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53歳女のソロキャンプデビュー記録④スズメバチとバズーカとわたし

2021年9月某日53歳にしてソロキャンプデビューした。
タイトル画像は二日目の朝の写真だ。
構図とか、道具の配置とか、オシャレに見せる気がゼロだったなあと今気づく。
いや、そもそも絞り出してもオシャレは出なかったとも思う。

前々々回のnoteからソロキャンプデビュー記録を綴ってきた。

今回は、二日目の朝からキャンプ終了までの記録。


1、夜明けと消えたソロキャンパー

目が覚めて時計を見たら5時15分。
スマホで確認すると日の出は5時半だからあと15分で夜が明ける。

夜中は12時に一度だけトイレに行った。
傘をさして、ヘッドライトを手に持って。
大学生4人組のテントは宴もたけなわの様子だった。
女子トイレには綺麗な髪の女子大生4人がいて
気だるい様子で歯を磨いたりクレンジングをしたり。
トレーラーハウスからは若い男性グループの嬌声が漏れ聞こえる。
ああ、わたし、ここの平均年齢をひとりで押し上げてるな…と思った。

トイレから戻るとまた速やかに眠りの中へ。
何度かぼんやりと覚醒して雨の音を聞き、
「雨止まないなあ」と思ったような気がする。

5時半、テントから這い出すと、相変わらずの曇天と小雨。
息が白い!
9月なのに?

トイレに行き、顔を洗い、テントに戻る時に気がついた。
隣のソロキャンパー消えてるやん。
え?
いつ消えた?

確か日没後、わたしのテントの前を何度か通ったはず。
でも、車が出て行った記憶はない。
ソロキャンパー静かだなあ。
わたしより寝るの早いやん。
プロは仕事が早いんかな、などと思っていたけど
幻か?

そもそも日帰りデイキャンプの予定だったのか?
それとも、かなりの雨の量だったからタープ泊を諦めたのか?
もしかしてテントを忘れたとか?
考えてみればタープ泊するようなプロはこんなアマ向け高規格便利キャンプ場には来ないんじゃない?
意外と、テント忘れたなあ…って帰ったんかなあ?
いろんなキャンパーがいて、
自由にやってるんだなあとある意味感慨深かった。

2、スズメバチ戦争勃発

昨夜余らせた薪で、朝の焚き火を楽しもう。
オイルランタンの火もつけて、オイルを使い切ろう。
そう思ってテント前で動き始めたわたしの耳に
あの音が聞こえた。

スズメバチの羽音だ。

来たよ。
雨のせいか、暗かったせいか、夜の間は来なかったのに。
朝になった途端。恐ろしきシマシマ野郎。

20年ほど前、ベランダで鯉のぼりを片付けている最中にスズメバチに刺されたことがある。
鯉のぼりの中に入り込んでいたのに気付かず
スズメバチごと畳んでしまったのだ。
オオススメバチが自分の足に針を突き立てている姿は忘れられない。
「うわぁ、ほんまにスズメくらいデカいやん」と思ったことも忘れられない。
スズメバチをスリッパで叩き潰してもぶっとい針は足に突き刺さったままで、
震えながらその針を抜いたことも忘れられない。

その時は慌ててタクシーで日赤まで行き、処置を受けた。
医師からは
「2回目が危険なんです。アナフィラキシーが起こるかもしれません。
命に関わるので、次に刺されたら救急車を呼びなさい。」と言われた。
痛みと高熱で2日ほど苦しんだ。
その時からスズメバチはわたしの天敵なのだ。
とにかく、「次に刺されたら救急車」なのだ。

慌ててテントから殺虫剤を取り出す。
昨日フロントから借りた「ハチアブバズーカジェット」。
12メートル先の巣にも届くと書いてある。

常日頃「ピンピンコロリ」が希望で、
いつ死んでも思い残すことはない!と家族には言っているのだが、
いざとなると「殺られる前に殺る!」という気持ちになるのはなんだろう。

七輪で火を起こす間も手の届く場所にバズーカを置く。
すると、その七輪に寄ってくるやん、蜂!
バズーカ!
あ、火の上でぶっ放して大丈夫?引火する?
知らん!引火したら蜂も燃える?

