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【再掲載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(41)

前話

 私は暖かい光の中でまるでゆりかごに揺られているようにゆらゆらと誰かの腕の中にいた。
 どこからか懐かしい声がする。
「エミーリエ。つらいなら戻ってきなさい。この原始の海に。あなたは海の子。大地の子。天空の子。全てを手にできる者。全てあなたから始まり、あなたで終わる。あなたはすべての創造主であるとともに破壊者。原始の元へ戻りなさい」
 その声はお母様の声のような気がした。でも、違う。私の知っているお母様達の声では無い。反射的にクルトの顔を思い出した。
「クルト!」
 身を起こすと側でクルトが手を握ってくれていた。
「俺に何か用?」
「あ。不思議な夢というか何か幻のようなもののようなところにいてお母様じゃ無い母のような存在に戻ってくるよう言われて……。ここのお母様とも、眠る前のお母様とも違う、って思ったらクルトの亊を思い出して。なんだったの……。あれ……」
 自分が得体の知れない者に思えて自然と自分で自分を抱きしめていた。
「原始の海?」
 !
「どうしてそれを?」
「俺に今、エミーリエの聞いた声が流れてきた。俺も幼い頃に聞いたことのある声だった。君と俺は同じ感覚を持っていたんだよ。遙かなる時を越えて。だから声が聞こえるんだ。俺たちはもうとっくの昔に魔力を共有していたんだよ。今のでわかった」
「クルト……」
 不安な気持ちでクルトを見る。大丈夫、そう言ってクルトは私を軽く抱きしめた。青年の香りが鼻をくすぐる。
「俺たちは運命の相手だっんだよ。君が生まれたときから。ヴィーはそのために2400年も未来に君を送ってきたんだ。そしてまた生まれてきた。君を助けるために。いや、俺もかな? ヴィーは可愛いいい子だ。だけど、その心はいろいろな事で傷ついている。その心を癒やすのがフリーデなんだよ」
「そうね、おばあ様の魂だもの」
「そうなの?」
 知ってると思っていたクルトがびっくりする。
「え? ヴィーがどうしてフリーデにこだわっていたか知らないの?」
「それは初耳だった。なるほどねー。そりゃ、簡単に逃さないね」
「クルトは? 本当に私でいいの?」
「もちろん、君で無いとだめなんだ。ずっと夢見ていたお姫様だからね」
 そこで私は意地悪を言う。
「初恋は実らないのよ?」
「大丈夫。俺の初恋は母上だ。母上と結婚するんだ、って言いふらしていたらエミーリエの事をこっそり教えてくれたんだ。あなたのお嫁さんはこのお姫様よ、と。その時その伝えられてきた手紙を初めて見た。そして母上は俺が十六になるまで渡されないことになっていた手紙をそっと渡してくれたんだ。それで、地図をたどって君の屋敷に入った。そこには君が、すやすやと眠っていた。俺はその時から君にくびったけなんだよ。もっとも俺の母上への初恋を粉々にしてくれたのは姉上だけど、ね」
 嬉しそうに話すクルトが不思議だ。いつも嬉しそうにこうやって私を待っていたことを話す。クルトの昔話はいつも穏やかで大好きな話だ。
 でも。意地悪だったらどうしていたのかしら。
 私は不思議な想いでクルトを見つめていた。


あとがき
ここのネタの出場所は知りません。勝手に手が書きました。そして一気に学問が割り込む羽目に。しかも、心理学なのか神学なのかわからん出どころです。なぜか「原始の海」が……。もともと科学や生物学も好きですし、神学の知識もあるし、ユングの付け焼き刃もあるし……。どこで収まるのかわからなくなるこの話数なのでした。後始末、自分でつけないといけない。どうしたもんか。ラストはやや決まりつつあります。真ん中は欠落してますが。また埋めていく作業をしていきますね。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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