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140字小説 No.801‐805

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【No.801 終末ボタン】
エレベーターに見慣れないボタンがいくつかあった。興味本位に▷▷を押してみると、ガラス張りの壁から覗く景色が二倍速で動く。◁◁を押すと逆再生に、□を押すと一時停止に。ふと、電源ボタンが目に入る。これを押したら世界は一体どうなってしまうのか。震える手で、ボタンを、視界が──

【No.802 影忘子】
昔、付き合っていた彼女は手を繋ぐのが苦手だった。代わりに手のひらの影と影を重ねて少しはにかむ。今では離れ離れになってしまったけど、僕の足下から思い出の影が伸びていると願う。空の右手をポケットに隠しながら、亡くなった彼女の影が汚れないように、雑踏の中を縮こまって歩くのだ。

【No.803 まほろ葉】
最後のひとひらが落ちたら命も終わる。入院生活が長い男の子は、手術の日が近くなる度に呟いていた。葉っぱはすでに全部落ちている。けれど、手術は成功して男の子は元気になった。噂に聞いたことがある。病を患った人の前にだけ姿を現わして、生きる希望を与える幻の『まほろ葉』の存在を。

【No.804 消えない願い】
消しゴムの箱に気になる人の名前を書いて、誰にも知られず使い切ることができれば願いが叶うそうだ。噂を聞いてから僕は、クラスで人気な女の子の名前を書いた。消しゴムが小さくなるほどに鼓動が高鳴っていく。目が合うと思わず笑みが溢れた。いつか、嫌いなあいつの存在も消えると信じて。

【No.805 思い出のクリーニング】
都会の裏通りに佇む、思い出のクリーニング屋が人気だった。嫌な経験を消すシミ抜き。季節の出来事を預かる保管サービス。忘れたい黒歴史の洗浄。ぼやけた記憶のシワ伸ばし。上書き防止のための撥水。汚れた日々が増えていく現代では、加工された思い出くらいがちょうどいいのかもしれない。

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改めまして、秋助です。主にnoteでは小説、脚本、ツイノベ、短歌、エッセイを記事にしています。同人音声やフリーゲームのシナリオ、オリジナル小説や脚本の執筆依頼はこちらでお願いします→https://profile.coconala.com/users/1646652