に負傷交代等はなかったのでよかろうもん。

対する水戸も前節と同じラインナップ。夏の移籍市場を有効活用し、夏の加入組が3人もスタメンに名を連ねました。

①後ろで繋ぐはピンチ?チャンス?

前節甲府戦では丁寧に繋いで攻撃することを狙った新潟ですが、この日も同様。開始直後はロングボールを使ってきた水戸に対し、新潟はGKからDFラインへと繋いでいきます。こうなれば前からプレスをかけて奪ってからのショートカウンターを狙う水戸。序盤から争いが勃発します。

水戸は4-4-2で全体をコンパクトにしてプレスをかけます。逆サイドへ展開するコースをうまく遮断し、片側に寄せさせて奪い取る狙いです。逆SHが中央まで絞ってきて新潟のボランチからボール奪取するシーンもあり、プレスで取り切る意欲は高めでした。

しかし水戸の前に立ちはだかったのは舞行龍ジェームス。最終ラインでも落ち着いてボールを扱うことができ、ボディフェイクも駆使して的確に繋げる彼がボールの落ち着きどころとなってプレスを交わしていきます。そしてプレスに出たことで重心が高くなったDFラインの裏へボールを送り込み、スペースを突きにいきます。流石にこれは水戸の想定内で簡単に抜け出すことはできませんが、新潟は全体を押し上げることに成功。水戸を手前に引き出して空いたスペースを突く狙いができていました。

画像6

そして裏へのボールで押し上げた流れから4分に先制点ゲット。ゴメスがドリブルで突っかけて3人を引き連れ、ヒールパスからのシルビーニョの華麗なショット。

組織的な崩しとは無縁、SBがリスク上等で仕掛ける再現性皆無のまさにカオスから生まれたゴールでした。サッカーはこれがあるから面白い。組織での崩しの機能美も良いですが、こういうわけわかんない流れからのゴールの方がビューティフルな割合が高い気がします。

そしてこの一点が試合の趨勢を決めることとなるのですが、それはまたあとで。

②4-4コンパクトブロックの攻め方講座:基本編

先制後も流れはしばらく変わらず。そのため新潟がボールを持つ時間が少し長めに。この日の新潟の遅攻の狙いはサイドチェンジによる揺さぶり。水戸は全体が下がった際に4-4-1-1のような形になり、コンパクトな4-4のブロックを形成。ボールと逆のサイドにスペースができるため、ここを突くのが定石であります。

新潟は左サイドで繋ぎ、ブロックのスライドで大きく空いた右サイドを使って攻撃。これは新潟の選手の特徴を生かしたものでもあります。

・右SHのフランシスのスピードを生かし裏狙い
・右SB直人のクロスを生かす
・善朗、ゴメスら左サイドのボール扱いの上手い選手を生かす

新潟攻撃2

試合を通じてこれが狙いとなっていました。この日は特にフランシスが内は入る動きが多く、大外の直人がフリーで受ける場面は多かったです。右クロスからの決定機はそれほどありませんでしたが、終了間際の3点目もこの形から生まれたので狙いは当たったということにしましょう。

③4-4コンパクトブロックの攻め方講座:上級編

序盤はバランスを崩すことを嫌ったのかロングボール多め、陣形変化少なめの戦い方を選んだ水戸。前半10分以降は徐々にボール保持を増やしていきます。新潟はそれほど強いプレスをかけず、低めに構えるために水戸はビルドアップを無理なく行えます。

攻撃時の陣形は2-3-5。それぞれの選手の役割は以下の通り。

水戸攻撃1

CB:2トップ脇からボール供給、ドリブルで持ち運ぶことも
SB:高い位置取りをして幅取り、サイド突破要員
CH+左SH木村:ビルドアップ隊、ボール供給&前線へ上がり崩しにも参加
右SH福満、FW黒川 (シャドー):ライン間で受ける、チャンネルラン
CF小川:CBと駆け引きしゴールを狙う、下りてポスト役も

ヴェルディ戦のレビューも書きましたが、陣形としては酷似しています。しかし水戸のほうが崩し方は上手でした。

前半はサイドからの攻撃が目につき、シンプルにクロスを入れる場面もあったものの大武、マイケルの両CBの壁に阻まれビッグチャンスにはならず。後半からはギアを上げ、サイドのみならずハーフスペースや中央も使って崩しにかかります。特にサイドではSBとシャドーが「段差」を作ることでうまく穴を作り出しました。簡単に2種類の崩しを紹介。

