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激動の2020年、わたしの生きる糧となってくれた映画10選

コロナという未知のウィルスが蔓延し、世界中が混乱に陥った2020年。わたしたちの生活が激変すると共に、映画界にも大きな影響をもたらした。4~5月の緊急事態宣言に伴い全国の映画館がクローズし、予定していた公開を延期せざるを得なくなった作品も多数。特にミニシアターは大きな打撃を受けた。

そんな中でも深田晃司監督・濱口竜介監督が発起人となった”ミニシアター・エイド”をはじめとするクラウドファンディングがいくつも立ち上がるなど、映画という文化の火を消さないための活動も多数行われた。わたしも微力ながらいくつか参加させてもらったが、映画を愛する人たちの行動が目に見える形となったのはとても幸せなことだと感じた出来事だった。

このような多くの制限がある状況下ではあったが、コロナ禍以降も自分自身での感染対策の十分行いながら多くの映画を観ることができた。劇場鑑賞本数85本/作品数68作品。2019年よりも微増の結果となっている。この1年は映画を観ることを日常的な楽しみとしてきた自分にとって、改めて映画の存在がどれだけ大きかったか実感した1年だった。わたし自身仕事をする環境が大きく変わり、日々心をすり減らすことも多く、映画を観ることで救われることが何度もあった。そんなわたしの”生きる糧”となった2020年に出会った映画の中で、特に心を掴まれた10本をご紹介したい。

サヨナラまでの30分

年明け早々感情を昂らせてくれた作品。音楽×青春×入れ替わり…よくあるテーマの合わせ技でキラキラ映画になりうる所、主演の2人はじめ登場人物の魅力や心情の変化を丁寧に描き、演奏シーンも見応えがある本格的な青春音楽映画だった。カセットテープが過去と現在を繋ぐという設定も絶妙。劇中バンド"ECHOLL"の音楽はandropの内澤崇仁がプロデュースして作り上げ、歌い手として非常にレベルの高い北村匠海と新田真剣佑の歌声を存分に聴かせてくれた。そして臨場感あふれるライヴシーンは、撮影監督の今村圭佑のカメラワークが冴え渡る。多くのMVを手掛けている今村圭佑の撮る映像は音楽との親和性が抜群。わたしの好きな要素がぎゅっと詰まった、まさに今年出会えた珠玉の1本。

アンダードッグ(前後編)

”「百円の恋」の製作陣が再集結して作るボクシング映画”この謳い文句と予告を見て「絶対に嵌まる…!」と確信。その確信を裏切らず想像以上に熱く胸に刺さる作品で、年末ギリギリにベストに食い込んできた。
主人公はトップランカーから咬ませ犬的存在に成り下がりながら、ボクシングを諦められない男・末永晃。有望な若手に踏み台にされ無様な姿を晒しても決して闘うことをやめない…しかしそんな”負けても輝く"男に多くの人が魅了される。演じた森山未來の役への憑依ぶりが凄まじく、どん底から這い上がっていく彼の姿に胸を打たれた。また末永と相対するボクサーを演じた北村匠海、勝地涼の熱演も光る。北村匠海は「サヨナラまでの30分」はじめ、これまで"影のある文化系男子"のはまり役が多かったが、今作は全く異なるタイプの役で新たな魅力を見せつけた。そして勝地涼演じる宮木の一番の理解者としてセコンドを務めたロバートの山本博は、前編のMVP。宮木への愛ある叱咤激励に泣けた…彼だけでなく、今作はセコンド陣の熱演も大きな見所。そしてエンドロールと共に流れる石崎ひゅーいの「Flowers」がまた泣かせる。令和の時代にいい意味で"昭和感"を感じさせるノスタルジックなメロディーが「アンダードッグ」の世界観にぴったり。