フロントの人は、
「蜂は水を飲みにくるらしいんですよ」と笑顔で教えてくれた。
水って。
ほんまかいな。
めっちゃ雨降ってたから巣の周りも水浸しのはずやん。
なんでわたしのテントに水飲みに来るのよ。

火の世話をしながらも五感を継ぎ済ませて(嘘です耳だけです)
蜂の気配を(嘘です。羽音だけです)探す。
…聞こえる。
右斜め後ろ!
振り向いてバズーカ!
え?おらんし!どこ?
いやぁ、エプロンについてるぅ。
自分にバズーカ!
…むせる。。。

そこで改めて気がつく。
蜂、飛ぶなあ…。
バズーカの噴霧をふわりとかわすように姿を消すやん。
薬吸ってんの、蜂よりわたしでは?

よし、やぶ蚊バリアみたいにテント周りにバズーカバリアを作ろう。
テント周りをバズーカ噴射しながら一周。
…う〜ん。
風、
爽やかにバズーカの跡を消して行くよね…。
自然、強いね……

そんな中、焚き火もオイルランタンも順調に燃え、
まだお腹も空かないのでバズーカを抱いたまま手紙を書き始めた。
手紙を書きつつ、火の世話をしつつ、
しかし、常に耳は蜂の羽音を探してビンビンにアンテナを張っている。

少しでも羽音が聞こえると、耳を澄ませて方向を見極めてバズーカ!

わたしは目が悪くて、素早く飛び回る蜂を目で追うことも難しい。
バズーカは12メートル届くけど、わたしの目は12メートル先なんて見えない。
せいぜい3メートル先だ。
いる!バズーカ!
ふわり!全然当たらないじゃん!
全然気が休まらないよ!

以前見た映画「アメリカンスナイパー」を思い出した。
あの映画を見たときは、死んでいくアメリカ兵達に家族や友人がいたように、
敵のテロ組織の一人一人にも家族や友人がいるのだと思って
払いきれないモヤモヤや解決の術がないやるせなさが跡を引いた。

わたしのテントに寄ってくるスズメバチも、女王蜂や巣で待つ仲間のために
なんらかの働きをしているんだろうか、とも考える。

殺そうと思ってバズーカを振り回しても相手は軽やかに飛んで逃げる。
殺そうと思うのは意味がないかも?
「こっちに来ないで!」という作戦に変えよう。
寄ってきたら、身を守るためにバズーカを噴射して距離を取る。
それでなんとか乗り切ろう。
わたしにはスナイパーの才能はない。
護衛作戦に変更だ。

3,戦場で食べる朝食の味

雨が止んできた。
蜂さえいなければ最高に気持ち良いのに。
でも、だんだん間合いの取り方がわかってきた。
蜂が何匹いるのかはわからないが(見分けがつかないから)
寄ってくるのにある程度周期があるような気がする。

つまり、1回バズーカで追い払うと、10分弱くらいは平和な気がする。

「腹が減ってはいくさにならぬ」って言葉、人生で初めて使い時を迎えた。
呑気に焚き火調理なんてしてはいられない。
カセットコンロ出動だ。

家庭用のカセットコンロはダサいし風に弱いし、
ソロキャンプデビューには微妙だけど、この際便利が一番。
年の功で風対策も心得ている。
取り出したるは100均でも買える「天ぷらガード」。
これを風防代わりにカセットコンロ周りに立てて、
飛んで行かないように端っこをちょっとガムテープで止めておく。
完璧。

昨夜食べきれなかったアヒージョの鍋に
固くて不味かった肉を一口大に切って放り込む。
グツグツ煮込む。

熱々になったら、お湯を沸かして紅茶を入れる。
お湯が沸く前に欲望に負けてランチパックたまごを頬張る。
紅茶が出来上がる前に、
蜂!来ないで!
バズーカ!

適当に残り物を一緒に煮ただけだったが、
昨日噛みきれなかったオージービーフがオリーブオイルで煮込むことで
すごーくジューシーに柔らかくなって感動!
美味しい!
蜂!
バズーカ!

夜が明けても曇りで太陽が出ず、ずっと肌寒かったが、
温かい食べ物で体もほかほかしてきた。
焚き火と、美味しい料理と、あったかいミルクティ。
雨で洗われた空気は美味しいし。
早朝の森は鳥の声だけが響いて静かで。
ほんっとに来てよかった。
キャンプの朝、最高!
蜂!
バズーカ!

もう、鍋の中にもマグカップの中にも
殺虫剤入ってる気がするけど知らん!構わん!
バズーカ!

ん?周期早くない?
もしかして、蜂って匂いがわかりますか?
なんか、めっちゃ鍋に寄ってくるやん。
美味しそうなの?
あげないから!
バズーカ!