水戸サイド崩し1

シャドーとSBがタイミングよく高い位置と低い位置で入れ替わることで隙を作り、逃さずに突いてサイドの深い位置を取りまくりました。後半は幾度となくここへと侵入し、新潟を脅かし続けました。

水戸と同じような陣形で攻めるチームはJ2にも増えてきました。ただ、「とりあえず選手は置いたけどそこでとどまってしまって崩せない…」というチームが多い印象です。崩せない理由として、ライン間に居続けて相手を動かせないことが考えられます。DFラインとMFラインの間というのは確かに捕まえづらい、守備陣の対応しづらいポジションですが、そこに居続けたら守備陣も慣れ、対応が明確になり、次第に楽になるのです。

これを打開するために必要なのは、攻撃の「深さ」を作り出すことだと思います。守備陣が引いた状況ですから、スペースはほとんどありません。狭いスペースをトメルケールハズスによって強引に突撃する手もありますが、相手を動かしてスペースを作る方が楽です。裏への動き、それに合わせて他の選手が手前に落ちる動きを組み合わせれば相手はつられてブロックが歪み、自然とスペースはできるのです。ここの作りこみのうまさが水戸には感じられました。水戸がポジショナルプレーをしていると言われる所以が分かったような気がします。

ただ一方で水戸のやり方には危うさも。SB、シャドーが高い位置まで顔を出し、時にはボランチも高い位置で攻撃に絡むため、どうしても後ろが手薄になるのです。特に水戸はヴェルディ等とは異なり、ボランチ+SHがビルドアップ隊に加わるためにビルドアップ隊の横幅が狭くなりがちで、SB裏のスペースが大きく空いてしまうのです。実際、新潟はこのスペースを起点にカウンターを展開しました。開始早々の得点が攻撃マインドに影響したことは間違いないですが、ネガティブトランジションへの備えは今後も戦いのカギとなりそうです。


こうして、見事な崩しから小川を中心にシュートまで持ち込みますがゴールは決まらず。新潟の選手が最後まで体を張り続け、ヒヤヒヤしますが何とか持ちこたえます。特にGK大谷は小川のシュートをことごとく止め、大リーグ実況者が「ビッグセーブ! オオタニサーン!」を連発するであろう活躍ぶり。

昇格レースで足踏みしたくない水戸は次第に攻撃のファイヤーぶりが増しますが、新潟は高さ対策も兼ねて貴章を投入し5バック気味に、さらに途中出場の至恩も前方でうまくタメを作ります。至恩はアディショナルタイムに時間稼ぎをするかと思いきや間隙を突いてドリブルを仕掛けPKゲット。これを沈めたレオナルドがさらに終了直前で前述の攻撃からこの日2点目。こうして内容に見合わぬ結果となったのでありました。


4.まとめ

試合後の吉永監督のコメントから。

われわれの守り方に対してそんなに崩されると思っていなかった。何度かサイドを進入される危ないシーンもありましたけど、そこは想定内で、チームとしてバタつかずにGKを含めてしのいでくれたと思います。やや進入された部分は見直して、改善していきたいと思っています。 ― 新潟 吉永監督

徳島戦、ヴェルディ戦等前線に人数をかけて攻める相手にはうまく守れているだけあって、守りの面での不安は少なかった模様。

両監督が言及していたのは先制点。

先制すればかなり勝率が上がると思っていたので、早いタイミングで取れたあの1点が大きかったと思います。 ― 新潟 吉永監督
入りが悪かったということになりますね。その1失点がずっとわれわれを苦しめた。そんなゲームでした。 ― 水戸 長谷部監督

新潟の守備の強みを考えれば、本当に大きな先制点でした。新潟が同点やビハインドの状況でどのように攻めようとしていたのかは気になるところですが…


水戸は本当にいいチームでした。面白い、ワクワクするような、そして理にかなったサッカーという印象です。これを見続けられる水戸サポーターがうらやましくも感じます。しかしサッカーは残酷なもので、内容やスタッツ通りにいかないものなのです(それは今期の新潟が示し続けています)。

先日のUCLトッテナムvsバイエルン・ミュンヘンでは両チームのゴール期待値(1試合中に撃たれたシュートが理論上ゴールになる数)はトッテナムのほうが上でした。


しかし結果は2-7。ゴールというのは理屈だけで生まれるのではない、ということを示しています。1試合1試合の中で生まれるゴールというのはいわば奇跡の連続によるものなのかもしれません。

そんな奇跡の連続が見られるシーズンも残りあと少し。ここまで5戦無敗のチームはこの勢いのまま走り抜けてくれると願っています!

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