ミッドナイトスワン

”インパクト”という意味では、2020年最も大きかったと言える作品。それくらい鑑賞後には頭を殴られたような衝撃が残った。主人公のトランスジェンダー・凪沙を演じた草彅剛、ネグレクトを受けながらバレリーナを目指す一果を演じた服部樹咲――このふたりの芝居に終始引き込まれる。特に凪沙は存在そのものがリアルに感じられ、改めて草彅剛の驚異的な表現力に感嘆した。また服部樹咲はこれが初演技とは思えないほどの存在感ある芝居が素晴らしかった。本作はあくまでフィクションなので、トランスジェンダーを取り巻く現状をすべて正確に描いているとは考えていない。実際、波紋を呼んだシーンも含まれていたようだ。ただわたしのように”トランスジェンダーについて知ってはいるけど、正確に理解しているとは言えない”という層の人々に対し、問題提起をするという意味では意義ある作品となったと感じる。

AWAKE

2019年頃から新人監督のデビュー作で好みの作品に当たることが増えているのだが、こちらもそのひとつとなった。2017年に木下グループ新人監督賞のグランプリを獲った山田篤宏監督の長編デビュー作。"将棋"という鉄板のテーマを"電王戦"という興味深い実話をベースに描き、"青春もの"としても成立させる…その完成度の高さに脱帽した。"人間vsAI"をストーリーの主軸にせず、奨励会の同期が互いに鎬を削り合うという”二人の関係性”にフォーカスした展開に胸が熱くなる。棋士になる夢を絶たれるという大きな挫折から、別の形で再び夢を目指し始める主人公・清田のスイッチが入った瞬間の瞳の変化、細やかな感情表現を丁寧に演じた吉沢亮が素晴らしい。やはり根暗な吉沢亮は抜群だと再認識した。またライバル棋士の浅川を演じた若葉竜也、清田にプログラミングを指南する磯野役の落合モトキもそれぞれ好演。デビュー作でこの完成度、山田監督の次回作が楽しみでならない。

前田建設ファンタジー営業部

実話をベースに描かれたお仕事映画は数あれど、ここまでコメディ色を強めに打ち出した作品は過去なかったのではないだろうか。しかしその匙加減が絶妙で、観終わった後はじんわりとした感動が残る傑作だった。「自社の技術を生かしてマジンガーZの格納庫を作れるか?」ある日ふと思いついた上司の無茶ぶりにはじめは全く気乗りせずどうにか止めさせようとしていた部下たちが、一人また一人と本気でのめり込んでいく…粛々と目の前の仕事をしていた日々から、架空のプロジェクトを通して熱量を帯びていく過程が清々しい。夢中になれる仕事ってこういうものだよな、バカなことを真面目にやるって楽しいよな、というのを思い出させてくれた。主人公・ドイを演じた高杉真宙はじめキャスト陣も好演。

アルプススタンドのはしの方

青春映画の当たり年となった2020年、口コミで評判が広がり多くの人の心に届いた作品だったと感じる1本。「しょうがない」と必死に言い聞かせながら、夢見た未来を諦めきれない高校生たち。キラキラと輝く日々だけが青春じゃない。どんな経験も自分次第で大きな糧となる。無気力だった彼らが仲間のために必死で声援を送る姿に胸が熱くなった。また高校時代に吹奏楽部でトランペットを担当し野球部の応援にも参加した自分にとっては、応援曲やスタンドのシーンが懐かしく涙が零れた。ドラマ「中学聖日記」で注目した小野莉奈、西本まりんが微妙な友人関係を好演。中村守里と黒木ひかりの対照的な優等生の描き方もよかった。そして今作一番の発見は元野球部の藤野を演じた平井亜門。冷めた部分と熱い部分の緩急がとてもうまく、何より声が素晴らしくいい。癖のないビジュアルなので、これから色々な役ができそう。時折観返したいと思える青春映画の傑作がまた1本誕生。

