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ZITA-BATA旅行記 2日目 チャーハン見つからず

一日目

午前九時半、海浜幕張に降りた。室外は雲と雨で白く染まっている。

Google Mapで方向を確認しようとスマホを取り出したが、すぐその必要がなくなった。どうやら駅と幕張メッセの間には建物の2階を繋ぎ合わせた道路橋で行けるらしい。

今日はTOKYOコミコンの初日だ。駅を出たところすでにマーベルマークとバットサインなどがついたTシャツやパーカーを着ている者が見かけた(因みに俺はジャケットの中にベイマックスTを着ている)。数分歩いたあと、それらしい人間が増え、スタッフによるメガホンの誘導声も聞こえてきた。近づきつつある。

幕張メッセ、一目で納めないの巨大さ。そして蛇ゲームの如き道路橋に列を成している人の群れ。12時開場なのにご苦労なこって。去年のコミコン期間に開場から2、3時間経ってから入場したほうがよりスムーズに入れるとの知らせを思いだし、目的地を少し先のでかいAEONに変えた。

🍚🥚🍝🐔

ここに来たのは単に暇つぶし以外にも用がある。まずは先日発売のニンジャスレイヤー:キョート・ヘル・オン・アース4巻の確保だ。しかしここのTSUTAYAに置いてない。いきなりの頓挫だチキショー。次! ここのフードコートには幸楽苑というラーメン屋があり、フォロワーの話によるとここの半チャーハンは絶品らしい。ご存知の通り私はチャーハンが好きて、半チャーハンという呼称に疑問を持ち(半チャーハンの半分のどこに消えたのか?)、チャーハン神炒漢シリーズまで書き上げた。インスピレーション元の幸楽苑チャーハンがすぐそこにある、とうぜん食べたくなる。

午前11時、フードコートに人がほとんど集まっていない。幸楽苑はあった。メニューを見てみよう……

うん?

あぁ?

えっ?

ない、チャーハンが無いぞ?

ったく調子狂うなぁ……俺は動揺を隠して少し離れた場所で幸楽苑の公式ホームページを開いた。メニュー……そうか、一部の店舗に半チャーハンを扱っていませんってか……まあわからなくもないわ。フードコートという狭い空間でラーメンゆでたりギョウザ焼いたり、鍋を振ってチャーハンを作る余裕がないもんな。

こうなったら。あれを喰らうしかない。

フードコートではなく、MALLの中にあるレストランに入った。見ろよこれ。オムライス、ナポリタン、チキンカツに申し訳程度のサラダ、栄養バランスが偏った、澱粉と塩分の暴力だ。

最高に美味かったぜ。

紅茶を二回もお代わりしてたらふくになったあと、俺はAEONを出て幕張メッセへ向かった。これからが正念場だ、気を引き締めていくぜ!

再び人が並んでいたあの道路橋に戻った。オウマイサンダーゴッド……蛇は朝よりずっと長くなってるぞ!金曜でこれなら土曜と日曜はどうなるんだ?ええい、立っていても仕方ない!行くぞ!

看板に導かれ、二回の切符売り場で当日券を購入。ここで誤って海外チケット引き替えの列に並んで30分を浪費したとスタッフに訴える男を見かけた。Boy、気の毒だがそれは同情できないな。こういうイベントが初めての俺でもちゃんと周りを見てスムーズにチケット買えたし。

チケットをピケットに納め、傘を開いてまた外に出て、蛇の尻尾から列に入った。長い入場待ちの始まりだ。

教訓:周りをよく見よう。わからないことあればスタッフに聞け。「ナードでコミュ障だから聞けないです」だって?じゃあ一生徒労してろ。

噴水のある道路橋を何往復してやっと階段に降りて、それから一階でまたフェンスで作った待機エリアを何往復してやっと荷物チェックを通れて入場した。90分ぐらいだったか。そして中もやはりピープル・マウテン・ピープル・シーであった。

ピープル・マウテン・ピープル・シー:中国語の人山人海という熟語が北米にに渡って生まれたコトワザである。人がとても多いって意味。そのままや。

人にぶつからないように歩きながら、会場を周る。多くのコスプレイヤーが見られた。なかでもスパイダーマンでデッドプールが圧倒的に多い、二人の人気もありがなら、やはり全身タイツはやり易いからか。ペニー・パーカーも多い。ワーナー・ブラザースのブースに集まるハーレーの集団は色々すごかったぞ。身体のラインにピッタリのTシャツとガーターベルトなど今まで絵でしか見たことないアイテムはじめて目にした。

にしても本当に人が多いな。歩いているだけで集中力が削られてしまう。マーベルの公式グッズのブースはどこから並んでいいのか分からないぐらい入場列が長引いている。こういうイベントに慣れていない俺は疲弊し、すこしでも生き抜出来る場所を探しにアーティストアレイエリアにやってきた。比較的に人が少なくオアシスって感じ。

そしてさおとめあげは先生もいた。

ニンジャスレイヤー:グラマラス・キラーズにおいてグッドルッキングのニンジャとニンジャの顔が近い絵と冒涜的なバイクデザインでニンジャヘッズのニューロンに甚大なダメージを与えた、レジェンド的存在、さおとめあげは先生だ。

