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#3「多拠点生活」~「移動する」ことが生む価値

note#1『「多拠点生活」〜住む場所の選択をもっと自由に、もっと柔軟に。』で、複数の拠点(暮らす場所)を持つ暮らしを可能にするしくみについて触れた。

自然が豊かなところに時々滞在できる別荘があったら
寒い時季だけ暖かいところで過ごせたら

自宅以外に別の拠点を持てたら、と誰もが一度は思ったことがあるはず。

一か所にとどまらないで国内外を転々と移りながら暮らすという生活を暮らしをしている人は、日本ではまだごく一部のように感じるかもしれないが、「多拠点」の間口をもっと広げて考えると、複数の場所に生活を持つ暮らしを実践している人は増えている。
例えば、新宿に住んでいる私の知り合いは、神奈川の三崎にもう一つ拠点を持ち、都会の喧騒とは違う空間のなかで週末を過ごしている。
彼らのように、仕事をしながら移動するのではなくとも、週末プチ移住を希望するトレンドは、特に東京在住の人を中心にここ数年で高まっていると感じる。
週末だけでも自分の望む環境に身を置き、心身のリフレッシュを図りたいというニーズは高い。

フリーランスの方と会話すると、やはり仕事は東京に集中するため、東京と自分の暮らす都市を行き来しているという人も非常に多い。
仕事=暮らす場所ではない彼らは、主な拠点は地元または暮らしやすい都市を選択して生活しているようだ。
独立をきっかけに、長野県白馬村に移住し、打ち合わせなど必要な時だけ東京や関西に行くというスタイルに切り替えたコンサルタントの例もある。
彼らに共通しているのは、暮らしている場所に対しての充足感である。

また、経営者層では、業務のオペレーションを手放すと、その土地に自身の仕事がある・ないに関わらず、2か所以上の物件を所有し、行き来しているという例にもよく出会う。
自分自身が思入れのある場所や、ひょんなご縁があった土地に拠点を持っているケースが大多数なのだろうが、田舎は土地・家賃が安いということで地方が多いように思う。
特に南北に長い日本の季節を楽しめることもあって、北海道や鹿児島・沖縄、温暖な瀬戸内海などに拠点を持っていたりする。

人生の質を高める「多拠点生活」

仕事の仕方は異なるものの、彼らはなぜ複数の拠点を持つことを選択するのだろうか。

多拠点生活の実践者と会話をして、さらに自分自身が今年8月にチェンマイで1週間のリモートワーク体験プログラムで感じたこと(『タイ・チェンマイで「働きながら旅する」体験で見えたもの ~WORXTRIPは自分をアップデートするカギ~』)から、いくつかの共通した理由が考えれるのではないかと思う。

・刺激が得られる、気づきがある
違う土地に行くと、違う文化と出会う。
私自身は根っからの旅好きで、自分が常識と捉えていた枠を打ち破るような体験と出会ったときの感覚を得ることが醍醐味、病みつきになっているのだが、一般的に言っても、人が旅行に惹かれる理由のひとつは、日常と違う物事に出会い、刺激が得られるからだと思う。
同じ日本国内でさえも、違う土地に行くと言葉や食に微妙な違いがあり、久々に地元に戻ると新しい視点で捉えることき、気づきがあったりする。
海外旅行に行ってみて、日本の良さに気づいたり、地元を離れてみてその土地の良さが感じられたという経験は多くの方が体験したことがあるのではないだろうか。

場所を移動すると、行った先で刺激を得られるだけでなく、慣れ親しんだ環境に対してもあたらめて発見を得ることができる。
リフレッシュでもあり、ビジネスアイデアが浮かぶチャンスにもなり得る。
移動とはそういった「気づき」を起こす行動ではないだろうか。

・つながりが生まれる

「拠点」は、旅とは違い、何度も来たり、長い時間滞在する場所。
そこでは、一度きりの出会いに比べ、人との繋がりや交流が強くなる。 
私自身、これまで様々な場所を旅して来て、ローカルなものと接点が出来たとたんに、表面的な滞在が一気に深みが増すという原則がつかめた。
しかし短期的な滞在ではローカルに触れられる確率はどうしても低くなる。
世界中のあらゆる場所を転々と旅して暮らすことができたとしても、人との交流、つながりがなければ日々は寂しいものになるだろう。
ただの通りすがりの旅人ではなく、またそこへ戻ってくる「拠点」を構えることで、土地の人との距離はぐっと近くなる。

また、元々仕事の関係がない場所でも、土地の人と繋がりができた結果、仕事を生み出すという可能性も大いにある。
とある経営者の方は、偶然、縁あって土地を購入し拠点を構えた場所で、宿を開業させた。拠点を行き来する数年の間に現地のひととの関係性が構築されたからこそ協力が得られ、可能になった例と言える。
別の土地に行くと、元いた土地では特に珍しくなかったことが重宝されたり、hubとなることでその土地にはない価値を持ち込んだりすることができるので、フリーランサーにもメリットが生まれるのではないだろうか。

・「住」における充実感が高まる

人は、自分自身で決定している、と感じると満足感が高まるそうだ。

住む場所の選択においても同様のことが当てはまると思う。
仕事の都合でこの町に住んでいる、ここへ住まざるを得ない、という感覚ではなく、いつからいつまではこの土地で暮らす、こういう理由でここへ移住する、という自ら選択しているという感覚が持てれば、住むことについての充実感が高まるはず。

今暮らしている場所に住んでいて本当に充足しているか、自分自身にも一度問いかけてみてほしい。
できるならば自然の中で過ごしたい、旅行で訪れた土地でもっと長く暮らしてみたい、
など自分の求めている場所はもしかしたら今住んでいるのとは別の場所かもしれない。
自分の生まれた場所、育った場所がその個人にとって、最も居心地の良い土地だとは限らない。
世界はこれだけ広いのに、どうして地元がその人にとって一番だと言い切ることができるだろうか。

これらの要素をかけあわせると、複数の居住場所を持つことは、人生の質を高めるということに繋がるのではないだろうか。
生まれた土地でずっと過ごし、一生を終えることが決して良くない選択だと言っているわけではない。
しかし、複数の拠点を持つ暮らしをすること、あるいは人生の中で一定期間でも実践することは、一個人が精神的に豊かになり、充足感の高い人生を送ることができる大きな可能性を持っている。

Text:山本茜

「多拠点生活」×「パッチワークキャリア」を軸に、自分のパフォーマンスが高まる場所で生活し、自分の専門性や持ち味を活かした仕事・活動を組み合わせキャリアを築くライフスタイルを模索中。大阪にて大人の学びのサードプレイス「Leaning Bar CF曽根崎」企画運営。趣味はウイスキー。