【新連載・ロマンス・和風ファンタジー小説】あなただけを見つめている……。 第一部 クロスロード 第十話 儚く消える智也の命
前話
智也は今にも起きて挨拶しそうな穏やかな顔で眠っている。形だけでも、と步夢は優衣と智也に婚約者の印を与えた。ベッドの上の智也は満足げだった。
そのまま、優衣と步夢は智也のそばで居眠ってしまった。日史と当騎はそっとしておく。日史は出て行き、当騎は椅子に座った。
その優衣と步夢の夢の中に智也が出てきた。
「やぁ」
「やぁ、って。内緒にするなんてひどいわよ!!」
步夢は抗議の声をあげる。
「ここへ来たときにはもう遅かったんだよ。少しの間、步夢を独り占めできた。それでいいんだ。今は、優衣がいるからね。それも短いかもしれない。優衣のソウルラヴァーが近くにいる。その人物がいずれ訪れる。そのときは、優衣」
名前を呼んで一拍おく。
「はい」
「その人と結婚してほしい。僕の初恋の人が初恋の人と結ばれるように。いや、セカンドラブかもしれないね」
「智也」
優衣はしゃくり上げていた。
「泣かないで。それより陽の石と陰の石は持ってるね。大僧正様の話をよく聞いて沙夜様を昏睡から目覚めさせてほしい」
「どうして、智也がその役目を?」
步夢が悲しげに聞く。
「さぁ。長老達から依頼があったんだよ。それに、君たちの明るい笑顔がもう一度見たかったのかもしれない。ここのところ、步夢はかたくなだったからね」
「私が智也を……」
「間違っても。自分が僕の今の状況に追い込んだとは思わないでほしい。石を探すときにはもう手遅れだった。手術もした。だけど、結局は取り切れないほど転移してたんだ。オペを中止されたぐらいにね」
「智也……」
步夢の頬に涙が流れていた。
「さぁ。目を覚まして。千輝が呼んでるよ。このままここに居ちゃダメだ。死者になってしまう。ここは死者が来ることができる準備の場所。君たちには使命がある。彼の地を助けるという」
「どうして、その名前を」
「占いにでただけだよ。詳しいことは步夢が知っているだろう? みんなを導いてほしい」
「私たちが……。智也!」
彼の地の民なのと聞こうとして靄が間にかかってきた。智也の姿が消えていく。
「智也!」
二人は顔を上げて起き上がった。当騎も寝ていた。
「姉様!」
悲鳴に近い声で優衣がモニターを指した。心拍が急激に下がっている。
「当騎! 起きて。智也がっ」
「なんだ? 脈か。智也しっかりしろ。このまま行くのか?!」
三人で智也の手を握る。
脈がどんど低くなっていく。
「日史を……」
步夢が言うが当騎が鋭い声で止めた。
「もう、ダメだ。見送るんだ」
「いやよ!」
步夢がそれでも日史を呼びに行こうとしている内に心拍数は零になった。テレビでよく見るようにピーッとは音はしない。消してあるのだ。日史が慌ただしく入ってきた。
「今し方?」
「一秒遅かったわ。智也いっちゃった……」
涙がぼろぼろこぼれる。幼いときからいつも仲良く遊んでいた。優衣も父も母も一緒に。おままごとをとして妻と夫の組み合わせを競った。あの幼い暖かな日が消えていく。流れていく。優衣は信じられないとでも見ていた。感情が飛んでしまったようだった。
「優衣?」
「はい?」
ああ。と步夢は心の中でうめく。しばらく優衣はこの喪失感と戦わないといけない。自分には当騎がいる。優衣の対の魂を持った人物を先に探さないと。
步夢が思っていると、日史が医者らしく、亡くなった時刻を告げる。そこはしっかりと医者だ。
「死亡診断書、書いてくるよ」
日史の声がつらそうだった。彼もここに来て智也と仲良くしていた。友達以上だった。
「日史! 大丈夫?」
步夢が自分の気持ちより日史を気に掛けた。それがわかった日史は少し口角を上げると手を上げて出て行った。それから智也の部屋は慌ただしくなった。これからお葬式の準備が始まるのだ。吉野家は神道でする。吉野神社の禰宜が呼ばれるだろう。吉野神社とはめったにつながらない。それが長い間のしきたりだった。そこに、またあの子は生まれ変わって対の魂と出会っているだろか。闇の巫の巫女と。当騎も闇の巫だが、記憶は薄れているだろう。これから、巫の現実が迫ってくる。吉野家の本当の姿。彼の地の光の神と闇の神に仕える巫として覚醒しなくてはならない。步夢は必死に記憶を引き戻していた。立ち尽くす步夢の姿を悲しみで動けないと勘違いしたのか当騎が手を取った。
「当騎……」
「大丈夫か? 顔色がかなり悪い。休んだ方がいい。当主としてすることがあるだろう? それまで休め」
「そうね。ちーちゃんとゆっくりするわ。お手のお代わりでもしつけるわ。当騎ありがと」
頬に軽くキスをすると步夢は出て行く。いつもの世界を拒絶する背中。優衣が背中に声をかける。
「優衣も来る? ちーちゃん。おなかすかせているわ」
「はい! 姉様」
背中にしがみつくように優衣が飛び込んでいく。二人の姉妹はお互いを支え合いながら智也の部屋を出て行ったのだった。
あとがき
重いです。このシーンは。しかし、通らなければならない道。我慢してよんでくださいまし。あとは、明るくなりますので。次話が葬式に言及しているので、最初は重いですが次第にだんだん明るい話題になっていきます。基本、この手の二次で、さらにオマージュにしてますが、この世界は重いです。あとは馬鹿にいちゃいちゃするか。どっちかに傾きます。執筆したいけれど眠いなぁ。一話だけ書こうかな。魚さんは消灯です。でも部屋に電気がついているのでコリちゃんはホバリング中。少しの明かりでも起きてるコリパンダ。でも夜中は寝てます。思い思いの場所に出て。あれ、夜中にトイレに起きて電気つけると見えるんで微笑ましいです。魚が熟睡って。白コリもそろそろ水替えか。一週間はあけないと行けないらしいのですが、その一週間が終わってる気が……。
とにもかくにもこの物語のこのシーンの智也の使命のあり方がうやむやなので、もうちょっとそのうち修正するかもしれません。智也がどうして石を探していたか調べるシーンとか入れた方がいいのかもしれません。ちょっと話の筋も変わるかも。
ということで、これを今日の久しぶりの更新とします。ここまで読んでくださってありがとうございました。