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『ガンダムデイズ』で読む80年代ガンプラ史(5)

『ガンダムデイズ』(小田 雅弘)

 前回からの続きです。

 1980年7月からスタートしたガンプラは、1982年末には、フィルム未登場の設定のみが存在する水陸両用モビルスーツを商品化する状況にまで、万策が尽きてきた!

 そして、誕生するのが…

MSV(モビルスーツバリエーション)

 1983年4月発売の「1/144 MS-06RザクⅡ」(高機動型ザク)をスタートとし、1984年12月発売の「1/100 パーフェクトガンダム」まで、34体のプラモデルは、アニメ本編に出自をもたない、オリジナルのモビルスーツの模型化です。

原作にメカがないなら、作ってしまえばいい!というとんでもない企画なのですが、更にとんでもないのは、「MS-06RザクⅡ」をはじめとするオリジナル機体の多くが、バンダイが発注してデザインされたものではない事えす。

 実は、のちにMSVとされる機体の数々は、安井尚志氏・氷川竜介氏が児童向書籍の為に、メカデザイナー大河原邦夫に発注したイラストが源流なのです。

『劇場版機動戦士ガンダム アニメグラフブック』(1981年4月)

 テレビマガジン別冊のこのムックにて、大河原邦夫氏によるイラスト・ザクバリエーション4点(湿地戦用、深海作業用、砂漠専戦用、航空機迎撃用)が掲載されます。

「雑誌編集者がアニメの公式メカデザイナーに、アニメに未登場の、より兵器感のある機体バリエーションを発注する」

 という、今の時代から考えると目を疑う企画!

 この「未登場機」というアイデアを、氷川氏と大河原がどちらが主体となったかは、両人、相手を立てる形でコメントが異なるですが…まあ、なんか、もう、そんな奇跡が起きてしまったのですよ。

 このムック以降も、講談社を中心とした書籍用に、モビルスーツのバリエーションイラストが発注されていくのですが、その立体化もまた、バンダイによる公式プラモデル化の前に、前述の「HOW TO BUILD GUMDAM」(1982年5月)にて、きっと改造作例として掲載されています。この制作はストリームベース。

 講談社からスタートしたオリジナル機体を、ホビージャパンのムックが立体化を掲載するというw 実に大らかだなw ただ、この辺は、関係者が重なるので、まだ、分かります。

 ただ、「プレMSV」ともいうべきこの流れの中で、別出版社・別編集者による『GUNDAM CENTURY』(みのり書房)にて、作られた設定も借用していくのは、いやいや、ある意味、仁義なき戦いw

『GUNDAM CENTURY』のMS開発史にあった「文字情報だけのザクのバリエーション設定」(C型・F型・J型・R型等の型番はここから発生)を元に、安井氏は、あるデザインを大河原邦夫に発注します。1982年2月末の『模型情報3月号』と同年3月の『機動戦士ガンダム REAL TYPE CATALOGUE』(講談社)にて掲載されたイラストこそ…

「黒い三連星専用 MS-06R ザクⅡ」なのです!

 曲面で形成されたザクに、直線で構成された強化パーツを取り付けるというフォルム!アニメ作画と枠から解放されたディテール!ホント、たまらないデザインと思います。

 特出すべきは、この段階で、安井氏の元に活躍するのが小田さんをはじめとするストリームベースなのです。文字情報だけであったR型の具体的な形状・機能を、ミリタリー知識を有したモデラーの視点で考察し、大河原さんに発注したのが小田さん達です。(氷川発注による最初の4体こそ、ストリームベースは関わっていないのですが、以後の発注のどこかの段階から、ストリームベースがかなり主体的に関わったと思われます。)

 さらには、「HOW TO BUILD GUMDAM 2」(1982年5月)には、ストリームベース自らによる06-Rのジオラマが掲載。

 1/100 小田雅宏製作
 1/144 川口克己製作

MSV(モビルスーツバリエーション)というプラモデルは、すごく意地悪な言い方をすれば、安井尚志とその懐刀ともいうべきストリームベースが進めてきたムーブメントに、バンダイが乗っかった企画なんですよ。

 特撮サークル「怪獣倶楽部」出身のフリーランス編集者の安井尚志
 模型サークル「ストリームベース」の学生メンバー

 オタクが企業を動かしてしまう、そんな熱い時代を、当事者である小田さん自身によって語られる。それが『ガンダムデイズ』なのです。

 なお、MSVに関しては、あさのまさひこ氏による名著『MSVジェネレーション』が詳しいです。『ガンダムデイズ』と一緒に読むと、2倍面白いですよ。

 さてさて、MSVに関する事はもうちょっと書きたいので…

もう少しだけ続くのじゃ


『ガンダムデイズ』で読む80年代ガンプラ史
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