見出し画像

老害に対抗するLAW GUY

「2点で174円になりますー。お手数ですかそちらのパネルを押してくだーい」

 レジに取り付けた液晶パネルに年齢確認のメッセージとYES/NOのボタンが現れた。しかしハイボールを二本購入した初老男性は尊大に手を組み、ボタンを押す気が一切ないという意思を強く表している。

「俺が未成年に見えるか?ええ?」「スミマセンでしたー」

 メガネポニーテール店員の心に一瞬、湖面を薙いだ秋風がのように怒りが沸き上がって、そして消えていった。コンビニに従業して一年半、迷惑客に反抗的態度を取ることにデメリットでしかないと十分に理解した。理屈、道徳、ラブ&リスペクト、全部ブルシット。一般的の良心を持っていない連中に道理を講じても無駄。店長はことを静めるため従業員に我慢と犠牲を強いるだけ。彼はとうにレジを立つ際、感情を殺して機械的対応する術を習得した。おれはロボットだ、ロボットは怒らない。

 店員はカウンターに体を乗り出し、客の代わりにパネルのボタンを押そうとしたが、指がパネルに当たる直前に、迷惑客に掴まれた。「!?」相手の予想外の行動に、無感情に徹した店員は少々驚いた。

「あの、お客さま……?」

「なぁ、俺さっき質問したよねえ?」

(えっ、もしかしてキレた?おれがさっきの未成年に見えるかに質問にこたえなかったから?)もやは怒りを超えて呆れすら覚えた。

「お客様、触るのはさすがに反則ですよ。カメラ撮ってるんで……」「口答えするな!」「ギャァァァ!」

 左手の人差し指にの付け根の部分に電流が走ったような麻痺感、そして後に来る灼熱感、折られたんだ。突如の暴力に晒された店員のロボットに化していた心は瞬時に痛みと恐怖に支配され、本能に突き動かされる生物に戻った。

「あ、あ、あいひぃいいいいーッ!?」

 店員は悲鳴をあげた。手を戻そうとしたが相手の握力は強く、離れようがない。

「なんだよコンぐらいでなさけない声上げてよお、まったくいまの若者は……あんたもそう思うだろ?」

 初老男性は振り向いて後ろに並んでいる白いコートの男性に尋ねたが、この行動は他人の同意を求めるわけではない、自分のパフォーマンの一部だけだ。

「それにその髪型はなんだぁ?不衛生だなおい。一応食品を扱う職業なら髪を刈り上げて……」「まあまあ、これ以上若者を困らせないでくれよ」「ああん?」

 後ろに居た白コート男は初老男性が店員を掴んで居る手を握り、信じられたい力で指を一本ずつ外した。

「ひひぇっ!」

 やっよ拘束から脱した店員は骨折した左手を右手で抑え、できるだけ初老男性から離れたいがため後ろのタバコ棚に背中をぶつけた。でも初老男性の注意はすでに白コートに移った。

「おめえ!年長者が話しをしている時口を挟むなと、両親におそわなかったのかーッ!?」

 右ストレート繰り出す初老男性!しかし白コート男は掌で拳を受け止めて、握り返す!まるでバトル漫画だ!

「それは相手が尊重すべき年長者での場合、だろ?私があんたを尊重する必要が1mlも感じないぞ、老怪物(ローカイブツ)」

「てめえ、なぜそれをっ!?」

「若者に対して過剰の説教的態度、過剰の暴力、妙に荒れている声……また言おうか?バレバレなんだよ!」

「Grrrr……なら仕方ない」初老男性は拳を戻し、しゃがみこんだ。

「ならばここで始末するまで!ゴオアアアアー!!!」

 男は全身の筋肉が蠢くと、叫びと共に体が膨張し、しわしわのトロールのような怪物に変貌!

「ヒッ」

 店員はカウンターの裏に隠れて、嵐を耐える雛鳥のように身を縮めた。向こうから声が聞こえてくる。

「始末されるのはおまえの方だ!法心!

