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【連載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(58)

前話

 こうしてカロリーネお姉様と私とフリーデの三人の花嫁研修が始まった。もともと私とフリーデでする予定だったからそこへお姉様一人増えてもクレメンス様は困る顔一つなさらなかった。そして、毎日ややこしい昔の字を読まされる。もっとも私の生きていた時代よりは新しい。どっちの字にも慣れているから読みやすいけれど、お姉様はぶーぶー文句を言いながら読んでいた。フリーデは暗記してるらしい。恐ろしい侍女であり、初めての家族の姉だ。それに、私にはエレオノーラお母様の残してくれた花嫁の心得本が待っている。あれも同時で読んでいるけれど、あれをしちゃだめ、これしちゃだめ、のダメ出しばかり。新妻の心得まであって頭を抱えている。本当にお母様もこれを実践したのかしら。どうも違うような気がする。
「エミーリエ? エミーリエ!」
「あ。お姉様。居眠りしてましたか? 私」
「違うけれど、心ここにあらず状態だったわよ。ページはめくっていたけれど」
 
 え?! あ、よかったわ。無意識でも読んでいたみたい。内容は頭に入っている。

「エミーリエ様。少しお疲れでは?」
 フリーデが気にかけてくれる。
「大丈夫。考え事してただけだから。エレオノーラお母様の本ったら今習ってることよりも過激なんですもの」
「過激……?」
「エミーリエ。読んでもいいかしら?」
「あ。お姉様。読まない方が身のためです。頭が痛くなりますから」
 本を抱えて必死に説得する。文字も古い。
「そう?」
 興味深げな表情をしていたお姉様はすぐに元の学習に戻られた。

 ほっ。あれを読まれたら我が家の異常さが目に見えるわ。

『いくら逆上しても首にナイフをあてないこと』

 それ。お母様のことでしょーっ。こんな母の失敗談があちこちにある。幼いころ聞いた話ばかり。お父様とお母様の夫婦喧嘩なんて犬も食べないほどだもの。って、カロリーネお姉様がお母様の生まれ変わりだから、自分の失敗談を見直すだけかもしれないけれど、それでも今の私のお母様は王妃様だけ。やっぱり、カロリーネお姉様にあれは見せられないわ。ヴィルヘルムもあえて言わないのはそう言うことなんだろうから。首にナイフを突きつけられたのは母の父だったヴィルヘルム。どうやら本気で逆上して傷まで作ったそうだ。あの魔皇帝にナイフを突きつけたと宮殿を震撼させたそう。
「エミーリエ様、その抱えておられる本は預かりましょう。お困りのようですから。この国の花嫁のしきたりを覚える方が先です」
 学習の度合いを見回っていた教皇様が言う。私は心の底からほっとする。クレメンス様のところにあれば安心だわ。あっちもこっちも読んで頭が混乱気味でもあった。そして我が家の恥に一喜一憂していた。恋しい家族の遺品だけど、今はない方が自分のためだと思う。
「教皇様ありがとうございます。悩みの種だったのです。ここほど安全な保管場所はありませんわ」
「エミーリエ様も困っておられたのですね。さすがに逸話が入ったしきたりを読むと心臓に悪いでしょうから」
「それはもう。どれほど大変か。あんなに分厚く書くこともないのに」
「それだけ、ご心配でしたのでしょう。あの手紙には母御の気持ちがたくさん入っていますから」
 
 え?! クルトだけが読んだんじゃないの?

 ぽかんと見上げると教皇様は微笑みを浮かべた。
「クルト様が生まれる前までは私の管理下でしたから」
 その言葉に私の顔に火が付いたようにぼっと赤くなるのがわかる。あの、とんでもない娘のあれやこれやを書いた手紙をクルト以外が読んでいる。恥ずかしいとしかもういえない。
「大丈夫ですよ。手紙は母御の愛情がたくさん詰まっております。恥じる必要はありません」
「あ、ありがとうございます。教科書の学習に戻ります。これを……」
 抱えていたお母様の花嫁指南の本を渡す。教皇様はそっと持つと保管場所へ向かわれた。少し離した手が寂しかった。あると困るしないと寂しい。不思議な書物ね。また独りぼっち病が出ているのかしら。神殿をでたら、クルトの執務室へ行きましょう。あの優しいほほえみと大きな手が私をこの世界に引き戻してくれるわ。
 そう思うと、再びこの国のしきたりの教科書に視線を落とした。


あとがき
今書いてるところはもうこんな純情なところをあっという間に通り過ぎ、不穏な気配に包まれていますが、王様の過激な発言においおい、と頭の中で突っ込んでる状態です。クルト君は非常に優秀なので、安全な男なんですが、父様が突っ込む。おいおい。そしてクレメンス様も結託する。ここを書こうとしたけれど、もう寝る時間。腰も痛い。夜食が食べられなくなりました。そのため、早く寝る方がいい。処方された薬が、なんとも極道なことに空腹起床時に飲むこと、となり、おかげで夜九時以降は水分のみ。朝は三十分間絶飲食。あー。本を読むまでもなく強制夜食断ちです。健康になるね。ほんと。絶対数値が劇的に変化する。夜食がすごかったですから。ラーメン屋らうどんやらごはんやらパンやら炭水化物をこれでもかと食べまくってました。傾向が激しくなってきた今日にこの薬。もう、寝て忘れたい。でも執筆したいんだよね。でも、今を取り逃せば寝れないかも。気になるので続きが打てたら書いてしまいます。どうせ千字単位なので。ではここまで読んでくださってありがとうございました。

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