わわっ、どうしよう、僕、もともとアーティストアレイで絵を描いてもらうつまりなんてなかったけど。しかしこのチャンスを逃がしたらいつ会えるかわからない……よし、決まった。俺は決断的に歩み出し、さおとめ先生が座っている机に向かった。

そして素通りした。

「なんでやねん!」「グワーッ!?」

エルフの王子による鋭いツッコミ・チョップが俺の背中を叩いた。

エルフの王子:アクズメさんのイマジナリーフレンドの一人。外見は若かりし頃のオーランドブルームに似ている。というかほぼレゴラス。

「見ていられんぞアクズメくん!きみは一体何のために海まで越えてコミコンに来たんだ?」

「すまねえ王子、30歳の童貞が女性に、しかもクリエイターの先生に話しかけるには、多大な勇気とエネルギーが必要だ。少し待ってくれ」

休憩場になっている壁沿いでしゃがみ、かばんを開いてさっきAEONで買った剣闘クッキーを一枚取り出し、その場で開封してウエハースを貪った。うむ、甘すぎず、うまい。そして中に入ってるプロマイドはシーズン1、伝説のクリスマス回でいちごがサンライズポースで斧を構えるシーンだ。

そうだ、いちご達だって果敢に雪が降るエンジェリーマウンテンを登り、ツリーを倒した最後にボブスレー下山を成し遂げ、伝説を作ったじゃないか。そう思うと、胸の中で熱い物が沸き上がった。

壁の向こう、サイン会エリアの二階に飾ってある大きなオーランドブルームの写真が俺に「おまえならできる、ミスターバギンス」と言っているみたいだ。

「おまえならできる」

「どうやら腹がくくったようだな」王子は微笑みながら言った。
「ああ、もう大丈夫だ」
「それでいい。私はコスプレイヤーのご婦人と戯れてくる。では失礼」
「おう」

「わぁ!レゴラスよ!」「かっこいい!」
「はは、ごきげんようレディース」

離れた王子はすぐに参加者の女性に捕まえて写真を求められた。楽しそう。俺はもう一度深呼吸し、さおとめ先生のところへ行った。先生は絵描きに集中してこちらの接近に気づきづてないか、それともすでに察知していつでもペンをクナイのように投擲す用意をできているか。とにかく、アイサツしないと何も始まらない。

「ドーモ、さおとめ先生。こんにちは」
「アッハイ!ドーモ、こんにちは」

一見さおとめ先生は淑やかで大人っぽいアトモスフィアを感じさせる人だ。プロントヘアがなぜか俺に猫科動物の印象を与える。

「その、こういうイベントは初めてなんで、ここの仕組み、よくわかりませんが、どうやるんですか?」

うわ、オタクらしい支離滅裂な発言だわ。

「コミションのことですか?これはですね。ここに書いてる金額で、私はリクエストに応じて絵を描くんです」

シンプルかつ分かりやすい説明だ。さおとめ先生、やさしい。机に置いてある三角POPには色紙のサイズと価額が書いてある。

「A4色紙の方は今日はもうないので、ミニ色紙ならまた描けますよ」
「はい、ではこれ(ミニ色紙を指さす)、一枚お願いできますか?」
「ハイヨロコンデ!何がいいでしょうか?」
「ニンジャスレイヤーで」
「アッ、それはね、だめですよ~」

 エッ、ナンデ?

「エッ、ナンデです?」
「実はグラマラスキラーズのあと、〇川から釘を刺されたんですよ。商業行為でニンジャスレイヤーを書いたらちょっとまずいことになるんです」

KA〇OKAWAAAAARーーッ!てめえーー!!!

「そうですか。大変ですね」
「ですので、ニンジャヘッズの方には、まあ、赤黒い装束と忍殺を書かない鋼鉄メンポを着けた限りなくニンジャスレイヤーっぽいニンジャを幾つが描きました。それならOKですが」

そういう方法があったのか、しかし限りなくニンジャスレイヤーに近いニンジャだとしても、メンポに忍殺がないとニンジャスレイヤーとは言えないよな私的には。

「あとはフジキドっぽいサラリマンも書きましたよね」
「うーん、だとしたら、天狗とか……描けますか?」
「天狗?」
「はい、天狗です。スーツを着て、天狗面を被ってる奴です。ヤクザ重点で」
「あー……あれですか。描けますけど、本当にそれでいいですか?」
「はい」
「ではもう一度確認いたしますけれど、天狗面を被った、ヤクザっぽいスーツを着た男性、で合ってますね?」
「はい」
「分かりました。では……」

交渉成立、俺はさおとめ先生にコミションの料金を支払った。金額は内緒。

「お預かしました。完成まで……二時間かかりますので大丈夫ですか?」

二時間か。今は2時7分、今夜新橋での飲み会に備えて三時半頃にホテルに戻って準備する予定だったが……四時にイラストを貰って会場を出ればぎりぎり間に合えるか。

「わかりました。四時頃にまた来ます」

俺はどんな絵が完成されるか想像しながら、アーティストアレイから離れた。楽しみだな。

その時の俺はまた知らない。計画は変化に追いつかないことを。

(続く)

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