37セカンズ

生まれながら脳性麻痺という障害を持ちながら生きてきた女性の物語。実際に脳性麻痺の障害を持ち、演技初挑戦という佳山明を主人公・ユマ役に抜擢したのが驚きだったが、自身の日常生活とこれまでの経験に裏付けられたごく自然な演技に引き込まれた。母の過剰な愛に守られた日常を飛び出し、人との出会いや未知の世界を経験することで新たな人生を鮮やかに切り開いていく…そんなユマの変化が瑞々しく描かれていて眩しい。ユマに惜しまず愛情を注ぐ母を演じた神野三鈴、偶然の出会いからユマを新たな世界へ導く舞を演じた渡辺真起子、ユマの新たな挑戦を介護士として献身的に支える俊哉を演じた大東駿介、初対面でもユマを特別扱いしなかった編集者の藤本を演じた板谷由夏、ユマをゴーストライターとして使うSAYAKAを演じた萩原みのりなど、ユマを取り巻くキャラクターも皆魅力的。また本作のメガホンを取ったHIKARI監督は本作が長編映画デビュー作。今後も追い続けたい監督がまたひとり増えた。

罪の声

日本犯罪史に残る未解決事件をモチーフに事件の当事者と新聞記者、二人の男が35年の時を経て真相解明へ挑む。多くの関係者の証言を積み重ねて事件を辿る過程が非常にリアルで、あの事件の真相はこれだったのではと錯覚しそうになった。500ページ超えの原作を完璧に纏めた野木亜紀子脚本が見事。過去の事件を追うことで、失っていた記者としての矜持を取り戻していく阿久津を演じた小栗旬の抑えた演技が秀逸。また恵まれた人生から一転事件に巻き込まれていたことを知り、苦悩を抱えながらも使命感を持って行動する曽根を演じた星野源もよかった。脇役陣も豪華だったが、中でも一番驚いたのは声を使われた子供の一人・生島聡一郎を演じた宇野祥平。一目見た瞬間どれほど壮絶な人生を歩んできたかがありありと伝わってくる…登場からインパクトは絶大で、彼の芝居に泣かされた。また事件の重要人物である若き日の曽根達雄を演じた川口覚が期待以上によかった。彼はこういうインテリジェンスで革新的なイメージの役が抜群にはまる。ネクストシアター在籍時に演じた「カリギュラ」のケレアを思い出したが、今後更なる躍進を期待したい。

浅田家!

「湯を沸かすほどの熱い愛」や「長いお別れ」など、これまでも”家族”をテーマとする作品を撮ってきた中野量太監督が新たに生み出したのは、実話を元にした家族の物語。写真家・浅田政志が自身の家族を巻き込んで「なりたかった写真家」になり、やがてそれぞれの家族ならではの日常や魅力を映す写真を撮り始める。浅田が写真家になるまでを描いた前半部と、震災が起き浅田が写真洗浄のボランティアに関わる後半部は物語のトーンが大きく変わるのが大きなポイント。浅田の内面の変化を繊細に表現した二宮和也の演技には引き込まれるものがあった。また個性溢れる家族の中で一番普通で、いつも「お兄ちゃんなんだから」と宥められ、弟に振り回されてしまうお人好しの兄を演じた妻夫木聡は特に魅力的に映った。彼はこういう役がよく似合うし抜群にはまる。個性的な浅田家だけではなく、それぞれの家族に日常があり物語がある…写真が繋ぐ家族の絆に思いを馳せ、心が温かくなる作品。

きみの瞳が問いかけている

ラブストーリーの名手・三木孝浩監督が、初めて手掛けた韓国映画のリメイク作品。8年ぶりにタッグを組む吉高由里子と三木組初参加の横浜流星をキャスティングし、最高に純度の高い大人のラブストーリーが誕生した。吉高由里子はラブストーリーのイメージがあまりないが、明香里のまっすぐな明るさ、前向きさ、無邪気さなどを自然体で演じており、彼女の魅力が余すところなく引き出されている。そして2019年の「いなくなれ、群青」ではまだ高校生役を演じていた横浜流星が、制服を脱ぎキックボクサーという役にチャレンジし、自身の空手経験を生かした本格的なアクションシーンを演じるもの本作の見どころ。彼の魅力である表情や仕草、声のトーンで心の機微を表現する演技も繊細さを増しており、次にどんな役を演じるのかまた楽しみが増えた。

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