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【千字掌編】十五夜はダイヤモンドの月……。(土曜日の夜には……。#22)

「ひさしぶり。やっぱりここで月を見ていたんだね」
 彼はそう言って優しいほほえみを浮かべていた。
「何年になるかしら、ね」
 と私。彼はとうに遠くに行った人だった。なのに今頃会う。さぞかしかわいい奥さんと子供がいるんでしょうね。
「今日は君にこれを渡したくて来たんだ。二十年前の……いや、もっと昔の約束を果たしに……」
「二十年前……?」
 思い起こせばあの日もこんな満月だった。彼は去っていった。ただ、それだけ。それにしてももっと昔の約束って……。
「君にとびきりの宝石の指輪を送るって約束した。それが手に入れられる身分になるまでずいぶんかかった。ようやく約束が果たせる。手を出して」
 彼は私の左手を取ると薬指にとんでもなく美しいダイヤモンドの指輪をはめた。月明かりを反射して奇麗すぎた。
「これ、買うだけのために二十年前、別れたの?!」
 ああ、と彼は答える。
「じゃ、今も……」
「独身だよ。迎えに来るのは遅かったかな?」
「いいえ。いいえ」
 言いながら私は涙という水をこぼしていた。
「玲ちゃんに涙は似合わないよ。あの日もこんなお月様の日だったね」

『玲にあのお月様取ってきてくれたら、結婚してあげる』
『わかった。あのお月様のようなすごい指輪探してくる!』

 遠い日の家族団らんの中での約束。
「あの時、お月見団子食べていたわね。今もあの和菓子屋さんあるのよ」
「ほんと? もう閉まっているかな?」
「特別セールしてるわよ。今日限りの月見団子だもの」
「じゃ、買いに行こ」
 もういい年なのに、言葉だけは若返っていた。恥ずかしくなった私の手を彼は取る。そうやってバージンロードまで歩かせる気だ。
 ようやく独身でマンションでも買おうかと思っていたのに。

 土曜の十五夜はいつまでも明るかった。まるでこれからの人生を照らすかのように……。


あとがき
今宵は例のシリーズ土曜日の夜には……。のみで失礼します。抜いた水草の行き場を考えていると結局、ファイヤーテトラ五匹を衝動買い。店員さんも二週間ろ過機を回すというのをぶっ飛ばしても大丈夫とのことで水合わせと初日のご飯だけあげない、という鉄則をまもっての導入。こまごま分けた水草投入。大本はミニ水槽にて増やし中。アヌビス・ナナなので細かいことは必要なし。あとはライトぐらいつければ。ろ過機も回したので。白濁もだいぶ取れた。ゲンちゃんに水泡があるきがするんですけど、42時間で治るって書いてあったけれど、一週間はめどを見ておこうかと思ってます。三日ごとの水替えして。元気になってくれている子もいるので。ただ、ホバリングがないので心配してます。
で、他の話の更新は明日より。土曜日は、シリーズがあれば、そちらを優先します。しかし、なんのコメントだったんだろう。意味のないコメント。迷惑なんですけどねぇ。もちろん、対応済み。意味のあるコミュニケーションをしましょう。

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