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【再掲載小説】恋愛ファンタジー小説:最後の眠り姫(46)

前話

「クルト」
 私が朗らかな声で廊下の壁を見ていた婚約者に声をかける。
「待たせたかしら?」
「いいや。……」
 クルトは口に手を当て止まっている。
「クルト?」
「あ。ヴィーじゃないけれど、綺麗すぎて固まった」
 まぁ、と私は声を上げる。
「花嫁衣装はもっと綺麗よ」
「じゃ、今から見慣れないとね。神殿で鼻血出して倒れるわけにはいかないから」
「もうっ」
 私は足でクルトを軽く蹴る。
「エミーリエはお転婆だね。花嫁勉強で苦労するよ」
「わかってるわ。お転婆姫だもの。フリーデに大人しくビシバシ鍛えられるわ。さぁ、エスコートしてくれるんでしょ?」
「もちろん」
 クルトが腕を出す。私はその腕に手をかけていつもの晩餐室へと向かった。
 
 蝋燭の明かりが雰囲気をもり立てる。だけど、そこでかわされている会話は実に現実的だった。
「どうすれば、カロリーネお姉様の恋を成就させるか、よね。と言うかムコ養子に入ってもらうか……」
「ああ。それなら、問題はないと思うよ。あの門兵、名前を偽っているんだ。父君は大臣の一人。それも政治の中核を担う大臣の息子なんだ」
「なーんですってー!!」
 がたっと立ち上がる。燭台が傾く。慌てて座る。クルトは倒れかけた燭台を元に戻す。
「エミーリエ。火事になるよ」
「ごめんなさい。で。その門兵ってカロリーネお姉様は正体を……知らないわね。でなきゃ、あんなに恋心を隠さないもの。門兵って、わざと偽っているのでしょう?」
「そう。父君が身分から大きな地位を得て出発するのと地味な地位から始めるのとは志が変わってくると、あえて、秘密裏に門兵から出発させたんだ」
「でも。あのまま門兵から偽りの名前のままには出来ないでしょう?」
 ああ、とクルトはスープを飲みながら肯く。
「手柄を立ててから身分を戻す予定だった。子爵なんだ」
 ふーん、と考えながら私もスープを飲む。
「身分的な釣り合いはあるけれど、どうやってお互い、って……彼はカロリーネお姉様をどう思っているの?」
「高値の花、とでも思ってるよ。でも、姉上も彼とよく話しているから遠からず、想ってるかもしれないね」
「じゃ、失恋という可能性も……」
「なくはないね」
 そんな、私は手の力を失ってスプーンを皿に落とす。
「エミーリエ。顔色が悪い。この話はまた後日にしよう」
「いいえ」
 私は強く言う。
「こうなったらカロリーネお姉様に告白してもらうわ!」
 また、私は立ち上がる。がたん、と燭台が傾く。
「だからエミーリエ。火事になるよ」
「いいわよ。もう一つ宮殿があるじゃないの」
 そう。私とクルトで一棟ずつ宮殿があつらえられている。どっちで生活しても問題はない。
「はいはい。じゃ、食事が終われば隣の小さな部屋で、作戦会議とでもいこうじゃないか。ほら。ちゃんと食べて。また倒れるよ」
 クルトは実にあっさりというと食べ始めた。私もどんな作戦があるのか、考えながら食べる。そこにロマンティックは落ちてなかった。これがいつもの私達なのかもしれない。ふっ、と微笑みを浮かべて私はパンをちぎったのだった。


あとがき
これ、最近書いた気もするけれど、ファイル作成の日時を見るとやはり前のもの。そして思惑が大きくずれるという。お相手の身分が昔考えていたのと今考えていたのとはまったく違ったという。案が大きく変わる。名前ももう一人分考えださないといけない。そして、教会と神殿がごっちゃになっている宗教形態。神殿で統一しました。でも教皇様と呼んでいるから、ごっちゃでもいいのかも。でも式は神殿で。あさってから「新」最後の眠り姫の原稿となります。書きたい今日だけど背中が激痛。姿勢がパソコン使っているときと通常の時が違うらしく戻すときに激痛が。肋骨の中の筋肉が痛むのでほぐすわけにもいかず。シップと痛み止めでこらえてます。しかし、見ておいてよかった。もうちょっとで大きな齟齬が生まれるところでした。また、新たな案が浮かんだので、それで一安心。試される真の愛。ってなところです。それではここまで読んでくださってありがとうございました。

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