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日記:The Coffin of Andy and Leyley(アンディとレイレイの棺)とかいうマジヤバいゲームやってる

 新年あけましておめで…

 おめでたくねえよな。いろいろ起こりすぎてみんなすっかり萎縮して素直に祝えなくなってるよな。
 本当は良いことがあったり新年の抱負でnote書こうかなんて人ももっといたはずなんだがそんなムードじゃなくなっちまった。わかるよ。


 う~ん……じゃあさ……逆にマジでクソおめでたくなくて邪悪なことなら堂々と書けるんじゃねえ?


 というわけでおれが前から気になっててついに買って遊んだマジでクソおめでたくなくて邪悪な最高のゲーム、The Coffin of Andy and Leyley(アンディとレイレイの棺)について書きま~す。
 結局いまおれらができることなんざ募金していつも通り過ごすことくらいしかね~んだ。自粛ムードなんかおれがぶっ壊してやるよ!あけまして邪悪!!!!


マジで邪悪なゲーム

 このゲームを紹介するとなると何をどうオブラートに包んでもまず「インモラル」「退廃的」というワードを使わざるを得ない。

 このゲームは兄のアンドリュー(アンディ)と妹のアシュレイ(レイレイ)がアパートの一室で餓死しかけているところから始まる。水道局の不手際でなにかの生物災害が広まってしまい、住んでいるアパートがまるごと封鎖されて外に出られなくなってしまったのだ。両親は二人をおいてどこかに行ったっきり戻ってこず、配給を持ってきてくれるはずの警備員は汚職に染まったカスばかりで何も寄越しゃしない。
 空腹で極限まで追い詰められたふたりはある事件を皮切りに、世間一般の禁忌を片っ端から実行する羽目になる……。

 なにが面白いってこの兄妹、妹のレイレイが近年稀に見るクレイジーサイコ女であり、さらに重度のブラコンというこじらせにこじらせたイカれ妹なのだ。
 あんまりネタバレすると面白くないので本編中の出来事については伏せるが、兄への依存が異常で兄以外の物事はすべてがクソどうでもよく、自分と兄が一緒にいる時間を一分一秒でも奪う相手であればたとえ肉親にでも全身全霊の憎しみをあらわにする。
 やっていいことと悪いことの区別など当然ない。アンディか自分にとって益があれば、法律なんぞ目にも入らずドラッグレースもかくやという勢いで突っ走る。


実の兄にこう言われる始末

 そんなサイコ妹にベッタリ貼り付かれるアンドリューの精神状態はもうメチャクチャ。べつにアンドリューの方はアシュレイに依存しているわけではなく、社交的で大学に通ったり彼女もいたりする常識人なのだが、アシュレイのせいでそれはそれはもう凄まじい目に遭い続けている。なので彼も彼で実はいろいろと……。

 このふたりがときに運命に翻弄され……ときに運命のほうが可哀想になるくらいレイレイが暴れ散らかしたり、アンディとレイレイの過去が明らかになっていったりするストーリーになっている。
 現在実装されているPart2まで読み終わるころには全プレイヤー満場一致で、レイレイに栄えあるワースト・オブ・関わりたくない女大賞を授与していることだろう。


丁寧に作られた作品

 基本のシステムはよくあるRPGツクールで制作されたアドベンチャーゲームって感じなのだがとにかく出来が良い。
 もともとはゲームジャムで作られてItch.ioに投稿されたフリーの作品であったが、ブラッシュアップと続きの章を加えてアーリーアクセスにて現在も開発が続いている(いまは二章まで実装されている)。

 主人公のアンディとレイレイが終始スカムな会話を繰り広げることになるが、とにかく口が悪い。…言うまでもなく特にレイレイが。アイテムを調べたりするときも本当に品が悪かったりふざけたモノローグが出てくる。
 劇中で非常にアブナい犯罪行為がゴロゴロでてくるし実際にアンドリューはそのせいで善悪の間で悩んだりするのだが、二人のやり取りが軽妙なため「ま~いっかァ!!」くらいのライトな口当たりで読めるよう仕上がっているのだ。
 ホラーっぽい要素もなくはないがそれ以上にレイレイのほうが何十倍も凶悪なため、まったく怖くない。グロテスクな場面も大量にあるがドアップでリアルな描写をされることもないので怖がりな人でも安心して読める範囲に留まっている。………あれだけのことやらかしてなんで留まってるんですかね…?


かわいいね♡

 アートワークも気合が入っている。基本はバストアップ画像で登場人物が会話して進んでいくものの、結構な頻度で一枚絵が挟まれているため非常に豪華。
 しかも驚くべきは本作がシナリオ分岐することにある。チャプター2からは選択肢や調べるアイテムによって起こるミニイベントが変わってきたりするのだが、その分岐ごとに違うスチルと会話が用意されている。て、手間暇かかっている…。


レイレイの壊れっぷりがすごい

 ※この見出しの内容は少しネタバレになってしまうので、未プレイでネタバレを気にする人は読み飛ばしてほしい

 実装分までこの物語を読み終えて思うのは、やはりレイレイのブッ壊れ方が既存のジャンルに安易に括れないこと。何々っぽい、というより"レイレイ"という確固とした新しいひとつのキャラクターとして成り立っている。

