お仕事小説「改革の道 ~物流の未来をつかむ者たち~」第9話(全15話)
第9章:広がる協力の輪
新星商事とのミーティングを終えた高山慶太、山本綾子、そして佐々木悠は、次なるターゲットである他の荷主企業へのアプローチを進めるために、早速動き始めていた。
新星商事の協力を取り付けることは、業界全体に大きな影響を与える可能性を秘めていたが、それだけで全てが解決するわけではなかった。
「新星商事が協力してくれる可能性が出てきたけど、これをきっかけに他の荷主企業にも連鎖的な影響を与えなければならない」
と高山は決意を込めて言った。
「次は、物流業界でも特に大きなシェアを持つ『青山化学工業』にアプローチする」
「青山化学工業は、環境問題に対しても積極的に取り組んでいる企業よ」
と山本が資料を確認しながら言った。
「彼らにとっても、持続可能なサプライチェーンの確立は重要なテーマのはず。現場の労働環境の改善が、彼らのCSR(企業の社会的責任)にどう寄与するかを訴えるのが効果的だと思うわ」
佐々木も頷きながら、
「俺たちの集めたデータと、新星商事の協力の意向を示すことで、さらに説得力を持たせることができますね。荷主企業が一社でも多く改革に賛同してくれれば、業界全体が変わる可能性が高まります」
と力を込めた声で言った。
数日後、高山たちは青山化学工業の本社を訪れた。
彼らを出迎えたのは、CSR部門の担当者である小田真一だった。
小田は50代前半、落ち着いた雰囲気で、少し白髪が混じる短髪と知的な眼差しが特徴的だった。
彼の姿勢には慎重さがにじんでおり、物事を深く考えながら行動するタイプのようだった。
「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
と高山が挨拶をすると、小田は軽く頷いて、
「どうぞおかけください。物流業界の現場改善について、ぜひお話を聞かせてください」
と丁寧な口調で言った。
山本が資料を広げ、語り始めた。
「私たちは、物流の現場で働くドライバーたちの労働環境を改善するために活動をしています。特に、長時間の荷待ちや無償作業の改善が急務です。新星商事もこの取り組みに賛同してくれました。青山化学工業のようなパートナーの協力が得られれば、業界全体を変革するための大きな力になると考えています」
小田は資料に目を落としながら、一瞬真剣な表情を見せたが、すぐに冷静に応じた。
「確かに、持続可能なサプライチェーンは我々にとっても重要なテーマです。しかし、こうした変革を実現するには、具体的な行動計画が必要ですね」
高山は、彼の言葉を受けて、静かに口を開いた。
「私たちの行動計画として、まずは現場と企業間での情報共有を強化し、トラックの到着や出発のタイミングをリアルタイムで調整できるシステムを導入します。これにより、待機時間の削減と物流効率の向上を目指します」
「さらに、現場の意見を取り入れるために、改善チームを設立します」
と山本が続けた。
「これにより、ドライバーたちの声を迅速に吸い上げて、業務フローに反映させ、問題解決に直結させることが可能になります」
小田はしばらくの間、資料を見つめた後、やや柔らかな表情を浮かべて言った。
「わかりました。新星商事がすでに協力していること、そして具体的な改善策が提示されていることから、我々もこの計画を無視するわけにはいかないでしょう。ただし、まだ社内での調整が必要ですので、もう少し具体的な提案を次回のミーティングでお聞かせください」
ミーティングを終えた後、外に出た高山たちは、少し疲れた表情を見せながらも、新たな挑戦に向けた決意を胸に歩き出した。
その時、高山のスマートフォンが鳴り響いた。
画面には、ロードリンクの役員である川村裕二の名前が表示されていた。
高山は無言のまま電話を取り、冷静な表情で耳を傾けた。
「高山くん、また新しい動きをしているようだな。だが、君たちがどんなに荷主企業を巻き込もうとしても、我々の優先配送スロット契約を突破することはできない」
と川村の声は冷たく、挑発的だった。
高山はすでに優先配送スロット契約のことを知っているため、冷静に答えた。
「その優先配送スロット契約のことは、もう知っていますよ、川村さん。しかし、それが現場の労働環境を改善するための本質的な解決策にならないことも明らかです。私たちは、短期的な利益だけでなく、持続可能な物流ネットワークの構築を目指しています」
川村は不敵な笑みを浮かべるような口調で返した。
「ふん、理想論は勝手に語ればいい。我々は業界の現実に適応しているだけだ。優先配送スロットによって、我々のクライアントは待機時間の心配がなくなる。お前たちのような理想主義者がどこまで続けられるか、見ものだな」
高山はその言葉に淡々と答えた。
「あなたがどれだけ我々を阻止しようと、現場で働く人々の声を無視することはできません。現実に向き合っているのは、我々も同じです。ただ、我々はその現実を変えようとしている。現場の人々の力を借りてね」
川村は一瞬沈黙し、その後に低く笑いを漏らした。
「まぁ、せいぜい頑張ることだな。君たちが本当にどれだけの力を持っているのか、興味はあるからな」
と言って電話を切った。
電話が切れた後、高山は冷静な顔をしていたが、その目には新たな決意の光が宿っていた。
「川村さんがどう動こうと、俺たちは立ち止まらない。優先配送スロットがある限り、より多くの荷主企業と協力し、業界全体を巻き込むしかない」
佐々木は力強く頷き、
「そうです!俺たちがやっていることは、決して無駄じゃない。もっと多くの人たちに話を聞いてもらいましょう!」
と声を張り上げた。
山本も深く息を吸い込み、
「私たちにはまだ時間とチャンスがある。次の一手を全力で打ちましょう。もっと強力なデータと証拠を揃えて、現場の状況を改善するために全力を尽くすわ」
と言葉を結んだ。
彼らの目の前には、さらなる困難が待ち受けていたが、それにも負けない情熱と決意を胸に、物流業界の未来を切り開くための闘いが続いていた。
荷主企業との連携を深め、業界改革に向けた本格的な戦いが、いよいよ始まろうとしていた。