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【再掲連載小説】ファンタジー恋愛小説: 気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (5)再編集版

前話 

 その日、私はウルガーの急襲を受けた。
「ゼルマ。産まれたよ! はい。女の子の子犬!」
「ん? ぎゃー。何しに来てるのっ。まだ夜着のままなのにっ」
 ごん、と鉄拳制裁を出す。
「落ちるだろう? ほら。この子だよ。名前つけてあげて」
「って。産まれたばかりの子連れてきたの?」
 私は呆れて物も言えない。
「そうだけど?」
「お馬鹿ね。お母さんのミルクを飲んで離乳食が始まってからが飼うときよ。お母さんから引き離したら可哀想じゃないの。お腹も空いてみゃーみゃー言ってるじゃない」
「あ。そっか」
 急に我に返ってウルガーが言う。
「産まれたのがあんまりにも嬉しくて」
「我が子が生れたら親馬鹿ね」
「当たり前だよ。この子だって我が子同然だよ。親犬をいつも散歩に連れて行ってるんだから」
「とにかく早くお母さんに戻してあげて。子犬を頂くのはもう少し後にするから」
「そうだね。その方がいいね。ごめん。嬉しくて突撃してしまった」
「お馬鹿さん。その平和な頭がうらやましいわ」
 ゼルマ? と怪訝な顔でウルガーが見る。
「何か悩み事ある?」
「さぁ?」
「さぁ、って」
「いろいろ思う事はあるけれど全てうまく行ってないわ。そこまで聞けば十分でしょ。着替えるから、自室に戻って」
「ここ、俺の自室だけど?」
 ぴきっ。
「もっかい拳骨食らいたい? 子犬が保温できなくて死んじゃうわ。これで暖めて」
 もう冬の朝だ。私の身を包む上着を渡す。
「ゼルマはいろいろ知ってるんだね」
「お母様が子犬が欲しいってずっといってたのよ」
「そうか。またあとで来る」
 そう言ってウルガーはまた戻って行く。今度は大事そうに子犬を抱えて。
 まだ目も開かないうちに持ってくるってどういう神経なのかしら。それだけお父様のことを心配してくれているのはわかるけれど。どんどん、ウルガーに惹かれていく自分がいた。だれが、あんなへたれ王太子なんかとっ。その言葉とは裏腹になにか暖かい気持ちになっていた。
 服を着る。この国の冬は身に堪える。お父様の体力を奪わないといいけど。朝食もまだなのに、私は隣のお父様の部屋に行く。アルバンがベッド脇に座っていた。
「どう? アルバン?」 
「今日はまだ目を覚まされていませんが、このように微笑まれています」
 父の寝顔は幸せそうだった。子犬を見ればどれほど嬉しいだろうか。慎ましい生活をしていて子犬は結局飼えなかった。それを今度は飼える。お父様どれほど喜んでくれるかしら? そんな気になって見守っていた。
 あの子の名前どうしようかしら? 女の子っていってたわね。お母様のミドルネームか新たにつけるのもいいわね。お母様のミドルネームはヘレーネ。あとはベルタなんてどうかしら。そんなことをつらつら考える。アーダが大急ぎでやってくる。
「姫様。こちらでしたか。いつもの時間に来てもいらっしゃらないからてっきり・・・」
「家出でもしたと思った? お父様を残してはどこにもいかないわ。安心して。朝餉ね。部屋へ戻るわ。お父様、またね」
 それが父の最期の微笑みとは私はまだ知らなかった。

朝餉の途中で、アルバンが飛び込んできた。真っ青な顔にすぐに異変を感じた。
「旦那様が!」
 それだけですぐに通じた。
「お父様!」
 そこには何時もの医師とウルガーがいた。ウルガーが首を黙って横に振る。
「ウソでしょう? お父様。私を置いていかないで・・・」
「まだ、意識はある。かける言葉があるならかけてあげて・・・」
 私はお父様の体にしがみつく。
「お父様。お父様は私の幸せが自分の幸せといったけれど、私の幸せはお父様の幸せよ。大好き。忘れないで」
 ゆっくり父の手が伸びて頭に乗った。まだ暖かい。ゆっくりと撫でられる。すまない、と言われているようだった。
「お父様、逝かないで。私を一人にしないで」
 だけど、その手は無情にも頭から落ちた。医師が死亡時刻を告げる。
「いや。いやよ。お父様。ゼルマを一人にしないで」
 こんな時、人はわーわー泣くと思っていた。だけど私の目から涙は出なかった。こんな親不孝はいない、と思った。それを見越したウルガー言う。
「感情が追いつて来ないだけだ。その内悲しんでいいと言う日が来る。それまでゆっくりして。ゴメン。子犬間に合わなくて」
「ウルガー」
 見上げるとウルガーが辛そうにしていた。そっと抱きしめる。
「苦しまないで。お父様は、安らかに逝けたんだもの。きっと、天国で子犬と遊んでいるわ」
「優しいね。君は。どこまでも。泣いていんだよ。人に見られるのが嫌なら、庭で泣かせてあげる」
 ウルガーが手を引く。引かれるままに寒い冬の庭にでる。そこでまたウルガーにすがって泣いた私だった。涙がどんどんでる。心はカチコチに凍っていた。冬の庭にカチコチの凍った心。これほどぴったりなものはないだろう。ただ、ウルガーの体温がただ、ただ、人のぬくもりを伝えてくれていた。すがっていたい気持ちを押し込めていう。
「あなたが風邪を引いてしまうわ。戻りましょう。お父様の葬儀をしなきゃ。お母様のお墓に一緒に眠らせてあげなきゃ」
 あまりの出来事に私の感情は置き去りにされていた。だけど、今はお父様の骨をお母様の墓の隣に眠らせてあげないと。その思いで一杯だった。だけど、部屋に行こうとした私の手をウルガーが引き留める。
「今、父君の顔を整える人が来ている。それを終えてから見てあげて」
 すぐにわかった。人は死ぬと死後硬直や弛緩がでる。そのため、整える人達がいる。その時間が今、起きているのだ、と。
「どんなお父様でも見てあげないと」
 再び歩き出す私を今度は何も言わず引き留めないウルガーだった。なぜ、こんな知識があるのかはこの物語に入り込む前に知っていたのだろう、とは予測はついたけれど、そんなことどうでもよかった。少しでも父の側にいてあげたかった。私が元の世界でなんという名前でどんな家族を持とうと、セルマ姫にはこの父しかいないのだ。それだけで戻る理由は十分あった。

