「ゲーム業界の人なら大丈夫」という謎の幻想
個人でゲームを作っています。作り始めて数年が経ちました。少人数で開発しており常に人手が足りていませんので、素材提供やテストプレイを人にお願いすることもあります。大体友人や知人に頼むのですが、ゲーム業界の方にお手伝いや仕事をお願いしようとしたこともあります。そのたびに「ゲーム業界の人なら、個人ゲーム開発にも理解がありそう」と期待していました。しかし必ずしもそんなことはなく、最近になって「なんでゲーム業界の人だったら話が通じると思い込んでたんだ?」と急に我に返ったので、整理と自戒も込めて書き残しておきます。
個人開発なら簡単でしょ? と思われてる疑惑
先日業界の方と話す機会があり、作ったゲームについて色々聞かれたので話したところ「他に作ったゲームはありませんか?」と何度も聞かれ、驚きました。話した後も違和感が残り、ひとつの考えに思い至ります。
「もしかして、個人制作ゲームってぽんぽん出せると思われている……?」
個人ゲームの制作期間については、私の感覚だとフォロワーさんの活動を拝見する限り個人開発で軽めに遊べるアプリでも早い人で1年前後というところ、PC向けだともう少し延びる印象です。「ぐんまのやぼう」を作られた人のように1日1アプリ出す! という方や、PCゲームだとChilla's Artさんのように数ヶ月で1本公開する、という方もおられますが、ざっと見回す限りそんな人は稀で、日本とか世界に数人レベルだと思われます。
個人開発ではなく一般的なコンシューマなら(例外もあるとは思いますが)例えばシリーズもので大体3年前後で続編が完成する感覚でしょうか。業界の人から見ると「個人制作なら規模が小さいから、もっと早いスパンでできるだろう」と思われているのかも知れません。
しかし「個人開発でも数年かかることはありますよ?!」などと主張するのも変なので、笑ってごまかしました。
個人開発は予算もスケジュールもないと思われてる疑惑
これは愚痴なんですが、以前noteでテストプレイでボロカスに言われ大変な目に遭ったことを取り上げました。すると、元業界の方に私のnoteのタイトルを数文字しか変更していないタイトルで引用しnoteを書かれたことがありました。タイトルもあれですが「こうすればよい」と書かれていた内容は、なぜか人脈や予算や納期の設定がない人向けの解決方法でした。
例えば「個人開発者の私がゲーム業界の人の記事を取り上げて『こうすればいいんですよ』と書く」ことはしませんし、それは当然私に「個人開発とは違うだろうし、どんなものか想像もつかない」という認識があるからなのですが、先方からしてみれば個人開発に予算やスケジュールはないと思われたのかも知れません。
前項の「ぽんぽん出せる」もそうですが、個人開発は割と自由なイメージがあるのはそうだし、実際そういう側面はあります。ただ、自由である代わりに予算や人員は乏しいので、私の場合は細々とやっているのが現状です。
個人開発に興味を持っている人ばかりではない
「個人開発者で業界のゲームをチェックしていない」という人はほぼいないのではないでしょうか。例えば発売日ひとつとっても大手のAAAタイトルと同日になるのを避けたいのは私のような小規模個人開発者の方であって、その逆、「大手が個人開発ゲームの発売日に注意する」必要はなさそうです。当たり前ですが、個人開発ゲームに誰しもが興味を持ってるわけではありません。
以前、自作ゲームのテストプレイを業界の方にお願いしかけたことがあるんですが、大手作のゲームや、なぜかスマホゲームと比べられてしまうため、個人のPCゲームは違う、大手のスマホゲームを目指して作ることはできない、と説明するだけでくたくたになってしまったことがあります。「スマホゲームはもっとキャラ数が多い」みたいなこと言われたときにはゾーッとしました。おそらく予算が潤沢でイラストレーターさんが何人もいる環境で仕事されてきた人だったのでしょう。かたや私は独りでイラストやシナリオ、スクリプトなども担当していて物理的にほぼ不可能なことをさらっと言われてしまったので、こ、この溝は説明するだけじゃ埋められねえ……!と愕然としました。
私の場合は「個人開発者」のうえ「個人事業主」で、「生活費=制作費」というところからして違うのですが、自分には当たり前のことなので説明が必要だとも思っていなかったのです。
業界の人なら分かってもらえそう、という謎の思い込み
私が仕事をお願いした・しようとした・関わったゲーム業界の人たちがたまたま個人開発に興味がなかっただけだとは思いますが、おかげで私の中にあった「ゲーム業界の人なら個人開発のこともわかってもらえそう」という謎信仰は消えかけています。
以前、元業界の有名なクリエーターが集結して、インディーゲームを作るためクラウドファンディングで資金を募り成功したものの、制作途中でチーム不和に陥り実質解散してしまった、という記事を読んだことがあります。その時は「実績と経験がある業界の人たちでもそんなことになるのか」と思ったんですが、今にしてみれば「業界の人だから個人開発もできる」なんて、どうして思っていたんでしょう。冷静に考えたら因果関係なくない? 一言に「ゲーム」といってもいっぱいあって、それぞれ全然異なるものなのに?
もちろん「業界の人だからできない」ではないし、そもそも主語が大きい。私の周りには、業界に勤めている傍ら、あるいは業界を引退したあと個人ゲーム開発をしている人たちもたくさんいて、しょっちゅう力を借りており、感謝しています。
業界のゲームと個人開発ゲームは似て非なるっぽい
振り返ってみると「大は小を兼ねるのでは?!=規模が大きい仕事をしているなら小さい仕事もわかるのでは?」みたいな考え方に囚われていて恥ずかしくなります。ちょっとうまい例が思いつかないんですが「大企業に勤めてれば同業種のベンチャーでも成功するんでしょ?」などと置き換えると、確かにそんなことないな! と分かりますし、むしろこれだいぶ失礼な考え方で、何も考えずに言ってる感じがしますね。
職業に貴賎はないと申しますが、私が抱いていた謎のゲーム業界信仰心は、裏を返せば「個人開発なんて大したもんじゃございません」という、卑下や劣等感が招いたものかも知れません。同じ箱の中にはいないにしても、「お互い大変ですね」という労いは大切にしつつ、必要以上に謙ることなく、もうちょっと誇りをもって活動したいものです。
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