早食べには自信があるので、耳を澄ませながら朝食を平らげて、
食事関係の物を早々に撤収した。
水場に洗い物に行くのは面倒なので、
汚れた食器や鍋はキッチンペーパーで綺麗に拭い取ってゴミ袋へ。
アヒージョの残りの美味しそうなオリーブオイルも
キッチンペーパーに染み込ませてゴミ袋へ。
戦場の朝食は慌ただしいのだ。
バズーカ!

4、撤収と反撃

一晩雨に打たれたテントはびっしょり。
盛大に雨漏りしたタープはべじょべじょ。

昨日小雨が降り始めた時は「繁った木の葉が雨を遮ってくれているわ」
と感謝したのだが、
雨が止んでも風が吹くたびに木の葉から水がバラバラと落ちてくる。
良し悪しっていうことですか。

一応タオルを振り回して水滴を跳ね飛ばしたが、
テントもグランドシートも帰ったら天日干し必須だ。
汚れと水を適当に落として45Lのゴミ袋に詰め込む。

泥だらけになって撤収作業している間も、
一定の周期なのか気まぐれなのか相変わらず蜂はやってくる。
そのたびにバズーカで追い払う。

一度、気がついたらもう顔のすぐ横に蜂が飛んでいて、
思わず目を瞑って身を硬くした。
フロントの人は「こちらから攻撃しなければ刺されない」とは言っていた。
でも、反射的に手が動きそうになる。
うわぁ!と手で払ってしまいそうになる。
怖い!
息を止めて身をすくめて蜂が去るのを待った。
なんなん?
わたしの方が何倍も何百倍も体が大きくて力も強いはずなのに。
なんでこんなに怖がらせられるん?
悔しい!

その時、思い出した。
昔、夫の転勤で茨城県に住んでいた時、
近くの雑木林にいくつものスズメバチの罠が仕掛けられていた。
大きなペットボトルに細工をして、
中に焼酎とか酢とかが入っていたような?
殺虫剤も入っていたのかな?
その液体の中で蜂がたくさん死んでいたのを見たことがある。
やっぱり、蜂は匂いがわかるんだ。

わたしは、持ち帰るつもりでまとめていたゴミ袋を開いた。
アヒージョとチーズの匂いがする。
袋の口を大きく開いて匂いが出るように形を整え、
テントから5メートルほど離れた場所に置いた。
トラップになるだろうか?
ささやかな反撃開始だ。

トラップもどきが功を奏したのか、
その後は蜂との濃厚接触に身を硬くすることもなく撤収は進んだ。

そして、その時、
トラップの匂いに誘われてゴミ袋に入り込んでいく蜂を見たのだ。
考えるより先にバズーカを抱えてゴミ袋に駆け寄り、
上からすごい勢いで噴射した。
中でビビビビ…ともがくスズメバチが見えた。
もがく姿が怖くてさらに噴射!

スズメバチはすぐに動かなくなった。

あ、わたし、なんか今、
既に息絶えようとしている死体にむかって執拗に銃を打つ人みたいだった?
今、めっちゃ殺意持ってバズーカ打ってなかった?

自分コワ……。

蜂、ごめん…。
君にも家族がいたんだろうに。
ここで死ぬとは思ってなかっただろうに。

5、キャンプ場を去る

一匹の戦死者を出して、わたしのスズメバチ戦争は終結した。
その後、撤収が終わるまで他のスズメバチは寄ってこなかった。

フロントにチェックアウトに行き、
わたしを守ってくれた心強い武器バズーカを返却した。
戦死者一匹と報告した。
昨日と違うフロントマンは笑いもせずにバズーカを受け取った。

キャンプ場を歩いていて、かなり離れた場所で女性ソロキャンパーを見つけた。
わたしが買うのを諦めたチャムスの可愛いテントのさらに高いやつを張っていた。
タープも椅子もチャムスだ。
年齢はおそらくわたしと同年代。
でも、映え方が雲泥の差だ。

良いのだ。
映えるキャンプを求めてきたんじゃないのだ。
その証拠に、こんなにも充実感がある。
やりたかったことをやったぞ!という満足感がある。
泥まみれで殺虫剤くさいけど、良いのだ。

2時間後には自宅についていた。
晴れた空の下でテントを干した。
泥だらけのペグや七輪を洗った。
疲れていたけど、後片付けまで楽しかった。

帰り道や帰ってから数日間、
ソロキャンプの効用について考えていた。
それはまた別のnoteに書こうと思う。

53歳女のショボいソロキャンプデビュー記録はこれでおしまい。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。






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