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【小説】5度目の朝は、キミの隣で寝かせて。(3)

「行ってくるね。」

私は玄関で足早に靴を履き、勢いよく家を出た。気をつけて行くのよという母の声が背中から追いかけてくる。

母のおかげで私の心は晴れやかだった。顔を上げると、私の心と同じくらい雲一つない秋晴れの空が広がってる。莉奈にもう一度謝って、今日こそ私の気持ちを伝えよう。そう考えただけで鼓動が早くなる。

頭の中で浮かべた言葉を、消してはまた浮かべた。波打ち際に書いた文字を寄せては引く波に掻き消されようと何度も向き合う子供のように、私も莉奈への思いと向き合っていた。

物思いに耽ながらいつもと同じ道をとぼとぼと歩く。小さな商店街を抜け、路地に差し掛かった時、いつもと違う景色があった。

莉奈がいた。

私は驚きのあまり小さな声をあげてしまい、思わず足を止める。民家の灰色の外壁が、ぽつんと立つ莉奈の透けるような白い肌を余計に際立たせていた。

「…莉奈?何してんの?こんなとこで」

鼓動が早くなる。学校で謝ったあと気持ちを伝えようと考えていた私は、まさかこんな所に莉奈がいるなんて思いもせず、戸惑いを隠せなかった。

「キミを待ってたの」

莉奈は淡々と言った。昨日と同じで3年間もまともに話してなかったのに言葉一つ一つがどこか冷たい。

「そっか…ありがとう。あの、私…」

まだ心の中が大きく波打ってる私は自分の考えをうまく言語化出来ずにいた。

風でなびいた長い髪を左手で抑え、莉奈は私に眼差しを向けてくる。いつもそうだ。莉奈の一点の曇りもない綺麗な瞳をみていると私の中で流れていた時間が止まる。頬が熱くなっていくのを感じた。

「昨日はほんとにごめんなさい。私思ってもないのにひどいこと言っちゃったから。」

いきなり頭を下げた梨奈に驚き、咄嗟に私も同じように謝った。少しの間、沈黙の時間が流れる。

「話したいことがあるの。キミには知っておいて欲しいことだからついてきて。」

唐突に放たれたその言葉に、思わず目を見開いてしまう。

「えっでも…学校は?」

口を閉ざしたまま歩き始めた莉奈に、私はついていくしかなかった。言われるがまま、莉奈の後ろをとぼとぼと歩いていく。

閑静な住宅街を抜け、林道に出た。高々と生い茂る木々の間を柔らかな陽がまだらに注ぎ、光のカーテンのようなものを作り出していた。触れることは出来ないが、そこを通り抜ける度に私は何か温かみと柔らかさのようなものを感じた。
鳥はさえずり、ヒグラシは歌を奏でてる。命の灯火を最後の一瞬まで燃えたぎらせようとするように。必死に歌を奏でていた。

「ここって…」

見覚えのある景色が目に映り、すぐにその場所を理解した。莉奈は歩みを止めることなく歩き続けていたが、やがて足を止める。周りには墓石が立ち並び、私達の目の前には竹内家之墓と刻まれた墓石があった。

