[雇用の未来]言語聴覚士の読書~10年後に食える仕事食えない仕事~

病院ST(言語聴覚士)が読んだ本を咀嚼し嚥下する。リハビリセラピスト×ビジネス、時々短歌、自己啓発本の読書感想文。

[専門の知識も技能もベースには淘汰されない感情ワーク]

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はじめに[私と職業選択]

 前回の記事では、食についてのSTの志望理由とその誇りを綴った。私がもう一つ言語聴覚士を志した理由としてコミュニケーションの難しさと大切さを痛感してきたから、というのがある。とはいっても大仰なものではない。リハ職の同業者に「どうしてこの職業を目指したのですか?」と尋ねると「身内が失語症になってSTを知って…」や「自分がケガをしたときにPTorOTにお世話になって…」と話す例が多いように感じる。自らの体験でその職業を選ぶのは納得感が強く、うらやましく感じることもあった。私は高校の進路を決めるにあたり職業をチェックして選択したくらいなので、そんなエピソードは持ち合わせていないからだ。ただ人見知りのくせに人前で話すことが好きという当時から自意識を肥大化させていた私は、大学生時代はイベントの司会のアルバイトに時間を費やしていた。STの養成校に進学したものの、STという実情をつかめずにいた時期である。司会業はイベントを盛り上げながら事故を起こさせない。聴衆を扇動するのと同時に制する。広い視野とバランス感覚、対象者の心の変化を察知していく必要がある。マイクを通して聴衆に言葉を伝える。さまざまな背景や価値観を持つ人々に言葉を通して同じ行動を呼びかける。言葉の内容だけでなく、声色や表情やジェスチャーを組み合わせて伝える。この経験で得られた、言葉から生まれるコミュニケーションと、言葉以外の要素で通じ合う経験ができたことは、今の価値観に根付いている。知識や技術だけではない、心の在り方が求められる、人間ならではの仕事ではないかと思うのだ。

[10年後に食える仕事 食えない仕事: AI、ロボット化で変わる職のカタチ  渡邊正裕著]

 近頃、AIに代替される仕事、なくなる仕事、淘汰される仕事、など言い方を変え近未来の職業選択がまざまざと迫ってくる。自身の将来設計から職業選択、転職、仕事のあり方、子育てまですべての世代の人々が大きく変化する時代の渦の中で未来を見据え、人生を選択していかねばならない。本著ではAIの強みを「デジタルデータを取得できる」「組み合わせ爆発を起こさない」「執行環境が整備されている」とし、人間の強みになる作業(ワーク)を「創造」「感情」「信用」「手先」「ボディ」としている。さらにこれをもとに仕事の未来を5つのカテゴリに分類し、表紙にあるように機械が強い⇔人間が強い、技能集約⇔知識集約を2軸にわけたマトリクスで紹介される。
◇機械強×技能集約―ロボティクス失業
 人間が体を使ってこなしていた仕事が機械に置き換わり自動化していく、「代替される仕事」の代表群。検針員、レジ・接客、運転士、入国審査官、役所や金融機関の事務員、スポーツの審判員、小売店の販売員等が挙げられている。
◇人間強×技能集約①―手先ジョブ
 顧客から見たらどちらでもよいが機械化が不可能な動作のため人間の業務として残り続ける。清掃員、縫製・ピッキングなどのスタッフ、メンテナンス職等が挙げられている。
◇人間強×技能集約②―職人プレミアム
 人間が行うことに付加価値があり、顧客が人間の作業に価値を感じ対価を払う。ITやAIに影響を受けにくく、手先ジョブより雇用が安定しており報酬水準としても中間層を形成しやすいエリアだとされる。プログラマー、料理人、セールス、ケアマネ、介護士、看護師、美容師等が挙げられている。
◇機械強×知能集約―AI・ブロックチェーン失業
 身体性がなく、ソフトウェアやアルゴリズム、AIプログラムに代替されやすい群である。国家資格も多く報酬も高め、既得権者が多いため法改正には時間がかかるとされている。放射線科医、トレーダー、薬剤師、税理士、会計士等が挙げられている。
◇人間強×知能集約―デジタルケンタウロス
 知識集約的な仕事の中で人間ならではの強みも必要となる群である。人間語AIの相乗効果で労働生産性が上がっていくのが特徴である。言い換えればAIを使いこなす人とそうだない人との差が激しくなっていくともいえる。CEO,弁護士、作家、SE、経営企画、教授、研究者、臨床医等が挙げられていた。

[考察:リハビリセラピストは職人プレミアムか?デジタルケンタウロスになれるか?]

 本著では残念ながらリハビリセラピストについては言及されていない。読んでいて最もリアルに感じるのは、看護師や介護士が位置している職人プレミアムであろう。疾患や障害を抱える対象者の心理に寄り添う「感情ワーク」、対話を重ねラポートを築く「信用ワーク」、疾患、動作レベル、筋力値から可動域、個人因子や活動因子まで組み合わせ爆発を起こしかねない要素を加味して作成する治療プログラムという「創造ワーク」、実際の臨床に至っても簡単にロボットに代替されるとは考えにくい「手先&ボディワーク」、リハビリセラピストの業務には人間ならではの強みがあらゆる要素から必要とされる。しかし、セラピストの価値は「技能」だけではなく、「知識」を集約しフル回転する思考にあるのではないだろうか。より良い治療法を考案していく研究者として、対象者に適した問題解決に導くコンサルタントとして。デジタルケンタロスに位置しても不思議ではない職業ではないか。そうであるならAIとの組み合わせにより、より生産性の上がる価値提供が可能なはずだ。検査値をビッグデータ化して、対象者と近しい群との比較検討から、目標動作に必要な値の差を瞬時に出していく評価の方法や、書類業務の入力を簡易に進めるソフトウエアの導入、SNSやアプリを利用した研修活動等その可能性は計り知れない。もくもくと今まで通り臨床に費やしていく「職人プレミアム」なセラピストと、AIを活用して付加価値を生み出していく「デジタルケンタウロス」なセラピストでは10年後、20年後大きな差が生まれていくことは容易に想像できる。私自身も最新の知見に容易に触れることを目的に、2020年になってtwitterを始めた。同業者の呟きや情報は新たな知識や技能に繋がるだけでなく、自分も頑張らなきゃという焦燥感と反比例して何とも言えないわくわくとした、大きなモチベーションに繋がっている。そんな感情に揺さぶられることこそが人間の強みとして、デジタルな変化を受け入れ、可能性を広げていきたいとSNSNを勉強中である。



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