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サヨナラと声を掛けるには勇気がいる

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2020年2月の記事一覧

サヨナラと声を掛けるには勇気がいる。その5

「なんか、自動販売機みたいだよね。何処にでもあってそこにあるのが、ちょっと安心するっていうか」

人間に自動販売機なんて、例えなどあるか。
銀縁の眼鏡が人と距離を置かれがちだ。メカっぽいのかな。
まぁ、いいや。

自分にとって眼鏡はオンとオフの使い分けなんだよな。

ほら、女性だって髪を結ったりするあれと同じようなことだと思っているけど。

眼鏡は所詮伊達だしな。

違う自分になりたい願望だ。

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サヨナラと声を掛けるには勇気がいる。その4

その男性は、真剣に手帳のコーナーを見ていた。
なんだろう、目についてしまったのは。
あれ?でも、この人、他のフロアのテナントの方じゃないかな。違うかな。

「いらっしゃいませ。ありがとうございます」

私が女子高生のお客様のギフトを包んでいる間にその男性はいなくなっていた。気にいるものなかったのかな。
手帳を新調するには少し遅めの2月だった。
もう少ししたら、4月始めの手帳も少し入荷するけどなぁ。

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サヨナラと声を掛けるには勇気がいる。その3

1日のだいたいの時間を職場に費やす。それは大半の人も同じこと。
それなのに、彼氏が居たり、彼女が居たり、結婚していたり、みんな、そんな時間を何処で作り、育むのだろう。

テスト前の「えー全然勉強してないよー」現象じゃん。勉強してんじゃんかってやつ。
私は詰め込み派だった。

小さな雑貨店で、働く静かな人生。
今は閑散期だ。

サヨナラと声を掛けるには勇気がいる。その2

「恋は盲目というじゃない?」

イヤホンを外して、耳に飛び込んできた会話。いくつになっても、人はそんな浮いたお話が好きだな。
好きなタイプだとか。

社員食堂のすみっこで、お弁当を食べるささやかな時間は音楽をお供にしている。

食堂のテレビは付いているけれど、人の喧騒で付いていても音はほとんど聞き取れず、そこに在る、光を放っているだけのように見える。
このテレビが活躍するのは甲子園と競馬と相撲の時

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サヨナラと声を掛けるには勇気がいる。その1

部屋の散らかりが尋常ではない。捨てられないのだ。目に見えるこの部屋がこのありさまなら、私の心の中も、とっ散らかっている。きっと、忘れられない思い出で。
あの頃のあの人たちは、何処に行ったのだろう。
そんな風に気付くのはずっと後。そのくらい自然に別々な道を歩く様になる。
また、再会する時はあるのだろうか。
あの人は、私を思い出すことはあるのだろうか。

音楽を聞いていたイヤホンを外して、一息つく。

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