「莉奈の家族の…」
私はぽつりと呟いた。

お墓を悲しげに見つめていた莉奈が、私に眼差しを向ける。さっきまでそよいでいた風が嘘のように私達の間を冷たい風が吹き抜けた。

「そう、私の家族のお墓。全てはここから始まったの。」

私は莉奈に視線を向けた。なんとなく目の前にいる莉奈は、私の知ってる莉奈でもなく、窓越しにずっと景色をみつめていた3年間の莉奈でもないように私は感じた。

「…始まったって何が始まったの?」

真っ先に浮かんだ疑問を咄嗟に口にしていた。

莉奈は私の目をじっとみたまま、空に向けて立てた人差し指を口元につけた。

「今からあなたに話すことは、信じられない話かもしれないけど全て実際に起きている現実なの。私が話終えるまで一切質問をしないで。分かった?」

私はこくりと頷く。

「まず私はあなたの知ってる莉奈じゃない。」

静かに、波一つ立たない凪のような口調で莉奈は言った。あまりにも荒唐無稽な言葉を唐突に言われ、私はほんの数秒前にした約束を破り口を開いてしまう。

「どういうこと?意味が分からないんだけど、私の知ってる莉奈じゃないって…じゃあ私の知ってる莉奈はどこなの?」

梨奈は私に冷たい瞳を向けたまま、静かに胸元に手を置いた。

「質問は無しって言ったわよね。もう2度としないでね。それとあなたの知ってる莉奈はここにいる。」

莉奈は再び胸元に手を置く。私は頭の中で次々に浮かぶ疑問を必死に掻き消し、その姿を黙って見てた。

「正確には体内というよりもっと深い場所なんだけど、それは取り敢えず後でいい…。」

「3年前の今日。私はこっちの世界に堕ちた。この世には、平行世界といって幾重にも枝分かれした世界が無限に広がってるの。その内の一つから私は飛ばされて、あなた達の住む世界に堕ちた。」

「ヘイコウセカイ」私は莉奈の発した言葉を頭の中でうまく変換出来ずにいた。そんな私を察したのか莉奈はため息をこぼし、墓石の前に落ちていた空き缶に指を指す。

「あれを拾って。」
私は一瞬躊躇ったあと、空き缶を拾いあげ莉奈に渡した。

「ね。キミは今、私に空き缶を拾ってと言われ空き缶を拾いあげた。でも、拾いあげないという選択もあった。そうでしょ?」
私は小さく頷く。

「選択肢はaとb。でもこれくらいじゃ何も起こらない。だけど…私が今すぐ死んでと言って、例えばだけどキミが死を選ぶとすると、さっきの空き缶とは全く違うことが起きる。」

「この世のシステムにたとえほんの小さなことでも影響を与えかねない事象が起きると、世界は分かれるの。選択肢aとbに。この場合キミが生きてる世界とキミが死んでいない世…」

我慢が出来なかった。頭に浮かんだ疑問を少しでも処理しないとパンクしてしまいそうで、私は莉奈の言葉を遮る。

「そんなの、私が死ぬか生きるかだけで世界が分かれちゃったらどれだけ世界があっても足りないんじゃないの?」

莉奈は頷く。「そう、きりがない。だから数十年に一度、システムが処理するの。一瞬で何千何万もの世界が消える。そしてたまにエラーが起きる…。」

「聞いたことない?忽然と人が消えたり、何もない場所から突然物や魚が降ってきたり。現実とは思えない出来事があったって。私は、その内の一つなのよ…。エラーで弾かれ、こっちの世界の私の肉体に魂が定置してしまった。」
莉奈はそう言い切ったあと、悲しげに竹内家のお墓をみていた。

「莉奈は、こっちの世界に元々いた莉奈は大丈夫なの?だってエラーが起きたら駄目なんじゃないの」

私はこの突拍子もない話を何故か心から信じ始めていた。確かにあの日以来、莉奈は変わってしまったから。私の知ってる莉奈じゃなかったから。

「大丈夫よ。まだちゃんとこの中にいる。でも家族は駄目だった…」

悲痛な表情を浮かべ、しゃがみ込んだ莉奈の肩を私は咄嗟に掴んだ。

「家族は駄目だったって何?どういうことよ!」

呼吸が徐々に荒くなった私は、言いようのない感情が心の中から沸々と湧き上がるのを感じた。

「私がこっちの世界にきたことで修正が入った。死ぬべきはずじゃなかった人が死んだってことよ。私の…せいでね。」

莉奈は顔を下に背け、小さく肩を震わせていた。私はもう何も言えなかった。ただ莉奈の放った言葉を理解しようと呆然と立ち尽くすだけで。

空を見上げ、今にもパンクしてしまいそうな頭を必死に整理する。高まっていた鼓動をなだめ、息を整えた。徐々にクリアになった頭の中で、欠けていた何かがカチリとはまる音がした。

全て繋がった。3年前の今日、京都での旅行中に突然莉奈は倒れた。あの時にもし、今の莉奈がこっちの世界に墜ちてきて同時に莉奈の家族が亡くなったのだとしたら?

