空っぽのカップを感情で埋める。
シューっという物音で目が覚めた。22時にセットされた加湿器から煙の様に吐き出された蒸気が、香りと共に部屋の中を埋めていた。
テーブルに顔をつけて眠ってた。「あーもう真っ暗だ。」と思いながら身体を起こす。テーブルの上には、空っぽのカップとリモコンだけ。
暖かい昼下がりについまどろんでしまう時と、コンセントを引き抜かれたテレビの様にパッと意識が飛び眠りにつく時は、時の流れの感じかたが全然ちがう…。今日みたいな日は目が覚めた時、いつも戸惑ってしまう。
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今日は休日だったので、久しぶりにお昼から映画を立て続けに見るという私の中では『好きな休日の過ごし方』のトップ3に入るんではないかという幸せな時間を過ごしてました。
3本目を見終わった後、さすがに目が疲れたのか少し目をつむろうとテーブルに身体を預けてみたら、そのまま眠りに落ちていました。
よくある質問で「好きなものは何ですか?」と人に聞かれた時、ほぼ必ずと言っていいほど『映画とコーヒー』と答えます。
次から次へと新しい飲み物が生まれていく中、選択肢から絶対に外せないコーヒーは毎日5.6杯は飲むほど好き。映画に関しても最近は時間の都合上、毎日は無理でも一週間の内に何度か好きな映画を見る時間を作らないと有意義な一週間を過ごしたと思うことが出来ないほどに私の人生からは切っても切り離せないものです。
たぶん今まで書いたことないと思うんですけど、私が映画を好きになったきっかけは父でした。まだ私が子供の頃、平日は私が起きる前に家を出て、寝てる間に帰ってくるという感じでほとんど顔を合わせることが出来なかったので、土日に父と一緒に入れる時間は私にとって貴重でかけがえのないものでした。
でも昼間は遊んでくれるけど、大の映画好きだった父は夜になるとテレビを付けてどこか別の世界へと行ってしまう…。当時全く映画に興味がなかった私は、リビングから父の背中を悲しげに見ていた。そんな私を見かねてか、「隣に座って一緒に見せてもらいなさい。」と母に言われた。
母の声を聞き、父も「おいで。」と言ってソファーのクッションをどけてくれた。私は「面白くなさそうだからいい。」と言いながらも、ほんとは嬉しくてすぐ横に座った気がします。
それが映画と出会う初めてのきっかけでした…。
最初は少しでも父との時間を増やしたくて、ただ横に座ってぼっーと見てただけだったけど、次第に私は映画の世界にどんどん引き込まれていきました。
笑わせてくれたり、感動で胸を一杯にしてくれたり、美しい映像美や演出に胸をときめかせ気分を高揚させてくれたりと、私の感情を揺れ動かしてくれる映画が大好きになった。
私は子供の頃、日常生活を送っていて大きく感情が揺れ動くことがほとんどありませんでした。心の波は常に一定で、ぶれることのない一本の平行線はピンと糸を張ったまま。
泣いたり怒ったり喜んだり、そんな人間らしい感情を外に出すことが怖かった。それが他人であろうと親や親戚であろうと、どこか自分の周りに膜を張り、誰かが私の心に入ってくることを防いでいた様な気がする…。
でも映画を見てる時、そんなことは忘れ感情が零れ落ちてる。自分が何も気にせず外に感情を吐き出せるその時間が大好きで幸せだった…。
そして大人になった今、社会や人と繋がり心を通わせる大切さや素晴らしさを知った。
でも全てを吐き出すことはやっぱり出来ない。行き場を失い心の中で留まっているその何かを、映画を見ることで吐き出し自分の周りを感情で満たす。
綺麗に整えられた無機質な部屋の中、熱々のコーヒーをカップに入れ、父と同じように別の世界へと足を踏み入れる。
物語が進むのと同時にカップは元の重さへと戻ってゆく。いろんな感情が濁流の様に押し寄せ、心が波を打つ。
物語の終盤を見送った後、元の世界に戻ってきた時にはさっきまでの無機質な部屋とは全く別の景色がみえる。空っぽになりテーブルの上に置いたカップでさえも、とめどなく溢れた感情がその中を満たしている様な感じがする。
あの時父が見てた世界と同じものを感じ見る事が出来ているのか分からないけど、もし見れているのだとしたらとても嬉しい事だと思った。
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静まり返った夜、音無き音の橋を渡り紡いだ言葉で少しずつ踏み固めていく。恐らく多くの方が寝支度を始めようとしているであろうこの時間。
中途半端な時間に起きたからまだ全然眠たくない。
眠気に誘われるまで何をしようかと考えつつ、空っぽのカップを手に取った…。
では今回はこの辺で終わりたいと思います。 最後まで読んで頂きありがとうございました!
読んで頂きありがとうございました! 私が一番幸せを感じる時間は 映画を見ながらコーヒーを飲むことなのでサポートして頂ければ美味しいコーヒーに使わせて頂こうと 思っています😄 投稿していくモチベーションアップにも繋がりますのでもし宜しければ お願い致します!