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【工藤先生インタビュー後編】異質なものとの出会いが生み出す、新しい世界の見方|ALiveRallyインタビュー#8

今回のnoteは、国際教養大学(AIU)の2期生で、現在は准教授をしている工藤尚悟先生の過去に迫った記事の後編!前編では、研究キャリアや人生を大きく左右した、10代から学部時代にかけての海外経験についてお聞きしました。
後編では、南アフリカのクワァクワァと秋田を比較しながら、地域コミュニティについて考える「トランスローカルな研究」とは何か。また、そこで見出した「異質であること」の価値について聞いていきます。尖った経験を持つ人たちに憧れは感じるものの、目的から逆算して計画的に過ごすことも忘れない…普段はそんな風に石橋を叩いている人たちも、思わず波乱万丈な旅に出たくなってしまうかも…? 
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異質なものとの出会いからしか、新しいものは生まれない

ーーこれまでは、ホームスクーリングを終えて、ニュージーランド留学、その後のAIU生活についてお伺いしてきました。次に大学院以降のお話をもう少し詳しくお聞きしていければと思います。大学院後のご経歴を簡単に教えてください!

A. AIUを卒業してからも、研究を続けたいなとぼんやり思っていたときに、東大にサステナビリティ学という大学院プログラムを見つけました。そこで5年間で修士と博士を取得し、その後はそのまま東大の大学院で研究員と教員として勤めていました。

ーーザ・研究者ですね!大学院でも学部時代から引き続き、ブータンの研究をされていたんですか?

A. 大学院に入るときはブータンをやるつもりだったんですが、途中からテーマを変えて、国内の農村研究をするに至りました。私の研究自体は秋田を舞台に、「人口が減少・高齢化していくなかで、持続可能な地域コミュニティとは?」というテーマを深めています。現在は秋田と南アフリカのクワァクワァという2つの農村地域を研究拠点にしています。途上国のコミュニティ開発と秋田の地域づくりを繋げて考えています。

ーーなぜそのように捉えているのでしょうか?

A. 秋田の文脈で、持続可能な地域コミュニティのあり方を考えるとき、岩手、青森、高知など、国内で同様に過疎高齢化が進んでいる地域を見ていても、大したアイデアは出ないだろうなと。普段慣れ親しんだものとはまったく異なる、自らにとって異質なものに出会わないと新しいアイデアは生まれないと思ったわけです。

ーーなるほど。日本の地方と遠く離れた南アフリカの農村を繋ぐ発想は、とてもユニークで面白いですね。

A. そうですね。今まで社会の発展は、「秋田よりも東京、東京よりもニューヨークが進んでいる!」というように、直線的に捉えられてきました。この見方には、こっちが先進的で、こっちが後進的、というような先入観があり、秋田のような地域は先進地域から学ぶべき、という考え方を内包しています。しかし、こうしたアプローチで地域開発を進めていくと、やがて地域の多様性がどんどん失われていくだろうと考えました。なので、例えば秋田とクワァクワァのような、社会経済的にも歴史文化的にも同じ文脈にないがゆえに、そもそも直線上に繋げることができない場所同士をわざと出会わせる、ということをしています。僕はこの考え方を、「トランスローカル・ラーニング」と呼んでいます。

ーー新しい発想ですね!具体的にはどのようなことを研究されているんでしょうか?

A. 僕が一番見ているのは人々の移住と起業活動ですね。

ーーへぇ!そうなんですか?

A. はい。クワァクワァも秋田もそれぞれ「地方」とされる地域で、これらの地方社会が衰退する背景には共通して、若者の継続的な流出があります。でも最近の日本では、地方に移住して起業する人たちが現れていて、彼らに注目しています。実際会うと話もとても面白いです(笑)

ーーどう面白いんですか?