 かつてヤンデレ・ブームというべきか、オタク文化のなかでイカれた偏愛を持つ女性キャラクターが爆発的に流行したことがあり、ヤンデレといえばいわゆる「包丁を持って妖しい笑みを浮かべて好きな人を監禁ないしは心中する女」のステレオタイプが一般的な理解となっていた。
 アシュレイについてはヤンデレのブラコンというのがもっとも手っ取り早い説明にはなるのだが、正直彼女はこの枠に収まりきらない…。ヤンデレの「病んでる」の作り込みが極めてしっかりしているため、インスタントにヤンデレと言うには少々複雑すぎる。強いていえば鬼哭街の瑞麗あたりの「キモウト」が順当かと思うのだが、ジメッとした感情というよりは少しドライでさっぱりしているのでそれもまた違う気がする…。

 レイレイの人物造型が凝っている部分は、彼女の性格が見事な悪循環のサイクルを描いた結果アンドリューへの依存が生じていることにある。
 そもそもの出発点としてレイレイはソシオパスというか共感能力がものすごく欠落していて「やって良いいたずらの程度がわからず、他人の嫌がることを平気でやってしまう」という欠点がある。ここから始まって数珠つなぎに「だから話す相手や友達ができず、肉親からも手がかかりすぎる子供だと疎まれ、人間関係から疎外される」が起こり、「兄だけは自分に普通に接してくれる、だから独り占めしたい」に接続される。
 なんか急に兄に執着するようになった、というわけではなく依存に至るまでの道筋や彼女の人格を作った経験が紆余曲折を経つつもしっかりと一本の線になってつながっているのである。

 そこから派生して「兄以外は自分をまともに扱わず、愛してくれないので、そもそもレイレイはアンドリュー以外を自分と同じ人間だと認識していないのではないか」「そもそも兄以外は同じ生き物だと思ってないから他人の痛みもわからないし非情な選択も平気で取れるのではないか」という推測もできる。
 レイレイはおそらく「いろんな人間がいるなかでこの人は特別に好きで愛している」という意味でアンディを愛しているというよりか、「レイレイの世界には最初からアンディしか人類と認識できる相手がいない」という状況で、世間一般の意味ではなく便宜的に「愛している」という言葉を使ってるだけなんじゃないか……とおれは考えている。レイレイはアンディへの独占欲・依存・束縛・執着心のわりには性的に襲ったりとかあまりしないので、そういうブッ壊れ方をしていると考えるとあのサラッとしたドライな依存の仕方もわりとすんなり納得できる。逆に言えばアンディだけでなく、憎みながらもある程度ヒトとして認識していて愛されたいと思っていた両親に対してはいくらか情があるというのもこの理屈であれば理解できそうだ。
 あくまでおれの解釈ではあるが、作者がそこまで考えてレイレイという人物の歪み方を練っていたとしたらこれは物凄いゲームだな……と思わざるを得ない。


色々な意味で危ないので買えるうちに買うのをオススメしたい

 ここまででネタバレを避けるためにゲーム内容を極力ぼかしつつ語ってきたのだが、あまりにもこのゲームの内容が宗教的・倫理的タブーの地雷原の上で激しくタップダンスを踊っているのでファンのあいだではゲーム自体が消えてしまうのではないかとも危ぶまれている。

 というのも、タブーを扱っていることがネット上で物議を醸し、一部の過激な人々が作者のNemlei氏への個人攻撃や脅迫(Doxxing)に走っているからだ(ニュースサイト)。
 作者はインターネット上のコンタクトをやめてオフライン上で安全にゲームを作る体制に移行しており、開発に協力しているオフィスを通して発表するようになっているためそこまで心配はいらないかもしれないが、創作物におけるタブーに対して寛容(関心がないとも言える)な日本の風土と英語圏は勝手が違う。いたずらに不安を煽る意図はないが、少し危ない橋を渡っている部分がある。

 無論、ほとんどの良識ある海外ゲーマーはそういったネットの暴力行為に心を痛めているが(実際ニュースサイトでも「議論に個人攻撃は不要であり、画面の向こうには人間がいる」と呼びかけている)、海外では宗教観倫理観が人格形成や善悪の判断にプリミティブに関わっており、タブーが絡むとちょっと行き過ぎた……法律やマナーを無視するアレな人間が発生することが……ままある。作者は強く開発継続を宣言しているが、Steamの販売ページが取り下げられるなどしちめんどくさい問題に発展する可能性もないとも限らない。もし興味があれば個人的には早めに買っておくことをオススメする。


 さて、ちょっと辛気臭い話をしてしまったがゲームそのものはもちろん面白く魅力的だ。
 現在実装されているチャプター2の終わりまで非公式ながら有志によって読みやすく日本語化がされているほか、ツクール製であるためパソコンのスペックもさほど要求されず手に取りやすい。エログロは描写こそあるがリアルな絵では出てこないため、そのあたりは安心して読めるだろう。毒のあるユーモア、ダークコメディが好きな人にはぜひオススメしたい作品だ。

 孤立と互いへの依存、極限状態で禁忌を犯してブッ壊れたボニー&クライドはいったいどこへと向かうのか?あなたもその目で確かめてほしい。




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