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【連作小説】星降る国物語2 第一話 突然の星降り

前話

「お綺麗ですわ。ミズキ様いえ正妃様」
シュリンは深々と礼をした。
「やぁね。今更、正妃うんたらっていう間柄ではないしょう?」
「ミズキ様」
シュリンは涙ぐむ。
「あとはゆっくりとしなさい。この半年この行事のために女官達が一生懸命がんばってくれていたことは知っているわ。今日ぐらいどこか行きなさい」
「もったいない。この行事のために頑張ってきたのですもの。都をめぐる一列をどこからか見ますわ」
「仕事熱心ね。シュリンには次の仕事があるのよ」
「仕事?」
いぶかしげにシュリンは問う。
「この子よ」
そういってはミズキは下腹部を大切そうに撫でた。
「まさか。ややこが・・・」
「その通り。この子を育てていくのを手伝ってもらうのよ」
「もったいのうございます。私はかつてミズキ様を・・・」
「それは言わない約束よ。そういえばアンテはまだ来ないのかしら?」
とミズキが振り返った時アンテが人馬宮に入ってきた。
その手に古ぼけた小さな箱が一つあった。
「まさか。あれは・・・」
畏れ多すぎてシュリンは声が震えた。
「そうよ。星の石よ。私の次に幸せになってほしい相手に手渡すことにしたの」
シュリンは事の大きさに頭が真っ白になっていた。
「シュリン?」
「あ。はい。これは門外不出では。私がもらういわれはどこにもありませんわ」
「だから・・・」
ミズキが言葉を重ねる。
「この子を育てていく役目を重ねてもつあなたには事前に幸せになってもらわないといけないの。このままじゃ行かず後家よ」
「私はそれで構いません」
「強情なんだから。婚約者がいるのでしょう? なんでもフレーザー国の王位継承者じゃない。このままじゃ破談よ?」
「構いません。私には王族の生活は向きませんから」
失礼しますと踵を返した途端その婚約者が目の前の視線に入ってきた。
「セス。どうしてここに。ここは王と正妃様以外のいかなる人間も入ってはいけないはず」
「相変わらずシュリンは固いなぁ。もちろん王様たちに許可を得ているよ。早くその星の石をうけとって僕と帰ろう」
なぜそのことを知っているのかとシュリンは気にかかった。今の会話を聞かれた節は
ない。
「そういわけにはいかないわ。私は正妃様に命を注いでるいのだから。あなたと帰るなんて約束してないわ。婚約は父と母が離婚して破談になったはずよ」
シュリンは家族の不幸せな出来事を初めて口外した。
母についてこの国に帰ったシュリンは半年前つかまった遠縁の太政大臣の謀に巻き込まれていたのだった。
「僕が王様になったらそんなの構わないさ」
目が笑っていないとシュリンは思った。王になるためだけに石を得ようとしているのがわかった。渡してはならない。シュリンは固く心に決める。だがどう逃げればいいのか。アンテもミズキもにこにこと痴話げんかを見ているだけだ。幸せすぎてこの不自然な会話に警戒心がついてこないのだ。
「王。正妃様。そろそろ馬の時刻が・・・」
その時前王についていた先代右大臣の息子ユリアスが入ってきた。
どうしてだれもかれもこの星の宮に入れるのよ。浮かれすぎよ。
イライラとユリアスをにらみつけたシュリンはアンテの手から星の石を奪おうと手を伸ばしていたセスに気が付いた。
「アンテ様!」
「王!」
ユリアスと同時に星の石の入った箱に触れてセスから奪う。とたんはじけるように光が光った。
「なに??」
閉じた瞼にも光が飛び込んでくる。
「星降りよ」
ミズキがいう。
「これが・・・。って」
星の石を持っているのはほぼ初対面のユリアスとシュリンだった。
「どういうこと?」
「どうやら星の石はセスには向かなかったらしいな。残念ながら」
「アンテ様?」
「許せ。シュリン。星読みが不吉な予言をした。セス殿がこの国を襲うと。それを救うのはシュリン、そなたとユリアスだとな。試しさせてもらった。何。この国の民は二回目の星降りにただ私たちの祝福と勘違いして何も思わないだろう。セス殿には来て早々悪いがお国に戻ってもらおう。実際襲われたものではないから無罪放免だ。よかったな。セス殿」
くそっとセスが悪態をつく。
「この女が悪いんだ。さっさと来ればいいものを。覚えておけ。シュリン」
近衛兵に連れられながらセスは去って行った。
「でも。どうしましょう。この星降り。幸せな恋人たちに降るといわれているのに」
ミズキが考えながらいう。
「私とその男が恋人と?? 初対面なのに。嫌ですからね」
シュリンがぷいとそっぽを向く。
「とは言われてもなぁ・・・。ミズキ付きの女官もミズキだったか。恋愛についてはそっぽを向くのだな」
苦笑いしてアンテがいう。
「今は星降りのことどころではありません。早くお姿を見せないとまた宮殿へ国民が押し寄せます。今は馬で都をめぐることを先に」
ユリアスは動揺もせずアンテに告げる。
「わかった。シュリン。後でこの件はよいようにする。それまで勝手に動くことは許さぬ」
アンテは今日即位した。命令は絶対だ。空から降る星々を忌々しげに見上げると深いため息をついた。
「私は人馬宮におります。安心してください」
観念している感のシュリンの言葉にミズキが謝るように抱きしめると三人は行ってしまった。がらんとした大きな部屋の中にシュリンはただ取り残されたのであった。