A. 昔は都市型の生活とかに疲れて地方移住とか、仕事や学業に失敗して仕方なく地元にUターン、というイメージがありましたが、今は全然そんなことはありません。むしろ自分の新しいチャレンジがしたいとか、自己実現したいとか。自分の創造性を発揮したいときに地方を選ぶ人が多い印象です

ーー知らなかったです。そのような変化が起こっているんですね。

A. はい。そういう人たちは、自分のキャリアや暮らし方にも柔軟な考え方を持っていて、例えば「家族とはこうあるべき」みたいな社会通念からも自由であり、自分たちの暮らし方を主体的に作っています。それって結構、南アフリカでも同じなんですよ。

ーーまさかの共通点!秋田とクワァクワァが繋がってきましたね。

A. はい。それから、南アフリカでも多くの若者が、クワァクワァから都会のヨハネスブルクに、仕事や教育の機会を求めて出ていくんです。これもまさに秋田から東京に若者が流出するのと同じ現象です。

ーーへぇ、面白いですね! 

A. 南アフリカが日本と違う点として、失業率の高さがあります。多くの人が安定した職業を得られず、だいたい5年くらいで地元に戻る人が多いです。そういう人たちが起業など、何か地域を盛り上げるような企てをするんですよ。必ずしも法人を作って会社を立てて、という感じではなくて、都市で得た経験をもとに「この地域にはこういう教育が足りないからやらなきゃ」とか、「こういうサービスがないからいつまでもヨハネスブルクの資本にお金を吸い取られるんだ」とか、そういうことを議論しているんですよ。

ーー東京も厳しい世界かもしれないですが、南アフリカはその上を行きそうですね。

A. そうです。クワァクワァは特に地域内の経済循環をとても意識していて、もっとローカルにいろんなことを回そうとか、ローカルプライドみたいなことを主張している人がいます。僕はそういう人たちのマインドセットに興味があって、2017年からそうした起業家たちを追いかけてインタビューしています。

ーーそういう起業家の人たちと話してみて気付いたことはありますか?

A. 起業家の人たちって人に会うことにすごく積極的で、話が好きな人が多いし、基本ポジティブですね。あとたぶん、一番大事なことは、異質なものに出会うってことですね。

ーーどういうことでしょう?

A. 効率的に目標達成していこうと考えると、だいたいどういう手順でやったらいいかって、想像がつくじゃないですか。それは課題でもテストでもいいし、「自分は将来〇〇になりたい」とかそういうのでも同じです。こういう考え方って、「自分がこうなりたい」っていう自分の中の考えが起点になっています。これだと基本的には、ずっと自分の考えの中に留まっていることになりますよね。だから私たちは今までの人生、今まで過ごしたこととか経験したものをベースにして将来を考えることしかできないわけです。けれど、人が本質的に変わるには、その考えの起点を変えなきゃいけないし、自分自身の思考の外側に出なきゃいけない。

ーーなるほど。

A. 自分の思考の外側に手っ取り早く出る方法としては、自分とはタイプが全く違う人、つまり「異質な人に会う」というのが大事です。そういう出会いがあることで、相手の話のなかから「そんな考えがあったのか!」とか「そういう見方があったのか!」というふうに、色んな気付きを得られます。何でも効率的に最短ルートでやっていこうとすると、こうした回り道のような発想が試せるような余白がなくなってしまうんですよね。

ーーそうですよね。意外とあえて余白を残したり、寄り道をしてみることからインスピレーションを得たり。それが一番の近道だったこともあったかもしれないです。

A. そうそう。起業家の人って今の社会で何が満たされてないかとかを考えてるわけですよ。でも、それを自分1人で見つけ出そうとしたって無理です。だから彼らはとにかく色んな人にどんどん会いに行くんですよね。そのようにして入ってきた情報ってすごいヒントなんです。新しい価値感とか世界の見え方とかって、異質なものに出会わないと絶対に生まれないですからね

ーーなるほど。でもそれって思っているよりも難しいかもしれませんね。ぼんやりしていたら、似たような人同士でつるんでしまうから。

A. はい、そうですね。同質な人と一緒にいると、あまり言い合いしなくてもいいのですごく心地良いわけです。でもそうすると新しいことには気付けない。だから、定期的に全然違うものに飛び込んでいくことはとても大事で、そこで得た知見を持ち帰ってきて、自分が所属するコミュニティに対しても自分自身が常に異質であり続けることも大事になります。

