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『ガンダムデイズ』で読む80年代ガンプラ史(6)

『ガンダムデイズ』(小田 雅弘)

前回からの続きです。

 フリーランス編集者安井尚志氏をプロデューサーとして、バンダイがシリーズ化したMSV(モビルスーツバリエーション)

 それは、アニメーション「機動戦士ガンダム」を原作としつつ、アニメ本編に登場しないバリエーション機体を、書籍と模型で展開するという画期的な企画でした。

 第一作は、当然のように「1/144 MS-06RザクⅡ」(高機動型ザク)!

 このキットにおいて、何よりもまず、目がいくのがパッケージのイラストかと思います。(プラモ的にはボックスアートと言います。)

 なんと、ザクが背中を向けちゃってます!

 同型の同伴機が奥で正面を向いているとはいえ、大胆な構図!おそらく、ガンプラに留まらず、プラモデルのボックスアートにて、こんな構図は稀有かと。

 このキットのボックスアートを手掛けたのが、石橋謙一氏。

 そして、石橋謙一氏の起用は、小田さんの発案なのです。(石橋さんは、MSVより以前に、『戦闘メカ ザブングル』のボックスアートにおいて、リアルな情景イラストを描かれているので、バンダイ側も、候補として考えていた可能性は高いと思いますが)

 こうして、MSVのボックスアート、本来的にはミリタリーイラストレーターである石橋謙一氏と上田信氏が描いていくのですが、ホント、もうね、カッコいいんだ。子供の頃、痺れまくりましたよ。

 石橋氏の画集『METAL HEART』のインタビューから抜粋しますと…

それまでは全部自分のアイデアで描いていたんですが、あのシリーズ(←MSV)から、初めてマニアの人のアイデアを入れて描くようになったんです。まあ、それによる苦労もありましたけど、考え方に幅が広がって、良かったと思いますね。

 ←ここでいる「マニアの人」というのは、当然、小田さんをはじめとするストリームベースの面々の事だと思われます。

あの頃は、本当に描くのが楽しくてプラモデルのイラストとして、ダメといわれているような描き方に、あえて挑戦していたんですね。06Rを後向きに書いたりしたね。

 ←まさに、これですよ。ご本人も反則である事を分かって描いているというw

 さらに、パッケージの中には、小田さんによる06Rの機体説明が、これは是非、再販の際に、実際のキットを手に取るか、あさのまさひこ氏の著書『MSVジェネレーション』のP107からの全文掲載を読んでいただきたいのですが、本当に痺れる文章ですよ。最初だけ抜粋すると…

MS-06ザクⅡは、全てのモビルスーツの基本であり、これをベースにあらゆるザクのバリエーションが生まれた。当初空間戦に使用されたザクにはA、CタイプがあるがAはほんの少数が生産されただけで、生産ラインはCタイプへの受け継がれた。外見上の際はほとんど無いが、コクピットの開閉システムが異なっていた。続くFタイプではパイロット側からの意見でコクピットの改良とペイロードが一部変更となった。
 優れたパイロットを擁護するのはいつの世も同じだが、ザクでも一部の要請に応じて機動性の高いモデルを生んだ。推進エンジンの出力を3割アップしたSタイプである。これは指揮官用として百機余りが作られたと言われている。さらにザク本体自身の性能向上を図るためエンジンの推力を倍にアップし、増速用ブースターを設けたRタイプが作られた。このRタイプはコストの問題を大きくかかえたためと、パイロットの練度の低下から少数が生産され、一部の熟練パイロットに使用されるにとどまったが、燃料搭載量を増大化しR09タイプと試験選定で争ったR-2タイプもある。…

 はい、これでまで、5分の1程度なのですよ。

 やりすぎだよ

 それにしても、実在する兵器の体で書かれている解説、ホント、たまらない。

 また、現在の宇宙世紀シリーズの基本設定の一部が、『GUNDAM CENTURY』をベースにしている事は、今や多くの方がご存じと思いますが、その受容には、実はMSVというクッションがあると僕は考えています。『GUNDAM CENTURY』で生まれた設定の芽を、小田雅弘さんをストリームベースのメンバーが、MSVというコンテンツの中で、ミリタリー色を強める形で、より強固に、詳細に、展開させていき、それが『機動戦士Zガンダム』に取り込まれたのかと。