「で、どうしてあなたと二人きりで一緒の部屋にいるんです?」
ここは城郭の中にある右大臣家である。あれから帰ってきたアンテに連れられて右大臣家に預けられた。しかもユリアスの私室に放り込まれた。明日の仕事はどうしたらいいのかまったくアンテは教えてくれなかった。
「さぁ。次男の私にはこの部屋しないからな」
アンテにあれほど丁寧に口をきいていたユリアスだが仕事以外になるとがらっと態度を変えた。やたら偉そうだ。
右大臣は男所帯に女気が加わることに喜んでいた。星降りの件を聞くとさっさと恋人解釈で早々に二人きりにさせた。初対面の相手にどうして恋心もてよう。一目ぼれというのもあるがシュリンはもともと用心深い。石橋をたたきすぎて割ってしまうタイプだ。
そんな自分に星降りが来るとは思いもよらなかった。名誉なことだが好きでもない男と星降りとは・・・。
とことんついてない自分である。
はぁと深いため息をつくとユリアスが眉をあげた。
「なに。何もしないから安心するんだな。一日目からべたべたする私ではないからな」
「こちらだってお断りです。明日の仕事に支障があるので私は休ませていただきます!」
と寝台を振り返ったが二人用ではあるが一緒に寝るのかと思うとぞっとした。それでも寝るしかない。勇気を振り絞って寝台に行こうとしてユリアスに遮られた。
「当分一人部屋を与える。こっちだ。寝間着も着ず寝るつもりだったのか?」
ユリアスの指摘に真っ赤になりながらシュリンはユリアスについていった。
ユリアスの私室の隣にも人ひとり寝られるような部屋があった。小間使いの部屋のようだったがこの際はどうでもいい。男と肩を並べて寝るのでなければ。
「じゃ。お休み。愛しき君」
ユリアスはすばやくシュリンの額に口づけをするとさっと私室に戻った。
シュリンはしばらく凍ったように固まっていた。
「ユ…ユリアスー!!」
気が付いたらシュリンはユリアスの名を叫んでいた。
隣の部屋でユリアスの馬鹿笑いが聞こえる。
シュリンはだっと通じているドアを開けると怒鳴った。
「私を落とすなら触れずに落とすのね!! 色ボケじじぃ!!」
「やだね。せっかく可愛い子とお近づきになれたんだ。口づけぐらいは許してもらいたいな。それともアンテ様に抗議するかい? あるいは正妃様に」
うっと口をつぐむ。
額に口づけされたぐらいで王と正妃の頭を悩ますわけにはいかない。これからは政務が二人を待っているのだ。その助けには自分とアンテ付きのユリアスが必要だ。おまけに右大臣はアンテの指南役だ。
「額ぐらいしか口づけしないよ。姫君」
姫君という言葉にシュリンはぎくとした。父はフレーザー国の王子だった。シュリンにも王位継承権があった。離婚でなくなったが。
「どこまでしっているの?」
真剣にという。
「アンテ様に聞いたことぐらいだよ。姫君という呼称が嫌なら何て呼べばいい?」
「名前で結構よ。いつまでもミズキ様付きの女官よ。それで以上でもそれ以下でもないわ」
「そうか。じゃ。シュリンお休み。アンテ様は指一本触れずに正妃様と恋に落ちたらしいけど私はシュリンのことを知って恋におちたい。星降りは間違いない。私たちは恋人にも夫婦にもなれるはず。それを信じているよ」
「能天気」
「今なんと?」
「だから頭にお花が咲いているといってるのよ。星降りなんてまやかしよ。きっと星読み様が術でもかけていらっしゃっただけよ。私は恋には落ちない。そんなことは許されないから・・・」
かつてミズキを殺そうとした自分をシュリンはいつまでも責めていた。ミズキに命をささげるとミズキの命が助かった時に誓ったのだ。そしてそのお子に。
「シュリン・・・?」
いぶかしげにユリアスがシュリンの名を呼ぶ。
「おやすみなさい。明日は早朝から星の宮に行くわ。一人で行けるから」
ぱたんと静かに扉を閉める。後を追ってくるのかと思えば真摯な表情にユリアスもからかうわけにはいかなかったのか。誰も来なかった。
「ユリアスの馬鹿・・・」
恋を捨てた女の独り言。本来なら手拍子叩いて喜んでいただろうがもう遅い。
自分はけがれている。罪で。
アンテもミズキも極秘にしているがいずれユリアスも知るだろう。
この罪深き女の存在を。
シュリンは寝台に横になると涙を枕でぬらしながら眠りに入って行った。
夢の中でシュリンは星降りの恋人の夢を見ていた。
幸せあふれる恋人。その中でも冷静な自分が無理よと声をかけていた。
地獄に落ちてしまえばいい。
自分は幸せそうにする自分に告げていた。
夢が割れていく。硝子の板が割れるように。
夢の中でもシュリンは泣いていた。そのシュリンの頭をだれかが撫でていた。
次第に冷たかった心に温かさが戻っていく。
冷たい夢はやがて亡き母との思い出の暖かい夢に代わっていた。
そして本当の星降りが起きるんだよと誰かがささやいていた。
シュリンはその声にすがるように深い深い眠りに落ちて行った。 


あとがき
はい。続きです。見出し画像のイラストがちょい、雰囲気変わってますが、bingで作った画像です。なぜかラノベ調にはなってくれない。女官姿も。プロンプトに問題があるんでしょうね。確か、シュリンの方が年下だったか、と思いつつ年上夫婦にしてしまいました。しっかり者だからいいよね。あとは「とびきり」がストック今日で終わるんですよね。続きどうしようかな。4000字が痛い。ちまちま書いていくしかない。今日、見直してあと一話で二部閉めようかな?三話三話でやっていくという。しかし、眠い。朝活はできませんでした。昨日より十時間以上寝るという状態です。無理やり起きて病院行ったけどしんどい。でも、更新がー。最近、疲れ目。頭痛がする。とびきり更新したら休もうっと。

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