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「月夜」「夏の散策」「花首」(詩)


【月夜】

剣が夜の胸を刺す
白い光が漏れて
この道を照らす
あの果てが鳴る
それが祝福か 誘惑か 悲劇の最中か
はかり知ることは叶わない
ただ
ひと夜ごと
降り注ぐ白に
私は 頭を濡らし
たれ落とすばかり


【夏の散策】

小さな実を 舌の上
小鳥を待って
涎をこぼす

淀んだぬるま湯の川面
緑生した時を
爪先はえぐり落としていく

やさしさを やさしさのまま
落としていくには
それは細やかな作業が必要だ

明るい夏を所々割いて
私は歩き回る
そうして片足をとられた方が
ずっと
空は遠くうつくしい


【花首】

力の加減は知っていた
あの花も
あの黄色の花も
首を差し出して 笑っていた
指の先端に
瞬間 込める力の
静かさや
甘ったれた淋しさを
私は何度も磨いてきた
たったひとつのその道の
うつくしい一色を与えて
無邪気に忘れてもかまわないと
あの花も
あの無機質な花も
目をひとしきり見つめて
笑いかけていた
その首にかかる 幼い指の
若く熟れた体温に
笑いこらえていられないほど
互いの時間は嚙み合わないものだと

首は落ちても
軽い音だった

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