莉奈の倒れた時間。
救急車でなり続けた携帯。
同じ時間帯に起きた二つの出来事。

そして、私がずっと抱えていた違和感。

あの日以来、莉奈は変わってしまった。
まるで別人かのように。
それはずっと私のせいだと思ってた。
私が莉奈の心を殺してしまったから…でも、そうじゃなかった。考えれば考えるほど全ての辻褄があう。刹那、全身の毛穴が開くのを感じた。

「そんなっ…」
私は両手で口を抑え、確信した。莉奈が話したことは疑いようもない事実で、その渦の中に自分もいることを。

両手に力が入る。爪の跡が残るほどに拳を握りしめていた。もう抑えられない。心が叫ぶのと同時に、私は泣き叫んでいた。

「…して…。返してよ。私の知ってる莉奈を返してよっ!」

目の前にいる莉奈の肩を掴み、力の限り身体を揺すった。
「お願いだから……返して。」
手に込めていた力を緩めたと同時に、私の頬を涙が伝う。刹那、足の力が抜け落ちたのを感じた。私は莉奈の家族の前で、力無く膝から崩れ落ちていた。

「ごめんね。必ずあなたの莉奈は返すから。絶対に救ってみせるから、今は私を信じて。」

一瞬、ぼやっと滲んだ視界の先で、どこか悲しげで寂しそうな表情を浮かべた莉奈がみえた気がした。

莉奈の言葉に私は一度頷き、手の甲で目元を拭った。もう私には何か言葉を発する力は残されてなかった。
頭の中を、心を、整理するのでやっとだった。はらはらと流れる涙をこの世界の重力に任せるだけで、ただ空を見上げた。

自分のことをちっぽけな存在だと思ったことは何度もあった。莉奈の家族が、私の大切な人の家族が、亡くなってしまった時だって、世界は何一つ変わることなく、時計の針は止まることなく進み続けていた。所詮私達は、70億分のいくつかに過ぎない。無力で弱いちっぽけな存在だと思っていた。

でも、この世は私の想像を遥かに超える広さだということが今日分かった。別の世界からきたという私の知らないもう一人の莉奈に、そう告げられたのだ。

そして、やっと動き始めたと思った私と莉奈との時間は、また止まった。

*

茜色に染まる空を背中に浴びながら、私は一人歩いてた。

頭の中は、私の限界をとうに超えぐちゃぐちゃだった。勿論心の中も。

‾‾‾‾‾ここから始まったの‾‾‾‾‾と莉奈が言ったその場所で、私はこの3年間向こうの世界から来た莉奈がどんな気持ちで過し、今までどんな人生を歩んできたのかを全て聞いた。

莉奈は、向こうの世界の莉奈は、自分の世界では28歳で宇宙航空学の博士号を持つ研究者だった。

私達の住む世界より科学も技術も遥かに進んでいて、研究の過程で平行世界についても調べていた為、この世界で目覚めた時、すぐに自分の置かれた状況を理解することが出来たと聞いた。

病室で目覚めた時、最初は人生に絶望したが元の世界に戻る手段を模索し始めた。私やクラスメイトと一切の人間関係を絶っていたのは、その為の時間を少しでも長く確保する為だったと聞いて、心から納得してしまう自分がいた。

でも、肝心のこの世界に元々いた莉奈をどうやって取り戻すのかは教えてくれなかった。何度聞いても彼女は、淡々とこう答えるだけだった。「時がきたら教える。どの道あなたの手を借りないと、この世界の私は取り戻せない」

