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【新連載・ロマンス・ファンタジー小説】あなただけを見つめている……。 第一部 クロスロード 第四話 梅雨にやってきた居候とワンコの赤ちゃん

前話

「もう、梅雨なのね」
 屋敷内では長ったらしい姫巫女の装束を身につけた步夢が頬杖ついてつぶやいた。
「夏だね」
 影の薄い青年が答える。
「夏だね、て……。智也、あなたいつも夏前に体調崩すじゃないの。大丈夫なの?」
 頬が青白く見える。大丈夫だよ、と智也は儚げに答える。疑わしい步夢は額に手を当てる。
「あ。また熱だしてる! ベッドに戻って。優衣。吉野呼んできて」
「ええ」
 妹の優衣が飛んでいく。あの子には今は、婚約者も恋人もいない。好きな人が現れたらその人と、と言う条件で智也の婚約を受け入れた步夢なのだ。犠牲者というのは一人でいい。智也相手に犠牲者というのも失礼だが。彼もまた、当騎と同じ魂の持ち主。記憶だけが残ってる。
「さ。智也。部屋にもどって」
「もう少しここに居たい」
「あとで、薬を持って行ってあげるから。おとなしく戻って」
 不安げな步夢の声に仕方ない、と智也が立ち上がる。
「步夢。今日は、君にとって一番の日になるはずなんだ。それに立ち会いたい。熱が下がればまた、来るよ」
 智也は占術が得意だ。何が起こるんだろうか。
 智也が立ち去ると、優衣が顔色を変えて戻ってきた。
「姉様ー」
「なに、顔色変えて慌ててるの?」
「と、と……」
「まさか。当騎が来たの?!」
 步夢はもう一生会わないと思っていた恋人が来るとは青天の霹靂だった。どんなにあがいても智也がいるのに……。
「それと、赤ちゃんが……」
「赤ちゃん?! 当騎の子?」
「まさか。ワンコの赤ちゃんだ」
「当騎!」
 どうやら前世からの勝手知ったる吉野家総本家。あっという間にリビングへたどり着いたのだった。当騎の手の中で子犬がぴぎぴぎ言っている。
「体温が下がるとやばい。雨に濡れていたんだ。何か暖かいタオルとペットボトルにでもお湯をいれて一緒に温めてくれ」
「ゆ、優衣! お願い。この姿じゃ、何もできないから着替えてくる!!」
「ほんとに姫巫女なんだな」
「母の代理よ」
 素っ気なく答えると步夢は自室へ戻る。衣が何枚も重ねて着る装束は重たいし、暑苦しい。夏になると夏用のものに変わるがまだ衣替えは終わっていなかった。
「こんな重苦しいもの。お母さんはよく着てたわね」
 今も昏睡状態の母に思いを飛ばす。だが、小さな命の危機に思いを振り払うと部屋を飛び出る。
「優衣! 当騎! 大丈夫?」
「次は、子犬用ミルクを飲ませないといけないんだろうが、ここに医者はいないのか?」
「もちろん、いるよ。新しい居候君」
「一!」
「今度は日史、と読みが数字だよ。犬用のミルクもあるからこっちへおいで。步夢。真」
 前世の名前で呼ばれてとっさに当騎は名前を返した。日史がにっこり笑う。
「かっこいい名前だね。一騎当千から取ったんだね」
「ああ。兄はカズチヨなんて、時代劇めいた読みだ」
 くすくす当騎が笑う。こんな彼は初めてだ。長い転生を繰り返してきた仲だが、こんな当騎みたいな人間は初めてだ。
「さ。ぐずぐずしないで居候は当主様のご機嫌取りをするんだね。行くよ」
 日史は步夢と当騎の手を引っ張る。子犬を持っている優衣も一緒について行く。途中で智也が出てきた。日史が二人の手を離して智也に歩み寄る。その背中越しに步夢は聞く。
「熱、下がったの?」
「証拠品」
 体温計の温度は下がっていた。仕方なく、うなずく。
「これを予知していたの? これが一番なんて」
「そうだよ。出会い直して恋が始まるんだ。当騎、後で話がある。子犬の件が収まれば部屋に来てほしい」
「わかった。智也も来い。逃げる必要はどこにもないんだから」
「ありがとう。じゃ、この子のミルクを飲ませる係にでもなるよ。昔、犬を飼っていたからね」
「智也!」
 進んで難事に首を突っ込もうとする智也に步夢の叱責が飛ぶ。
「もう遅いよ。姫」
 さっさと日史のそばに追いつくと何事かを話し始めた。その声はなぜか聞こえない。結界でも張っているのだろう。そうやって力を使うから命を削ぐ。步夢は智也が今にも倒れるのではと気が気でない。
「智也には智也の考えがある。そっとしとけ」
「あなたにいわれたかないわよ!」
 勝ち気な瞳で言い返す。
「ツンデレの次は勝ち気か。なんだか乙女ゲーしてるみたいだな」
「何とでも言えばいいわ。子犬が元気になれば帰ってもらうからね。犬ごと」
「はいはい。どこへでも行きますよ。姫巫女様」
「当騎!」
 ふざけた発言に步夢が怒る。步夢と当騎は優衣を中心にして追いかけっこを始める。
「姉様。と、とうき……。犬の件が先では……」
 言われてはっとした二人はおとなしく日史と智也の後に続いた。


これ、マガジンまだ作ってないんですよ。どこまでつづくかわからないので当分様子見です。考えていたところに近くなってきたので、これ以上はもしかしたら固まるかもしれません。訳あり姫に戻れるか? でも、これも楽しく書いてます。ネタは山ほどあるので。突っ込める過去の出来事なんですが。シーズン7ともなればマンネリ化してるのでいろいろ衝撃告白など盛り込むんです。シーズン6では当騎が「別れてくれ」といきなり言ったもんですから、步夢もそのお返しなんですよね。実際はともあれ。だが、当騎はものともしなかった。あの、步夢のショック具合は何だったんだろう。と、シーズン7の名前で表記してます。6がばれると嫌なので。ま。書ける内は書きます。智也が哀れなんですが。それもたまには。ぐだぐだ作品ここまで読んでくださってありがとうございました。

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