ーーなるほど。そう考えると工藤先生自身、クワァクワァと秋田を行き来することで、そのどちらの場所でも自分自身が異質であり続けていますよね。

A. これは会社でも一緒で、例えば皆さん就職して最初の3年程度は、とにかくその会社の仕事の進め方等を覚えて、組織に同化していくわけですよね。もし仮に、その先の5年10年もそのままそこにいたとすると、徐々にそれ以外の視点から世界を捉えることができなくなってしまいます。組織の内側に向かって閉じてしまうんですね。だからなるべく異質なものに出会うことによって、その組織にずっと所属するんだけど、自分は常に周りの人にも異質でいる、ということを大事にして欲しいと思います。

ーーつまり、「異質であれ!」ということですね!!


想像できることはするな

ーー最後にこれから留学に行く人や、何らかの海外経験を検討している人にメッセージをお願いします。

A. 僕のメッセージとしては「想像ができることはするな」ですかね。

ーーこれは刺さりますね(笑)もっと詳しく聞かせてください。

A. 何かこの国に行ったらこういうことができるだろうと思うことは、多分行かなくてもできます。どうして研究するかっていうと、「わかんないから」なんです。だからもうわかってることには興味がないんです、研究者は。

ーーなるほど(笑)

A. それって結構大事なことで、例えば「私は観光に興味があります。日本はこれから人口減少で地方でもインバウンドを受け入れなきゃいけないです。だから観光先進国であるこの国に行って、どうやってインバウンドプロモーションしているのかを見ていきたいです。」みたいな。一見すごくロジカルに聞こえますよね。でもこれってすごく直線的じゃないですか。全部自分の想像の範囲内ですよね。でも、想像がつくことっていうのは、もう知ってるんですよだいたい。

ーー確認しに行く作業みたいになっちゃいますね。

A. そうそう、なっちゃう。だからその通り確認しに行ってもいいんだけど、できれば、何か余白を残して欲しいですね。わざと何が起きるかわかんないようなことを計画しておく。

ーーこれはかなり勇気のいることですね。いやぁ、私これできるかなぁ??

A. いや、そこまで振り切れなくても、普通は観光学のメッカにいくところを、わざとずらしてマイナーな隣の国に行ってみるとか(笑)

ーーわざと、ずらしてみる。

A. はい。ちょっとでいいので、直感的に、何か偶然が起きそうなところに行ってほしいです!!!



編集後記
コロナ禍が訪れて久しい今、新しいものと出会うことは思っているよりも難しい。ただ、「本質的な変化は、居心地の良いコミュニティを出て初めて生まれる」という工藤先生の言葉にあるように、慣れ親しんだ場所から一歩踏み出すことの重要性を学びました 。
研究者として粛々と地域コミュニティと向き合う工藤先生ですが、この記事の取材に対しては、ざっくばらんにお答えいただきました。何よりも印象的だったのは、どのストーリーを語っているときも、目を輝かせて語る工藤先生!(笑)新しい場所で生まれる偶発的な出会いを心から楽しんでいらっしゃるのが伝わってきました。リスクや常識を軽やかに飛び越えて、自分の持つ好奇心に素直に耳を傾ける様子は、子どものときから変わっていないのかもしれませんね。
海外に行くことが現実味を帯び始めた今日だからこそ、あえて普段だったら選ばない場所にふらっと行ってみるのもいいのかも。工藤先生の「異質であれ!」のメッセージを受けて、ちょっとでもいいなぁと思ったそこのあなた。好奇心を存分に働かせて、心のままに旅をしてみては? 

Interviewer: Ayusa Haga / Ryohei Yamada
Writer: Ayusa Haga / Ryohei Yamada
#AIU #国際教養大学 #ALiveRally #地球の学び方 #旅



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