お父様の簡単な葬儀が終わり、正式な葬儀と遺骨をお母様のお墓の隣に、と希望すれば、願いが叶った。再び、船上の人となった私はウルガーと共に故郷へ帰ろうとしていた。港から船を下りる。そこには王室の馬車が止まっていた。
「ウルガー?」
 言外にどういうことか、と尋ねるとすらすら答える。
「父君の領地は今は国王領だ。埋葬の手続きと王太子とその正妃候補が来国するとなれば、王室も放っておけないそうだ。面倒なことにね」
 彼も、この今更ながらの優遇に馬鹿馬鹿しいと思っているようだった。
 行き慣れていた王宮に行く。そこではずらりと使用人が頭を下げて
列を成していた。大層な事だこと。ため息をつきそうになって慌てて抑える。一応は王太子妃候補なのだからお行儀良くしないといけない。
 正面に国王夫妻、そして王子には嫁いだ妻と並んでいた。ただ、その王子の目が健全な目というよりかは好色的な色をしてたのに気づく。正妃を貰ってさらに欲しいのかしら? 不思議に思っていると、そうかもね、とウルガーから返事がこそっと返ってきた。
「だから君には触れさせたくなかったんだ」
 ウルガーはそれだけ言うと国王と握手をしに行く。私は後ろでひかえていると王子が声をかけてくる。
「久しぶりだね。ゼルマ。向こうの生活で困っていることはない?」
「大丈夫です」
 ただ、そう答えた。下心が見え見え。よくもまぁ。正妃も正妃としていられること。この調子では側室に二人や三人はいそうだ。ほんの少ししか時間は経っていないのに、周りは激変していた。つくづくあの王子と結婚しなくて良かった、と思う。
「今夜は王宮に泊まることになったよ。ゼルマ」
 国王や王子が王宮に入り出すとウルガーが手を取って言う。ここで痴話げんかしている場合ではない。それにウルガーはあの王子に比べて非常に普通だ。拒む必要はなかった。手を取られるぐらいで失神するわけにもいかない。慣れたもんだ、とも思う。手を取られるのも嫌だったのにあっさり鞍替えした私の方こそ不埒者かしら、と思う。
「どうしたの? ゼルマ」
「なんでもないわ。ただの物思いよ」
「ならよかった。この手を骨折させる方法でも考えているのかと思った」
「骨折したい?」
 ちろん、と隣のウルガーを見る。
「まさか。君にそんなこと出来る・・・はいはい。したくないです」
 剣呑な光を浮かべるとウルガーはすぐに白旗を上げる。言葉遊びみたいなものだ。こんな風にして私とウルガーは絆を深めていた。父がお墓に入れば、逃走も可能だ。だけど、あのアーダ達を悲しませるのは、と二の足を踏んでいた。それに新しく入ったフローラ。片言で一生懸命、話してくれる。どこかの偉い貴族の娘らしいけれど。お姉さんと何時も呼んでいた。フローラの存在は大きかった。家族を失った私にまた家族が生れたのだから。だから、逃走に二の足を踏んでいた。もっとも、あの華の宮の警備は鉄壁だ。突破する気力はなかった。物思いにふけっているといつの間にかウルガーと二人きりで部屋にいた。ベッドが二つ。
「ちょっとっ。どーして同じ部屋なのっ」
 二人きりなのを確認して私は早速、ウルガーにかみついていた。


あとがき
「星彩の運命と情熱」の話数が減ってきたので、また書ける日に増やしたら掲載します。一応、面白い所なんですけどね。今。楽しみしてください。
こちらも、結構人気のようで。よく読まれています。昔書いた話の方がうけるってなんだか不思議。エンドレスでハプニングが起きる話ですけど。いつまで経っても結婚できないこの二人。婚約式はやったんですが。結婚式が延び延びでウルガーさんは、嘆いてばかりという状態です。でも、と書きかけてネタばれまたしそうだったので止めました。結構昨今の出来事も含まれています。と書いておこう。またプレガバンの性か、寝不足かで眠いんですが、ふらふら感はないです。ああ。買い物に行って、昼食調達しなきゃ。あ。体重も量り損ねていた。マリーのアトリエremakeを買ったので少しここに来るのが遅くなりました。なかなか最初のチュートリアルで苦労して。地図もないし。攻略本もないので過去のクリアした記憶を頼りにしています。無制限モードでちゃかちゃかとしてます。期限付きは攻略本なしではむずい。内容も少し変わってる気がするし。絵が何よりも見にくい。3Dになってるんですが、苦手な絵で。とマリーはどうでもいい。しばらく、これが流れます。よろしくお願いします。ここまで読んで下さってありがとうございました。

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