 さて、こうしてはじまったMSVは、1984年12月発売の「1/100 パーフェクトガンダム」まで34作のキットが生み出されました。

 そして、アニメ続編である『機動戦士Ζガンダム』( 1985年3月~)にもMSV由来の機体が登場するなど、原作アニメにも、『GUNDAM CENTURY』設定と共に、史実として取り込まれ、宇宙世紀シリーズの骨格の一部となっていきます。

 いや、ホント、すごい時代です。

 その後、「MSV」という手法は、様々なガンダム作品のプラモ化に際し、実は何度も企画されるのですが、残念ながら、初代MSVほど、濃いコンテンツとは実りませんでした。勿論、そこに関わった人達も、懸命だったと思いますが、初代MSVのおける、あの時代故の特異性(ユーザーの渇望、「ミリタリー畑生まれ・アニメ育ち」のマニア達とそれを認める企業の度量)は、再現できる事ではないと思います。

 初代MSV自体も、一部の人気機体が、かろうじてMG(1/100)で展開され続けたものの、ガンダムファン全体からすれば、やや忘れられたコンテンツとなっていた時代もあったかと感じます。

 その不遇の時代において、下記のゲームらがMSVを推してくれたお陰で、コンテンツとして風化せずに済んだのは、ゾンビ映画のそれと似ていて、個人的にはとても面白い現象。

『機動戦士ガンダム ギレンの野望』シリーズ(1998年~)
 『機動戦士ガンダム 戦場の絆』シリーズ( 2006年~)

 さらに『機動戦士ガンダムUC』 (原作2007年~/アニメ2010年~)において、「ZZ」のMSと並んで、MSVをフィーチャーしてくれた事も大きく働いたのか、今では、MSV起源のモビルスーツ達の1/144プラモデルが、再び、新作として発売される事が普通の時代が再び来てしまっております。いやいや、嬉しいなぁ!

 また、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』のアニメ版をベースに、現在進行形の『MSD』(Mobile Suit Discovery)のプラモデル企画も、一定以上、成果を出しているようです。名前の通り、現代によみがえったMSV企画ですね。『ガンダム・センチネル』(←MSVの後継というだけの企画でないのですが)や『ADVANCE OF Ζ 』(←こちらも、MSVというよりは、正確には、ポストセンチネルと思っていますが)等を除けば、初代MSV以来の成功かも知れない。

 さてさて、話を締めくくる為に、初代MSVに話を戻しましょう。

 安井尚志氏という怪物のような名編集者によるレールがあったとはいえ…

 大学生・高校生のモデラー集団が、

 モビルスーツに対する自分達の妄想を、

 大河原邦男氏本人にメカデザイン発注し、

 時にはラフデザインを自分で描き、それをクリナップしてもらい、

 ボックスアートを発注し、

 設定は自ら詳細に書き込んで、

 バンダイのプラモデルとして、具現化してしまった訳ですよ!

 なんという奇跡!ホビー漫画かよ!

 勿論、安井尚志氏の力、や、バンダイ側の理解とリスペストがあってこそですが…

 モデラーの、モデラーによる、モデラーの為のプラモデル!

 そんな奇跡が起きてしまったのです。

 そして、その奇跡の真っただ中にいた小田雅弘さんによる自伝が、『ガンダムデイズ』。めちゃくちゃ面白いです!けして、ガンダムの名前にぶら下がった本じゃないです。オススメです!

 という訳で、やっと完結できたw

 さてさて、こうして、MSVに、全国のガンプラオタクとオタク予備軍たる子供達(オイラも)が、目を輝かせていた80年代。もう1つ、「モデラーの、モデラーによる、モデラーの為のプラモデル」が生まています。

 それには、原作となるアニメ作品も存在しません。

 1人の天才が超スピードで作り出す模型自体が原作です。

 天才が生み出す造形を原作とし、天才自らの監修の元、インジェクションキットが作られ、全国、そして、世界に、流通されてしまうという奇跡の模型企画!

 その名は…

『S.F.3.D』(現在名『マシーネンクリーガー』)!

 このお話はまたいずれ。

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