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自分の正義は果たして本当に正しいのか

前回に続き、先月読んで特に心に響いた本をご紹介します。

「この歌をあなたへ」大門剛明 著(祥伝社文庫)

裏表紙、概要(あらすじ)より。
小学校の養護教諭、宮坂蒼衣の住む街には悲しい事件の記憶があった。十九年前、クリスマスイベントで盛り上がる公園に刃物を持った男が乱入し、八人もの尊い命が奪われたのだ。ある日、蒼衣の勤める小学校に、臨時の事務職員として一人の男が配属される。異常なほど頑なに人との関わりを避ける彼には、誰にも言えない秘密が―。

加害者家族の苦悩と救いを描く、と書いてありますが「救い」の光はことごとく潰され続けます。最後にようやく希望が見えるところで終わります。でもその希望の光がとても温かく感動的です。

以下ネタバレあり。

蒼衣が勤務する小学校でいじめ事件が発生。いじめを主導した児童は正義感の強さ故に誤った行動をしてしまいます。そこに気づき、解決の糸口を見出すきっかけを与えたのは、同じ小学校で臨時事務職員として働く野川隼太。
子供たちはその素直さで自らの過ちを認めて再生していきます。
そのいじめ事件と、19年前の殺人事件加害者家族に向けられる偏見、差別が対比されます。が、あまりに残酷で絶望的な展開はその比になりません。
元はいじめを主導した女児が蒼衣に語った言葉「大人はいじめはいけないって言うけど、同じことやってるじゃん」と自分たちを救ってくれた隼太に起こった理不尽さに憤ります。真っ直ぐで胸に刺さります…

要所で自分だったら…と考えさせられます。
加害者とその家族は別。そんな事はわかりきっている。もしも身近な友人が加害者家族になったとしても、その人を拒絶しないだろう、と思う。でも本当にそうなのか?
蒼衣は好意的に見ていた隼太とその妹、朋美に対して、事件の加害者家族だと知って当初動揺します。とても優しい彼女のこの反応は、綺麗事だけではないリアルさを感じました。
そして蒼衣の両親の反応も然り。加害者家族への接し方について意見を求めた時は至極真っ当な考えを示したにもかかわらず、蒼衣の隼太に対する好意を感じ取った途端に態度が一変する。娘の幸せを願えばこそ。これは親としてわからなくはない。
そして、自分が絶対に加害者家族にならないと言い切れるのか。そうなったら自分は…

加害者家族の隼太や朋美に対して味方する人もいれば、無関心である人が多い。彼らを責めるのはほんの一部の人。その一部の力は大きい。集まれば無害の人だって豹変してしまう。助けたくても、どうしようもない。
と描かれています。
近頃問題になっているネットでの誹謗中傷、炎上、これと同じだなと思いました。
誰もが持っている正義感。それが時に刃になる事。
人間に潜む怖さ、それは他人事ではない、と思わなければならない。

この話の中に出てくる歌「切手のないおくりもの」
子供の頃に何度も歌ったけれど、これほど心に沁みたことはなかったな。
ラストシーンのその先が幸せである事を、読んだ方はきっと願わずにはいられないだろうと思います。

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