見出し画像

コンバージョン・セラピーの現在1~アメリカの各種学会編

1 はじめに


 前回、コンバージョン・セラピーの歴史について書きました。ほとんど効果が確認できない一方で、うつ病、薬物、アルコール等への依存症、ホームレス化、自殺を含む重篤な副作用をもたらす可能性が高いものであることが分かりました。現在までに安全性が確認された効果的なコンバージョン・セラピーは開発されていません。
 このような状況の中で、世界でコンバージョン・セラピーはどのように考えられているのでしょうか? Human Rights Campaignというアメリカ最大のLGBTQロビー団体がまとめているので、これを中心に見てみたいと思います。まずはアメリカの各種学会から見てみます。Human Rights CampaignのHPに掲載されているものでも、リンクが切れているものが多いので、すべての学会について声明が見つかったわけではありません。現状、見つかったものについて、まとめておきます。それでも相当多くの精神医学、心理、教育関係の学会が声明を出していますね。
 産経新聞がどのような意図で、該当記事を掲載したのか分かりませんが、日本の精神医学、心理、教育関係の学会は、コンバージョン・セラピーに関する声明を発出すべきと思います。

2 共同声明

 アメリカの精神医学、心理、教育の専門的な14団体が共同声明をだしています。これだけの専門家集団が明確な方向性を打ち出してくれると心強いですね。

「私たちは、何百万人もの認可された医療およびメンタルヘルスケアの専門家、教育者、および支持者を代表する全国組織として、一般に「コンバージョン・セラピー」と呼ばれる、人の性的指向または性同一性を変えようとする慣行の不適切さ、非効率性、および不利益について、専門的および科学的コンセンサスを表明します。

 私たちは、性的指向と性自認の変化の努力の非科学的で危険な慣行を削減するための立法および政策の努力を支援するためにしっかりと団結します。」

 


3 アメリカ児童青年精神医学会(American Academy of Child Adolescent Psychiatry AACAP)

 アメリカ児童青年精神医学会は以下のような声明を公表しています。「良い性のあり方」を事前に決定して治療行為を行うことに警告を発していて、コンバージョン・セラピーが行われなかったとしても、標準治療を行う上で、妨げにならないと言っています。

コンバージョン・セラピーに対するAACAPのポリシー

 アメリカ児童青年精神医学会は、特定の性的指向、性同一性、および/または性的表現型が病的であるという前提の下で行われる、いかなる「治療的介入」の適用を支持する証拠を見出していません。さらに、科学的証拠に基づくと、AACAPは、そのような「コンバージョン・セラピー」(また特定の性的指向および/または性別を好ましい結果として促進することを意図する他の介入)は科学的信頼性と臨床的有用性を欠いていると主張しています。さらに、そのような介入が有害であるという証拠があります。したがって、「コンバージョン・セラピー」は、子どもたちや青年たちの行動の健康に対する治療の一部であるべきではありません。しかし、これはあらかじめきめつけられたいかなる結果なしに、性的指向、性同一性、および/または性表現の発達上適切で、開かれた診察を促進することを求める標準治療を損なうものではありません。(2018年)

4 アメリカ内科医師会(American College of Physicians)

 アメリカ内科医師会は以下の方針説明書を発行しています。このなかで、明確にコンバージョン・セラピーに反対しています。

レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの健康格差:アメリカ内科医師会の立場に関する概要

  この方針説明書では、アメリカ内科医師会はレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)コミュニティが経験した格差を検討し、LGBT個人のヘルスケアの体系の平等を確立するための一連の推奨事項を策定した。これらの推奨事項は、彼らの精神的、身体的な福祉に影響する環境や社会の要素を改善しつつ、内科医が文化的、臨床的に有効なケアを提供をどのように提供するかの理解を促進することを含み、彼ら特有の健康ニーズを理解するためのさらなる研究を支援する。

8. 医師会はLGBT個人の治療として「コンバージョン(転換)」「再方向付け」「修正」治療の使用に反対する。

5 アメリカ・カウンセリング協会(American Counseling Association)

 アメリカ・カウンセリング協会はこの文書で指針を出しています。こちらはかならずしも単純に反対しているわけではありません。カウンセリングがクライアントを受け入れることを重視するためです。ただし、クライアントがコンバージョンを求める場合、コンバージョンを容認するカウンセラーに紹介するにあたって、クライアントにコンバージョン・セラピーに関する十分なインフォームドコンセント(証拠のある手法ではないこと、有害である可能性があることなどをクライアントが理解するのをサポートしなければならない)を要求しています。

6 アメリカ精神分析協会

 アメリカ精神分析協会は、「性的志向、性自認、ジェンダー表現を変える試みに対する方針表明」という文書において、性的志向、性自認、ジェンダー表現の変更が強制されない権利をすべての人が持つことを強調しています。そのうえで精神分析の手法に、性的志向、性自認、ジェンダー表現を強制的に変える手法は含まれないことを確認しています。

 「アメリカ精神分析協会は、性的指向、性自認、またはジェンダー表現を変えようとする干渉や強制的な介入なしに、すべての人々が性的指向、性同一性、ジェンダー表現に関する権利をもつことを確認します。」

7 アメリカ心理学会(American Psychological Association)

 アメリカ心理学会は「性的志向の苦痛と変更の努力に対する適切な反応に関する解決策(Resolution on Appropriate Affirmative Responses to Sexual Orientation Distress and Change Efforts)」という文書で、「アメリカ心理学会は、性的指向を変えるための心理的介入の使用を支持する証拠が不十分であると結論付けています。さらに、アメリカ心理学会は、メンタルヘルスの専門家が、自分自身または他の性的指向に苦しんでいる個人を支援する際に性的指向の変更を促進または約束することにより、性的指向の変更しようとする取り組みの有効性を誤って伝えないようにすることを奨励することを決議しました」と書いており、明確にコンバージョン・セラピーに反対する姿勢です。


 とりあえず調べがついたアメリカの学会等、専門家の団体について書きました。今後、国連の立場、アメリカの各州、欧州の対応等を見ていきたいと思います。

この記事が参加している募集

この経験に学べ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?