見出し画像

地方の不寛容な空気は変えられるか【都道府県別寛容性総合指標で秋田県は46位】

「東京圏へ出てきた地方の若者が地元に戻らない阻害要因として、これまでの地方創生議論が見落としていたものがあるのではないか。それをいったん『地方創生のファクターX』としておこう。」
今までの地方創生に関する議論では見落としていたファクターがあるのではないか、そのファクターとは地域の寛容性なのではないかとする視点で、地方創生に関する議論の論点として「寛容」と「幸福」を新たに追加することを提案した研究があります。

以下のリンク先から報告書の全ページを読むことができます。

https://www.homes.co.jp/souken/report/202108/


この報告書は、秋田県由利本荘市というド田舎に住んで、いちおう地域活性化を考えている自分にとって、大変興味深い内容でした。
確かに、不寛容な田舎に若者は戻ってこないと言われてはいましたが、地域の寛容性という点に着目して本格的に調査した研究というのは今までありませんでした。
この報告書は、寛容性という可視化が難しい概念を、膨大なアンケートデータをもとに集計し、都道府県別に示してくれたところに意義があります。

こちらの報告書が提示する都道府県別寛容性総合指標(報告書77p)では、秋田県は46位でした。
下から二番目という不名誉な順位ではありますが、大変納得がいく順位です。


と言うのも、わたしは今まで京都、秋田、群馬、神奈川、埼玉に住んだ経験があるのですが、「○○ちゃんも結婚さねばねな(結婚しなければいけないね)」と言われたり、身体的理由で進学差別を受けたり、就職差別を目の当たりにしたのも秋田だけだったからです。


県外の大学に進んで美術系の学問を学んでいたときも、学芸員の資格を取るために必要な研修を秋田県内で受けることができませんでした。
夏休みを利用して地元で研修を受けようと、秋田県内の美術館・博物館に問い合わせたところ、全ての施設で「そういった研修は受け付けておりません」と冷たくあしらわれてしまいました。
他の地域出身の学生は、みんな夏休み中に地元で研修を受けることが決まっているのに、なんでわたしだけ地元で受けられないのか、と悲しく思ったことを覚えています。
もしかすると当時の秋田県には美術系の大学がなく(現在の秋田公立美術大学は当時短期大学でした)、学芸員資格を取ろうとする学生が地元にいなかったのが原因かもしれません。

しかし、東京都文京区にある弥生美術館に電話したら、すぐに「いいですよ」と言われてびっくりしました。
たまたま研修に好意的な施設を一発で引き当てただけなのかもしれませんが、当時のわたしは地域によってこんなに対応に差があるのか、と思いました。

神奈川県にある大学の入学試験を車椅子で受けたときも、そうでした。
わたしは試験の1ヶ月前に足を骨折してしまい、車椅子で受験したのですが、試験会場までの道中、神奈川県では電車もバスも車椅子に乗ったまま滞りなく使うことができましたし、面接試験で入室したときも、椅子に座れないわたしを見て、すぐに椅子を下げてくださるなど、皆さんものすごく優しいというか、対応が迅速で慣れている様子でした。
受験直前に足の骨を折ったのは不幸でしたが、志望した大学が神奈川県にあったのは幸運でした。
高校受験時、身体的理由で進学差別を受けたわたしは、車椅子に乗って受験なんかしたら、秋田の大学では成績に関係なく絶対に落とされるだろうと考えたからです。
実際のところは秋田の大学を受けたことがないので分からないのですが、神奈川県の大学の、試験会場までの道中と試験中の周りの対応が、自分を受け入れてくれると感じさせてくれました。
「大丈夫、仮にこのままずっと車椅子だとしても、ここなら受け入れてくれそう」と思うことができ、試験に集中することができました。
心の底から「秋田の大学を受けなくて良かった」と思いました。



そういった経験があって、秋田県の都道府県別寛容性総合指標46位という順位に大変納得しているのですが、もちろん今のままでいいとは思っていません。
秋田県の都道府県別寛容性総合指標は46位ですが、6項目あるジャンル別寛容性指標のうち、「女性の生き方」と「若者信頼」では、堂々の47位です。
女性と若者が一番不寛容な状況に置かれている地域が、存続できるはずがありません。
ましてそんな地域が活性化などできるわけがないでしょう。
やはりこういった状況を改善する必要があります。
寛容性指標上位とはいかなくても、なんとか全国の平均値に近づけたいというのが率直な思いです。


この報告書を読んで希望を感じたのは、「在住者の総合幸福度と出身者のUターン意向との相関係数は0.514」で「暮らしている人自身が幸福かどうかが、Uターン意向に大きく影響を及ぼしていることがわかる」(87p)という点と、『Uターン意向と強い正の相関を持つのは、社会増減率などの人口関連指標に加え、「学習・自己啓発・訓練行動者比率」「芸術・文化の行動者比率」といった生活関連指標のうち、文化・カルチャーに関する項目である。』(95p)という点です。
わたしはUターンしてきてから、ごてんまりを通して地域の文化芸術活動に関わってきました。
例の感染症の影響もあり、ここ2年ほど県外へ移動していません。
活動範囲は秋田県内、とくに由利本荘市です。
狭い地域で地道に活動してきた結果、地元の新聞やテレビに取り上げていただいたり、地元の大学生や高校生から取材の依頼を受けるようになりました。

自分の活動が、これまで地元の文化芸術活動に関わりの薄かった層の関心を刺激し、注目を集めているようです。
この報告書を読んで、自分の活動が地域の幸福度を上げ、Uターン意向に正の影響を与えられるファクターになれるのではないか、とそう思いました。
報告書97pには『(9つの説明変数のうち)最もUターン意向に正の影響を与えているのは、「芸術・文化の行動者比率」である』と書いてあります。
とすれば、今まで自分がやっていた地元密着型の活動は、地方創生に関して正しいアプローチを行っていたということになります。

これまでさんざん「この土地はダメだ」「別の場所でやったほうがいい」と言われてきました。

コロナ禍にも関わらず、やれ東京だやれ海外だと勧められ、実際にいくつか海外への打診もありましたが、自分はやはりここを拠点にやっていこうと思います。
何をすれば地域の不寛容な空気を変えることができるのか。
その答えは分かりません。
何せ変えようとしているのは空気という、目にも見えないし触れないものなのですから。
それでも自分の活動が、少しでも地域が良くなることに繋がると信じてやっていくしかありません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?