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エイミーは饒舌(じょうぜつ)(#064)

16歳のエイミーは、笑顔で楽しげに・私によく話す。
これは私にとって大きな勲章だ。なぜなら、2年前は一言も話さず、話しても声が聞こえなかった。「蚊の鳴くような声」という表現は彼女のために作られたと言われても信じる。果たして蚊は鳴くのだろうか。

エイミーはいつも笑顔で、半袖半ズボンでお絵描き教室に来た。そして腕や足・色白の肌にはいつも・友達がマーカーで描いた落書きや文字が書かれていた。だから、喋らないだけで・友達もいて・活動的な女子なのだ。

エイミーはミアの友達だ。ミアは9歳の頃から私のクラスに通っている。ミアが自分の友達も絵を習いたいと言ってるんだと、連れてきたのだ。ミアの話もまたいずれしよう。彼女も特筆すべき子だからだ。ミアがエイミーに初めて会ったとき、あまりにも喋らないので、唖(おし)かと思ったらしい。これはミアが言ったんじゃなくて、エイミー本人が面白げに、のちに私に話してくれたのだ。

彼女たちの希望で、エイミーとミアはグループセッションから、個人レッスンに変更した。エイミーと二人きりになるのは良いチャンスだと思った。距離を縮めるのだ。きっと彼女は喋るようになる。なぜなら、ミアと二人きりだとよく喋ると聞いていたから。

毎週1時間の個人アートレッスンの間は、エイミーの好きな曲をアップルミュージックから選ばせてBGMにかける。彼女はインディの音楽が好きで、私が聞いたこともない音楽をいろいろ紹介してくれた。MITSKIもTV GIRLも彼女が教えてくれた。

エイミーはとってもゆっくり作業する。丁寧に柔らかく鉛筆や筆を動かす。絵を仕上げるのにとっても時間がかかる。そして出来上がった作品は、びっくりするぐらい繊細で・それが心を打つ。私には描けないタイプの絵だ。しかし、これを仕事にできるのかというと・・・越えなくてはいけないハードルがいくつかある。締め切り。コミュニケーション能力。もし、エイミーの絵が大好きで、時間がかかってもいいから待つよ。というファンやマーケットがあれば、それは逆に強みになる。しかし、そこまでいくにはいろいろ苦労しなくてはいけない。

そう、エイミーはアート関係の仕事をしたいと思っているのだ。「私は好きなことしかできないの」と言う。好きな科目は美術と歴史。母親は会計士だ。もし、エイミーが会計士になって趣味でアートをするなら、人生は楽だろう。だが、数字はダメらしい。しかし、彼女にはとても強いアセット(資産)がある。それは彼女の母親だ。稀に見る理解のある母親で、友達のミアは自分の母親よりもエイミーの母親の方が話しやすいと言っているくらいだ。「エイミーがしたいことを自分の職業にしなさい」と彼女の母親は100%応援しているのだ。一般的にありがちな母親みたいに、娘の将来を心配しすぎて余計な情報や行動を押し付けることはしない。

この文章を書きながら、いつ、どういうきっかけでエイミーが饒舌に話し始めたのかを思い出している。それは突然始まって、大したきっかけもなかったように思う。私はただただ、彼女の興味のあることを聞き、絵を描きながら音楽を一緒に聴いて、歌詞の意味を二人で考えたりしたのだ。そうしているうちに、私よりも饒舌に彼女が話し始めた。私はびっくりした。でもそのびっくりを表に出さないようにした。私のびっくりで、亀が首を引っ込めるように引き下がってしまうのではないかとビクついたのだ。でも、最近わかったのは、一度心を開いた相手には彼女はとてもよく喋る・それが途絶えることはまずない、ということ。ほっとした。

先週エイミーが話してくれた。「学校の先生からの評価の文面に書かれていることがいつも同じなの。<もっと話してくれるといいんだけど>って書かれる。それ、本当に嫌なんだ」。私は心の中で学校の先生に話しかける。「あなたの気持ちよくわかります。でもね、これはあなたが<太陽>にならんといかんです。<北風>ぴゅうぴゅう評価を書いても無理ムリ」

エイミーに聞いた。「シャイだから初対面の人には話せないの?」「う〜ん、たぶん。でも自分でもよくわからない。みんなの前でしゃべらないのが私の自然体だから・・・」エイミーの答えを聞いても私には本当には理解できていない。「そのままでいいよ。本当に心を開ける人だけに話せばいいんだから。自分を変える必要はない。でもね、仕事を始める時は厳しいよ。それは何とか乗り越えないとね。一緒に考えよう」と私は彼女をサポートする。これまでの16年間、彼女はそうやって生きてきたのだ。急に変われるわけないし、変わる必要もない。きっと、彼女が生き延びていける、ニッチなイスが用意されている。いや、自分で自分が座るニッチなイスを作って場所を作ればいい。

考えてみれば、私が座っているこのイスも、ニッチで、私が自分で作ったのだ。もちろん周りのサポートがあってのことだ。それは忘れちゃいけない。感謝。

あなたの座っているイスはどんなイス?何色かな?
あなたの想像力がわたしの武器。今日も読んでくれてありがとう。

えんぴつ画・MUJI B5 ノートブック

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