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伝統という言葉に縛られて苦しんでいた

こんにちは。秋田県由利本荘市でごてんまりを作っています〈ゆりてまり〉です。

ごてんまりを作っているというと、「伝統的なものを作っているのね。素晴らしいわ」と言われます。
秋田県のごてんまりは100年以上続いているという確証がないので、実際には県の伝統工芸品として認められていないのですが、その辺の事情は地元の人にもあまり知られていません。

先月号の『あっぷる』という地元の情報雑誌に掲載させていただいたときも、〈ゆりてまり〉は「秋田の伝統的工芸品」という枠で紹介されていました。
「秋田の(正統な)伝統工芸品」ではなく、あくまで「伝統’’的’’工芸品」という位置づけですね。

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このように、ごてんまりは正統な秋田の伝統工芸品というわけではないのですが、必ず「伝統」という言葉と一緒に語られます。

「ごてんまり」=「伝統的」=「素晴らしい」なのです。
これは絶対普遍の法則で、老若男女関係なく誰もが使います。
高校生も70代の方も「ごてんまりって、伝統的で素晴らしいですね」と言うのです。

あまりにもことあるごとに「伝統」「伝統的」と言われるので、わたしはごてんまり作家であるからして、伝統的な物しか作ってはいけないのではないか、と思い込んで苦しんでいた時期がありました。
別に「お前は伝統的なもの以外作るな」と言われたわけではありません。
わたしは他の人から「ごてんまりって伝統的で素晴らしいですね」と言われたにすぎないのですが、あまりにも言われすぎて自分自身が変にそう思い込んでしまったのですね。

「伝統的なごてんまりを作らなくては」
そう思い込んだ私は、伝統的に見える柄や色を模索し、製作に励むようになりました。
この時期は黒地のまりや菊模様のまりをたくさん作ったのですが、正直そんなに楽しくありませんでした。
「伝統的」ということにこだわりすぎて、自分の作りたいものが作れていなかったからです。
おまけにさっぱり売れませんでした。

伝統的なまりを作っても全然売れないじゃん!!!

そう、伝統的なまりを作っても全然売れないのです。
だから若い作り手が育たずにごてんまり業界が廃れつつあるのです。
気づいてしまったわたしは、伝統的なデザインにこだわることをやめて、自分の好きなまりを作るようになりました。
独創的なデザインがたくさん生まれました。
わたしはまた楽しく製作できるようになり、まりも売れるようになりました。



自分の好きなものを作った方が確実に熱が入るし、いい作品になります。
それがお客さんにも伝わるのでしょう。
ショッキングピンクにエメラルドグリーンを合わせたまり、色の具合でまるで白いレースをかけたように見える青いまりなど、他では見られないようなまりがよく売れるようになりました。
何より、独創的なデザインを作るために頑張っていると、「次はコレを作りたい!!」「今回はコレをこうしたけれど、こんなバージョンも作りたい!!」と次から次にアイディアがわいてきます。
作りたくて作りたくてたまらないのです。

わたしの目標は「10年続ける」なので、モチベーションを維持することは大変重要です。
売れないことより、「こんなものを作っても売れないし、楽しくない」と自分が諦めてしまうことが一番恐ろしい。
こういう経験があるので、人から何を言われても「自分の作りたいまりを作る」ことを第一に優先するようになりました。
今後も求められたらちょっとは伝統的なまりを作るかもしれませんが、独創的なデザインのまりを作り続けると思います。

ただ、伝統的なまりを作ろうと必死になった時期も決して無駄だったわけではありません。
何をどう作ったら「伝統的」に見えるのか、具体的に分かるようになりました。
その上でちょっとだけ「ずらして」やるのです。
そうすると、伝統的に見えるけれども新鮮な印象のまりを作ることができます。
つまりお客さんに注目してもらえる可能性が高いまりを作ることができます。「何故このまりはちょっと違う印象がするのだろう?」と考えさせることができるからです。

たとえば、「手まり」と聞いて思い起こすのが、十中八九オーソドックスな赤い菊の手まりだと思います。

手まりと着物の少女

↑こういうヤツですね。

こんなイメージのまりをちょっとだけずらして作ってみます。
まず、まりの地色を赤からちょっと黒味の入った臙脂色にします。
そして赤、サーモンピンク、白、臙脂の順に〈菊〉にかがります。
そうすると、こんなまりが出来ます。

新しい赤い菊のまり


柄はもっとも伝統的な〈菊〉ですが、進出色と後退色による錯覚のせいで、模様が浮き出るように感じ、不思議な印象になります。
最後の臙脂の糸は地糸の色と同化してほぼ存在感がなくなり、直前の白がますます浮き上がって見えます。

この赤いまりをご覧に入れると、たいてい皆さんじぃーっと見て下さいます。
そして「細かいわねぇ」「万華鏡みたい」と感想を述べてくださいます。
「作るの、大変でしょう?」と聞いて下さる方もいます。
「そうなんですよ~。大変なんです~。」と言うと、「そうでしょうねぇ」と大変納得した顔で聞いてくださいます。

一区切りついてから「でもコレ、作り方はふつうの菊と一緒ですよ」と言うと、めちゃくちゃ驚かれます。
新鮮な驚きがあったほうが、ごてんまりに興味を持ってくださる可能性が高いですからね。
このまりを気に入って購入して下さればありがたいですし、「わたしも作ってみたい!」と思ってくださったらそれはそれでありがたいことです。

独創的なまりを作るのは確かにわたしのモチベーションですが、あまりにも斬新で独創的すぎる作品ばかりだと、お客さんもひいてしまいます。
「伝統的」という言葉は必ずしも「素晴らしい」に直結するわけではありません。
その近くには「ベーシック」や「オーソドックス」、「今までの」「見たことのある」というワードもあります。
それらの言葉は人を安心させ、親近感を与えます。
安心感の中にぴりりと独創的なモノがあった方が、きっと新鮮な驚きとともに作品を受け入れやすいでしょう。


「伝統的」という言葉に縛られずに、自分のモチベーションを保ちながら、お客様を感動させられるようなまりを作りたいと思います。





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