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3.25.2020、 小袋成彬でいうところの「Selfish」から「Gaia」へ

3月25日。いつも通り1日が終わった。

本当は4年間通った大学の卒業式ある予定だった。だから、大学周辺まで行き、大学生最後の日に浸ろうとした。(その行動が迂闊であったことは猛省している)

大学近くの喫茶店をはしごして、4時間くらい時間を潰したらキャンパスを歩き回る。おなかが空いたから油ギトギトのそばを食べ、食べ終わった足で瓶ビールが安い居酒屋へ行く。そこでくだらないことを4時間も話しているうちに居酒屋が閉まる。店を出るとコンビニで缶ビールを買って道端で飲み、終電になったら慌てて駅へと向かう。

大学生活で何度も繰り返し見た光景を、最後の日も繰り返しただけだった。

ただし「まったく同じ」ことを繰り返したわけではない。よくいる場所や、話されている内容、その場にいる人間は、4年間で変化していった。同じことの繰り返しであるけれども、少しずつ変わっていく。

その意味や、意義は、わからない。
というより、上手く書き記せないといった方が妥当かもしれない。自分が大切にしている瞬間を他人に伝えるのは難しいし、写真や言葉でシェアしたら陳腐になってしまう。

※※※

話を変えよう。

3月26日の深夜。
最寄り駅から家までの道で、スマートフォンから流れていたのは小袋成彬の『Piercing』に収録された楽曲「Gaia」だった。これがこの上なく、あまり変わらない3月25日が終わったあとに聴くのに、売ってつけの曲だった。

小袋成彬はシンプルなトラックの上で5lackと共に自分の私的な過去や想い出、それに付随した愛情は「ガイア」のように美しいと歌う。

そしてアウトロ近くで、それらを全肯定するようなパンチラインが放たれる。

言えないこと増えていく当然
それを昨日くらいに知った俺
振り返りゃいつでも絶景
誰にもみれないからこそ絶景
全カットまるでウディ・アレン
頭金用意しても買えないぜ

言葉を崩しながら「い」と「え」で韻を踏み、自分以外誰にも言えないことや見えないものこそが「絶景」だと彼は言う。

※※※

2018年にソロシンガーとして活動を開始した小袋成彬は、常に共有できない私的な感情を歌ってきた。デビュー・アルバム『分離派の夏』はそれをR&Bやジャズのサウンドに乗せて、かなりわかりやすい形で示した。
歌詞には過去を回想するような表現やが多用され、アルバムの冒頭と中盤では彼の友人による私的な語りが入り込む。

極めつけは「Selfish」で2回に渡って繰り返される「時代に華を添えたくて筆を取ってたわけじゃない/もう君はわからなくていい」というフレーズだ。


私的な感情は、他者にわからなくてもいい。彼はそう言い切っている。徹底的に「閉じた」感情を吐き出したアルバムが『分離派の夏』であったのだ。

一年半後にリリースされた「Gaia」のアウトロのフレーズも、他者には「わからなくていい」風景を歌っている。しかし「Selfish」と違うのは、外に開かれた言葉で綴られている点だ。「ガイア」という言葉を起点に導き出される、圧倒的な肯定感と幸福がリリックに満ちているのである。
「Selfish」で閉じこもって伝えられなかったものが、「Gaia」にはある。

※※※

『分離派の夏』のリリース直後、当時制作していたフリーペーパー(WASEDA LINKS Vol.37)で小袋氏にインタビューをした。僕が大学三年生のときだ。

残念ながらWeb上にはアーカイブされていないため、読んでもらうことはできないのだが、そこでは「自分のなかで消化しなければいけないものがあり、自分のための曲を作り始め」、それ故に「音楽が自分の中で重いものになっている」ということ。
そして「自分のなかで確固たる世界があって、その中での変化が(毎日)続いている」ということが語られている。

彼はインタビューで主に「変わる」ということについて語り続けた。その理由をこう述べる。

「新しいことをやっていかないと、自分が廃れていく」

この言葉を記事の大見出しに持っていったことをよく覚えている。インタビューにおいても、自分自身にとっても一番重要な言葉のように思えたからだ。

その言葉通りにセカンドアルバムの『Piercing』は、『分離派の夏』とは全く違う、それどころか日本のポップ・ミュージックにおいても新しい作品になった。「重いもの」になってしまっていた音楽は、軽やかなものへと変容を遂げたのである。

それがリリースされた頃、僕は大学4年生を終えようとしていた。新しくなっていたのか、廃れていないか、ここ一年間はそればっかりを気にしていたような気がする。

※※※
同じようでいて全く違う、違っているようで本質は同じ。そんな言葉が生まれる源泉は小袋成彬のなかにある「確固たる世界のなかの変化」によるものだった。

そしてそれに愛着を抱くのは、結局自分も同じ価値観のなかでマイナーチェンジし続けているからなのかもしれない。

同じ風景が続いていても、どこかで小さく変わっていく。あるいは違う風景でも絶景だと思う瞬間は変わらない。そしてそれは、だれにも見えないからこそ美しい。

そんな感情をずっと持ち続けながら、たぶんこれからも変わっていく。小袋成彬が「Selfish」から「Gaia」を歌うようになったみたいに。じゃないと、廃れていくから。

そうして頭の中で反復されるのは再び「Gaia」の最後にある「光より先の未来へ」というフレーズだった。

(ボブ)

【第51周目のテーマは『つづく』でした】

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