私は、頭の中で何度も莉奈が言った言葉を反復させる。どれだけ考えても疑問が膨らみ続けるばかりで思わずため息を溢してしまう。

「もう一人の自分か…」

夕陽に照らされ足元に生まれた自分の影をみて、ぽつりと呟いた。明日学校で何がなんでも莉奈を取り戻す方法を教えてもらおう。そう心に誓った私は、夜の帳が降りてすぐに眠りについた。

だが次の日、莉奈は学校に姿を現さなかった。

私は心の中で湧き上がった言い様のない感情と胸騒ぎで吐き気がした。もしかしたら私に秘密を打ち明けたことで、この世界から消えてしまったのかもしれない。今までなら絶対に浮かばない考えが、頭の中を埋め尽くす。明日は絶対にいるはず。と微かな希望を胸に翌日を迎え、教室の扉を力いっぱい開けた。

ガタンという音と共に教室に入った私に、クラスメイトが一斉に私に眼差しを向ける。
私はその眼差しを掻い潜るかのように莉奈を探す。

窓際の最後列の席。いつもの席に、いつもの様に莉奈はいた。

ほっと胸を撫で下ろした私は、いつもの様におはようと声をかけた。すると、莉奈は窓越しに向けていた視線を私に向けて、ただ一言おはようと言った。

まさか学校で莉奈が話してくれると思わず私も驚いたが、それよりも衝撃を受けていたのは周りにいたクラスメイト達だった。

「《白銀の王女》が喋った…。あんな声なんだ」囁き声がいろんな所から聴こえる。

莉奈は一通り周りを見渡したあと笑みを浮かべた。そして席から立ち上がると、クラス中の視線が一斉に莉奈に向けられていた。

莉奈は一度深呼吸をして、静寂に包まれた教室に音をおとしていく。

「みんな、今まで何年も生意気な態度をとってほんとにごめんね。これからは心を入れ替えるつもりでいます。だから、明日からの私は別人だと思って仲良くして下さい。お願いします。」
締めくくった莉奈は、小さくお辞儀をして再び席に腰をおろした。

みんな呆気にとられていた。勿論私もだ。莉奈だけは満足そうな笑みを浮かべ、いつものように窓越しに景色を見始めた。

いつもと同じはずだった一日は今までと全く別のものになり、私は終始ふわふわとしていた。放課後、私の方から声をかけようと思っていた所、莉奈から声をかけられた。

「話しがあるの…」

ただ一言、昨日と同じように。
一つ違ったのは、昨日とは比べものにならない程に淋しげな表情を浮かべていたことだった。私は一抹の不安を抱えながらも、莉奈に連れられ学校の屋上へ向かった。

時刻は17時過ぎ。屋上には私達だけしかおらず、静けさが漂う。茜色の空の下、校庭でランニングしているテニス部の子達の掛け声だけが遠慮気味に私達の鼓膜に届いてた。

先に沈黙を破ったのは莉奈だった。

「お墓の前でキミに約束したこと覚えてる?明日……この世界の私を取り戻す。」

フェンスにもたれたまま私に眼差しを向け、決意にもとれるような強い口調で言葉を放った。

「どうやって?」

首を傾げ不安な面持ちを浮かべる私を横目に莉奈は屋上の用具入れの扉を開き、中から黒色のボストンバッグを取り出した。

「これを使う。」

バッグの中から何かの機械を両手で持ち上げた莉奈に、私は視線を反らせなかった。
それは、今までみたこともないような機械だったからだ。金属製の箱で、両端には何かのメーターがついており、聴診器のようなものを先端に付けた銅線が箱から4本伸びている。

「なんなのこれ?」
私は思ったままの疑問を口にした。

「一種の変圧器のようなものね。家庭レベルの電圧を一瞬で人体に多大な影響を及ぼす電圧まで引き上げることが出来るの。昨日はこれを作るだけで大切な一日があっという間に終わっちゃった。」

慣れた手付きで機械を調整しながら莉奈は続ける。
「そしてこの端子を私の身体につけた後、キミが身体に電流を流すことで、この世界の私を取り戻せる。私の計算通りならね。」

