「生活2022.2.24」【詩】

遠い国で戦争がはじまった
わたしの友人たちはだれも死なない

地球の一部がいままさに壊れてゆく
わたしの友人たちはだれも死なない

わたしの友人たちはいま、
原発のある町で教師をしたり
ネットニュースの翻訳記事を書いたり
凶悪犯罪の被害者たちにマイクをむけたり
一日中、ヴィデオゲームの主人公たちと敵を打ちのめしたり
永い詩を書いたり
山奥の鉄道会社の車掌をしたり
高いスーツで体裁をととのえた男たちに頭を下げたり
政治家たちのパーティーの司会を頼まれたり
若い起業家に心にもないことを言ったり
深夜のラジオ番組の脚本を書いて却下されたり
重機で森を切り開いたり
肌の色のちがう子供たちに日本語を教えたり
生活習慣病患者たちのリハビリに心を砕いたり
劇場のチケットを切ったり
劇場の舞台で世にも恥ずかしいせりふを叫んだり
それを聴いて涙したり
わたしの友人たちはそれぞれに
穏やかな生活をおくっている

わたしはなにをしている
遠い国の戦火あざやかな閃光のゆくえを
うつしだす画面のまえで
一日中歯を磨いている
一時間に一度シャワーを浴びて
清潔であろうとしている
会いにゆく人もいないのに
頭のなかに浮かんでは消えてゆくなにかを拭い去る
会いにゆく人もいないのに
わたしの友人たちは
だれも死んではいないのに

わたしは清潔であろうとすることでしか
わたしを保てないのだ

壊れゆくこの不安定な世界の
縁で

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