 勇ましい叫び声、そしてビートが効いた電子音声が響く。

〘WHO'S THE LAW ? I'M THE LAW ! KEEP THE LAW ! THAT'S MY FLOW !〙

 ピシューーン!バッシャン!バッシャン!何らかの機械が軋む音。

「若造!その格好は何だ!?」

「年長者を尊重する美徳を義務だと勘違いし、他人に強要する貴様ら老怪物を退治する者ーーLAW GUYだ」

 さっきと違う、なんかスピーカーを通した声だ。

「ホザケーッ!若者は目立った格好をするんじゃあないっ!」

「この格好が気に入らないなら、剝かしてみろ!」

「ARRRRRRRGH!」

 カラン! パゴン! クワンランクワンラン! どうやら向こうは何らかの戦いが始まったようで、棚が倒れ、商品が散らばる音がした。好奇心はあるがやはり恐怖が勝り、店員は頭を出して様子を見なかった。代わりに震える手でスマホを開錠し、Twitterアプリをタップした。

『今店内で客二人がガチケンカしている。超こわい』とタイプし送信。

「いやぁーー!!!」

 女性の悲鳴、どうやら逃げ遅れた客のようだ。

「動くな! 動いたら女の命は……」

「その手は食わん」

〘LAW GUN〙と電子音声が鳴り、そしてBLAMBLAM!と銃声が二回響いた。

「ぐお……!銃使うは卑怯な!」

「早く逃げなさい!」「あ、ありがとうございまふっ!」

 自動ドアが人の出入りを感知しディーンドーンと鳴った。さっきのツイートは三回いいねされた。(人が大変な目に合ってんのにそれがいいねとか、もう分からねえな)と思いながらフォロワーから「通報した?」とのリプライを目にした店員は何かを思い出すかのようにカウンターの下にある緊急通報ボタンを押した。これでセキュリティ会社が手を打ってくれるはず……

「グウォオオオ!貴様なんの権力を持ってこんな事する!俺は一般市民で、年長者だぞ!」

「有るんだよ、日本政府より与えられた実力行使権が。審判、判決、実行、同時にこなす。それがLAW GUYだ」

「認めんぞ!そんなもんあってたまるかーッ!」

 パターン! ボワワァー! キリーンカラーン!まるでタイフーンが店内で暴れているようだ!店員は指も痛みを鎮めるためアイスコーヒー用のアイスキューブを冷蔵庫から取り出し手に当てた、遥かにいい。

「そろそろ終わりにしょう。LAW GUN、ジャッジメント!」

〘JUDGEMENT〙

 キュイン……キュイン……キュオオオオオーン!勇ましい電子音声、たぶん何らかの必殺技が出るだろう。

「おのれ……若者は……この国をだめにする……!」

「それはもう聞き飽きたんだよ。」

 KRATOOOM!「アアアアアーッ!!!」KBOOOOM!

 爆発、悲鳴、爆発の三重奏。店が一瞬で冷凍庫のモーター音が聞こえれるぐらい静まり返った。

(も、もう大丈夫かな?)店員は恐る恐るに頭をカウンターから出そうとしたが……

「よお」「ふっおう!?」

 白コートの男、もといLAW GUYはカウンターにもたれて店員に話しかけた。

「驚いているところすまないけど、焼き鳥もらえるかな?」「や、焼き鳥?あっ」

 ようやく立ち上がった店員は店の見回した。思っていた通り、まるでタイフーン通過後の散らかしようだ。

「あっ、そいえば手が怪我したっけ」「ちょっ、ちょっと」LAW GUYがひょいとカウンターを飛び越し、ガラス棚から焼き鳥を四本取り出し、流暢な動きでレジを打ってカードで支払った。

「あの、さっきのお客さんは……?」「ん?老怪物のことか?始末したよほら」

 焼き鳥を咀嚼しながらLAW GUYは串でイットインコーナーに広がる黒い染みを指した。

「始末って、やったんってことですか?」「そうなるわな。でも心配しなくていいよ、完全合法だから」「……そうすか」

 サイレンの音が聞こえてきた。パトカーが二両、救急車が一両が急ブレーキして店の前に止まった。

「お、ようやく来たか」LAW GUYはカウンターを飛び出て、串をゴミ箱に詰めた。「あとは警察に事情を話したまえ、それから病院に行くといい」コートを叩いて、染みや埃が付いてないか確認するLAW GUY。「そして労災の申請を忘れないこと。権利を寝かせるなよ。それじゃ」

 デイーンドーン、自動ドアをくぐり、入ってきた警察官と会釈したLAW GUYを見送りながら、店員は気持ちを整理した。とりあえずしばらく仕事は無理であろう。

「ふわ~良く寝t……ってどういう状況ですかこれぇー!?」

 倉庫から出て来た店長は無残に散らかした店を見て叫んだ。

「店長……遅すぎますよ」

(終わり)

当アカウントは軽率送金をお勧めします。