一瞬で身体中の血が沸き立つのを感じた。

「……なに言って…そんなこと」
「出来るわけない?」

莉奈は私の言葉を引き継いだあと、冷たい眼差しを向けてくる。

「本気で言ってる?私はこの3年間何もしてなかった訳じゃない。何万通りも計算して元に戻る手段を探した。もうこれ以外方法はないの。」

「それに…」そう続けた莉奈の顔は悲痛な顔に歪んでるようにみえた。

「キミにはまだ言ってないことが一つある。私の計算だとこの肉体はどの道、明日までしか持たない…」

莉奈の吐いた言葉は刃の雨となり、次々と私の心を突き刺した。地面に向けて抗う力が少しずつ奪われ、もう立っていられなかった。力が入らなくなった足をくの字の形にし、膝に顔を埋めた。

「持たないって…どういうことなの…?」
泣いてることを悟られないように、必死に普段通りの声を発した。

すると、陽だまりとも思えるような温かい感触が私の髪の毛を撫でていく。

「今の私の肉体は二つの魂が同時に存在してる状態なの。それだと肉体は耐えきれず、いずれ朽ち果ててしまう。
肉体と魂と精神は三位一体、どれか一つでも欠けてはならないし増えてもならない。リミットは明日の日の出。日の出と共に私の心臓は止まる。」

莉奈は冷静だった。淡々と吐き出す言葉はあまりにも辛い現実なのに、磨ガラスの向こう側で起きる事かのように話し続けた。

「本来この肉体は、元々この世界にいた私の方が結び付きは強いはず。だから私の心臓が止まり魂が離れたと同時に、その機械で再び心臓を動かせば肉体には元の魂が自然と定着するはずなの。そうすれば、あなたの莉奈はこの先も生きていける。」

「だから分かって?あなたに辛い思いをさせてるのは分かってる。でも、私もあなたと同じくらいこの世界の私を救いたいの。」

「………。」私は思わず莉奈の胸に飛び込んだ。私だって莉奈を救いたい。でも、目の前にいる莉奈を見捨てるようなことなんかできない。なのに私は無力だ、何も出来ない…。渦巻いた感情が心の中で嵐となり、私の目から雨を降らせた。土砂降りの雨を。

「キミは、ほんとにいい子だよ。」
梨奈は私の身体を抱き寄せ背中をさすってくれた。それが、とても温かくて柔らくて思わず泣きじゃくった顔をあげた。
夕陽は茜色に染めようとしてるのにも関わらず、莉奈の肌はそれすらも許さない程に白く透き通り、陽の光を纏っているかのようだった。
その横顔があまりにも綺麗で、私は思わず息を呑んだ。

「真っ直ぐで、ずっとこの世界の私のことを気にかけ思ってくれた。この世界の私がキミのことを好きなことも分かる気がする」

私は咄嗟に顔をあげる。
「莉奈が…私のことを好き…?」

「そうよ。ずっとね。私はこの肉体に魂が定着したことで記憶も引き継がれたの。だから分かる。キミ達は互いに惹かれあってるの。」

考えてもみなかった。いつか私の気持ちを莉奈に伝えた時に、気持ちが通じ合えばいいなとは思ってた。でも、既に私のことを好きでいてくれたなんて…私は身体が熱くなるのを感じた。

「はぁ…。やっと言えた。それだけがずっと心残りだった。私はキミの気持ちに気付いてたけど、キミは知る手段がないでしょ。3年間辛い思いをさせてごめんね。」

私は小さく首を横に振った。

「謝罪ついでに改めてお願いがあるんだけど…最初で最後の私のお願い。」

申し訳なさそうに身体を竦めた莉奈に私はなんでも言ってと答えた。

「今日が私にとって最後の夜だから、夜明けまで一緒にいて欲しい。」

屈託なくもなく笑みを浮かべた莉奈の顔に、私は初めて以前の莉奈の姿を重ねた。


最終話(4)。

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