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倉庫現場作業者は見た! 倒産へのカウントダウン 第7話

第7話

光一は、月に1〜2回、2トントラックで配達に行っていた。
倉庫内での作業から解放され、外の風を感じることができる配達の仕事は、彼にとって一息つける時間でもあった。
しかし、配達先のお客様の倉庫に商品を納品するたびに、彼の心には新たな疑問が湧き上がっていた。

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ある晴れた日の朝、光一はトラックに商品を積み込み、名古屋市内のあるお客様の倉庫に向かっていた。
トラックのエンジン音と共に、彼の頭には常に抱えている疑問が浮かんでいた。

「本当にこの商品、必要なんだろうか…?」

お客様の倉庫に到着し、商品の納品作業を開始すると、彼の疑問は現実味を増した。
それを証明するように倉庫の中は既に商品でいっぱいだった。
彼は、置き場所を見つけるのに苦労し、毎回、お客様に置き場所や置き方を確認しながら納品作業を行なっていた。

「この商品、どこに置けばいいですか?」

「ああ、それはあそこの商品を少し動かして、空いたスペースに置いてください。」

お客様の指示に従い、光一は狭いスペースに商品を収めると、深いため息をついた。
その時、倉庫の管理者が近づいてきた。

「いつもありがとう。だけど、正直言って、こんなにたくさんの商品を納品されても困るんだよ」

その言葉に、光一は驚いた。
彼は自分の疑問が現実のものとなっていることを知り、さらに問いかけた。

「どうしてこんなに商品が必要なんですか?」

管理者は苦笑いを浮かべながら答えた。

「実はね、おたくの営業の人がお願いするから、しょうがなく注文しているんだよ」

その言葉は、光一にとって大きな衝撃だった。
自分たちの営業部がノルマ達成のためにお客様に無理な注文をさせているという現実が、彼の心に重くのしかかった。

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トラックに戻った光一は、次の配達先に向かいながら考え込んでいた。
倉庫の中の商品が余りすぎている理由が、営業部が自分たちの営業ノルマ達成にあることを知り、なぜか納得をしてしまった。

「こんなことを続けていたら、お客様にも迷惑をかけるだけだ…」

光一はその日、複数の配達先で同じような状況に直面した。
どの倉庫も商品で溢れかえっており、置き場所に困っている様子が明らかで、お客様の顔には、困惑と苛立ちが浮かんでいた。

「ん〜、このままの営業スタイルで、この先も続けることが出来るのだろうか・・・」

光一の心には、この先に一抹の不安が湧いた。

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その夜、光一は、自分の部屋でテレビを見ながら、ぼ〜っと考えていた。

「このままで、本当に大丈夫なのか? だからといって、何かできるわけでもないからな。」

彼の心には、会社の将来に対する不安が渦巻いていた。

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翌日、光一は営業部の高橋に前日の出来事を詳しく話した。

「高橋さん、お客様の倉庫が商品で溢れて困っているという話を聞きました。大丈夫なんですか?」

高橋は、そんなことは分かっているという表情で光一の話を聞いていた。

「ああ、そのことか。知っているよ。」

光一は、知っていて納品をさせているのかと高橋の言葉に驚いた。

「付き合いが長いお得意さんだから、そんなに気にする必要はないよ。持ちつ持たれつの関係だからな。」

高橋は、気さくに笑いながら話した。

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その日の夕方、光一は倉庫に戻り、同僚たちと話をすることにした。
彼は中村、吉田、田中を集め、今回の件について話し合った。

「みんな、ちょっと聞いてくれ。配達先のお客様が商品で溢れかえっていて、困っているという話を聞いたんだ。営業部の方針で無理な注文をさせているらしい」

光一の言葉に、同僚たちも驚きを隠せなかった。中村が口を開いた。

「それは問題だな。お客様に迷惑をかけるのは良くない。だからといって、営業ノルマを達成しないと営業の人は困るんじゃないか?」

吉田も同意した。

「そうだな。営業は数字がすべて。注文を取ってこない営業なんて、仕事をしていないのと同じだしな。」

田中もまた、真剣な表情で話した。

「難しいところだよ。新規開拓は言葉で言えば簡単だけど、実際、取ってくるのは本当に難しい。だから、既存のお客さんに依存してしまうんだろう。」

光一は、仲間たちの意見を聞きながら納得はしたものの、これでは、先細りではないかと一抹の不安を感じた。

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翌日、光一は再び営業部の高橋に会い、前日の話を改めて持ち出した。

「高橋さん、やっぱりお客様に無理な注文をさせるのは良くないと思います。何か対策を考えられないでしょうか?」

高橋は、少し考え込んだ後、静かに答えた。

「君の言うことも分かる。でも、営業ノルマを達成するためには、仕方ない部分もあるんだ」

その言葉に、光一は深い無力感を感じた。
しかし、彼は諦めることなく、さらに問いかけた。

「お客様との信頼関係を損なうことになりませんか?長期的には、会社にとっても良くないと思います」

高橋は一瞬考え込んだが、結局は同じ答えを返した。

「それは分かっているよ。でも、今はどうしようもないんだ」

光一は、その言葉に対して何も言えなかったが、お得意さんとの関係は、本当はそんなものではないはずだと確信めいたものを感じた。

しかし、このお得意さんに依存しすぎたことで、新規開拓が出来ないことが、倒産へ一歩一歩進んでいることに高橋も光一も、この時には気づいていなかった。

プロローグ:https://note.com/preview/n9ae63541f038?prev_access_key=45a92d1ddffac004e53dadfab8486a22


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