見出し画像

異常な愛かと思いきや、珠玉の恋愛映画だった

元号が令和に変わった5月1日。
特別な予定もなかったので映画を観に行った。

令和の映画はじめに選んだのは、角田光代さんの小説を映画化した「愛がなんだ」 公開館数が少なく都内では連日満席が続いていると聞いていたが、噂通りの盛況ぶり。有楽町スバル座は、上映時間の1時間前から100人超えの行列ができていた。ここまでとは思っていなかったので、正直びっくり。この作品の何がここまで多くの人を惹きつけるのか…とても興味深くなった。

知人の結婚パーティーで出逢ったマモルに恋したテルコ。愛は盲目という言葉そのままに、テルコは仕事も自分の時間も二の次にしてマモル中心の生活を送る。マモルが風邪をひいたと言えば、家へ行って食事を作り部屋の掃除までする。深夜に連絡があっても、マモルに会えるならとどこまでも駆けつける。

しかし当のマモルはテルコに全く恋愛感情はなく、単に都合のいい女になっていた。部屋に泊まるような関係になっても、本人に「付き合っている」という認識は全くない。その上好きな人がいることを隠そうともせず、そのうち三人で集まるようになる。そんな歪な関係に、テルコは苦悩しながらも嵌まり込んでいく。

仕事や自分の時間をそっちのけにして恋愛にのめり込むテルコには正直全く共感できないが、ここまでひとりの人を懸命に愛せるのはある意味羨ましいかもしれない…最後まで観て、そんな風に感じてしまった。それは岸井ゆきのちゃんが演じたテルコが、どうにも放っておけない存在感を放っていたから。つい先日まで、朝ドラで「香田さん家のタカちゃん」という王道の愛されキャラを演じていた人と同じ女優さんとは思えない、全く雰囲気の異なる役がはまっていた。

最後はテルコ自身も「執着」だと認めていたが、まさにテルコのマモルへの感情は愛を超えて執着。きっとテルコはこういう愛し方しかできないのだろう。しかし客観的には異常に見えるテルコの愛と、同じような愛を胸に秘めている人は実は世の中にたくさんいるのかもしれない。行動に移すか、頭の中での妄想に止めるかの違いはあるかもしれないけれど、相手へ執着してしまうレベルの愛。そう考えると、テルコに感情移入する人も少なからずいるのかな…とも思う。わたし自身は恋愛体質とは程遠い人種なので、全く理解できないけれど。

しかしこんな友達がいたら、間違いなく厄介。でもいつか自分のことも大切にできる愛を見つけてほしいとも思う…そう思わされた時点で、既にわたしは「愛がなんだ」という作品の魔力にやられてしまったのかもしれない。

そしてマモルを演じた成田凌くんのクズっぷりが最高(←褒めてる)
今やクズオブクズな役を演じさせたら、右に出る役者はいないと確信するくらいのはまり役だった(←超褒めてる)

優しいと思っていたら急に冷たくなったり、「家来る?」と誘ったかと思えば「今日は帰ってくれる?」と突き放したり。出版社勤務のデザイナーというなかなか素敵な仕事をしていながら、「33歳になったら仕事辞めて野球選手になる」なんて冗談なのか本気なのか分かりづらいこと言ったり…マモルは掴みどころのない人だ。だけどそんなところに魅力を感じる人もいて、実際テルコは見事に振り回される。

マモルの悪気なさはあまりにも罪深いが、あの手の男に惹かれてしまう女は確かにいる。しかもダメだと分かってるのに深みにはまるパターンが多い…だから余計にタチが悪い。でもそんなマモルを憎み切れないのは、成田凌くんの魅力的なクズっぷりがあってこそ(←べた褒め)
これからもクズオブクズを極めていただきたい。

ちなみにこの作品、一筋縄ではいかないのはテルコとマモルだけではない。テルコの友達のヨウコは年下男子のナカハラをいいように弄ぶし、ナカハラはそんなヨウコへの恋心から彼女の言いなりになって苦しむし、マモルが好きになるスミレはもうとんでもなくぶっ飛んだ人だし…いずれも「身近にいたら厄介な人」ばかり。だけど3人とも人間味が溢れていて、「こういう人いるよなー」というリアリティあるキャラクターとして描かれているのは見事。深川麻衣さん、若葉竜也くん、江口のりこさんの演技が素晴らしかった。

どのキャラクターにも共感できないのにおもしろさを感じる…わたしはこういう映画が好きなので、今回もかなり余韻が残った。作品全体の完成度が高いので、きっと多くの人に受け入れられる映画になったのだと思う。満員御礼にも納得。今作を手掛けた今泉力哉監督の作品は初めて拝見したので、今後も注目していきたい。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?