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[1] Wythe Hotel @Brooklyn, New York

初訪問:2014年
滞在時期:2023年6月&2024年7月

もしもホテルの成功を「オーナーの投資利回りの最大化」ではなく、「魅力的な街や文化、ライフスタイルの創造」と定義した場合、Wythe Hotelは私が知っているホテルの中で、最も唯一無二かつ成功を収めているホテルの一つです。

一言でいえば「ブルックリンによるブルックリンのためのホテル」。開業したのは2012年。昨今Williamsburg・East River沿いエリアのヒップな商業化の発端でもあると、称される存在です。

概要:

リノベーションの完成度、インテリアデザイン、料飲のコンセプト、スタッフのサービスカルチャー、アートやクリエイティブ、どれをとっても地域コミュニティをしっかりと巻き込み方、質も一流。ニューヨークを代表するライフスタイルホテルです。

元となる建造物は1901年築。砂糖製造の産業が栄えていたEast River沿いエリアにおいて、砂糖樽の製造工場として建てら、繊維工場だった時代もあります。

スプーンで削られた様な建物の角が特徴的
(HPより引用)

戦後に建築材料がコンクリートが主流になる前、主にレンガや木材で建てられた貴重な建築物。その歴史や美しさをホテルの視覚体験に織り込んだ、リノベーションはとても丁寧。

インテリアは殆ど素材の質感や色で勝負しているので、印象はIndustrial。一方アクセントとなる壁紙や2Dのクリエイティブは、上品なブルーがブランドカラーで、繊細さも感じとられるスタイルのグラフィックが多く、その絶妙なバランスが、カッコイイのです。

レンガを残した壁
天井の衣装として再利用されているフローリングの木材
エントランスエリア
青が基調の上品なグラフィック

アイコニックな料飲部門:

ロビーに隣接するLa Crocodileは、ホテルオーナーの一人であり、ブルックリンレストランシーンのパイオニアであるAndrew Tarlowが手がけるフレンチ・アメリカン。Top 100 Restaurants in NYCのリストにも常連で、朝から夜まで賑わっています。

La Crocodile

ルーフトップバーのBar Blondeauは、マンハッタンでは近すぎて見えない、マンハッタンの絶景が見え、質の良いカクテルを提供しています。(2014年当時はIdesという名前で、ブルックリンでは唯一のルーフトップバーだったので、列が長蛇になる事も)

ホテル向かいの通りには、ライブ会場とボーリング場を合わせたBrooklyn Bowlや、クラフトビール醸造所のBrooklyn Breweryの本拠地が構えるなど、豊富なブルックリンカルチャーの中心にいながら、宿泊者以外にも愛される。都市型のライフスタイルホテルが目指すべき姿だと言えます。

ルーフトップからはManhattanのスカイラインが見える(Bar Blondeau)
多様な客が集うBar Blondeau

そもそも自分がWythe Hotelの存在を知ったきっかけも、隣接地下に存在していた伝説のナイトクラブOutputへ、音楽好きな親友達と何度か訪れていくうちにでした。

蛇足ですが、Outputは当時のニューヨークでは珍しく、ハウス・テクノに特化したミュージックベニュー。一流のサウンドシステムや空間を備えながらも ”No Bottle Services, No VIP tables. Dress code: Brooklyn is the new black.” と公式ウェブサイトに記載。見栄えや男女比、ゲストリスト等でExclusiveなマンハッタンのナイトクラブシーンとは全く逆張りのコンセプトを貫いてましたが、2018年に経営難を理由に閉業。しかしブルックリンらしいの懐の深さや、音楽の本質を重視する信念など、その後ブルックリンの音楽シーンの火付け役的存在だった事は間違い無いです。

ホテルと同時期に開業したOUTPUT
(写真は引用)

Brooklynのクリエイティブ・コミュニティへのアプローチ:

Wythe Hotelは訪れる人、泊まる人、働いている人も「ヒップな人達が集まる場所」だと形容されがちですが、「トレンディーなデザインのホテル」は昨今も増えてきています。

ただ、開業後の数年間だけ「写真映え」を求める人々が集まる場所と、10年以上経った今でも「ヒップな人達が集まる場所」としてアイデンティティが持続している事は一見似て大きく異なります。その根底は「何の為で、誰の為に作られたホテルか」なのだと思います。

BrooklynのWilliamsburg・East River沿いも、戦前のManhattan・SOHOのように、アーティスト達にとっては制作活動ができる、大きな空間がある建造物と安価な家賃が魅力的なエリアでした。そこが商業化されると、家賃が上がり、アーティスト達はまた違うエリアに移動してしまいます。(昨今のNYだとBushwickあたりでしょうか)

Wythe Hotelではオーナー・デベロッパーのこの現象に対する配慮が由緒に見受けられます。
訪れる人や働いている従業員にもクリエイティブ活動をしている人が多く、彼らもWythe Hotelに与え続けている理由はここにあると思います。

例えばホテルの看板となる「HOTEL」のインスタレーションは、Brooklynを中心に活動するTom Furinにより、建造物の廃棄物を利用して制作され、Sustainability的な要素も強い作品です。

看板・Tom Furinによるインスタレーション


視覚的アイデンティティーとなるホテルのクリエイティブ素材やルームアート、写真等もBrooklynを巻き込み、展示会、Artist in Residence活動、音楽イベント、地下の隠れシアタールームでは、スクリーンイベントも開催したりと、クリエイター達の居場所を、開業当初から、この先もつくり続けていくことに疑いの余地がないのです。

投資リターンはどの様になってるかはわからないですが、Brooklynのアートカルチャーを牽引する、文化的価値が非常に高いホテルです。それはどんなにお金をかけても、「正しい人」を集めないと成し遂げれないのです。

Brooklynのランドマークをモチーフにした壁紙や書き下ろしのルームアート
ルームアート・ホテルのコミットメントの紹介
至る所の壁紙やクリエティブがユニークかつ魅力的
戦場記者のエッセイ(共用部のトイレに配置したホテルのスタンスにびっくり)
「業界人なのでツアーをしてください」というわがままにもGM直々応えてくれた心暖かいホテルでした

後述:

Wythe Hotelのオーナー&オペレーターは、Wythe以外の展開を視野に入れておらず、Brooklynのクリエイティブコミュニティーにフルコミットをしてきた人達です。(Andrew Tarlow以外にも、Peter Lawrenceは自ら総支配人となり、Jed WalentasもデベロッパーとしてDUMBOやDomino Sugar Factoryプロジェクトに長期スパンで携わっています)文字通り人生をかけているので、「利益の最大化」が成功の定義であるコーポレート色あるホテルブランドには真似しづらい、血の通った仕掛けがたくさんあるのです。

「便利な立地と快適な寝泊まり」を提供することは、ホテルが成功するの最低限のベースラインだと考えます。ベースラインとはいえ、スケールさせることには、無数のビジネスチャレンジが存在します。なので、日本でチェーン展開するビジネスホテルや、外資のビッグブランドホテルはWythe Hotelとは違う次元での戦いをしています。

どっちが凄いか。という話ではなく、ターゲットとする顧客層が全く異なります。

「便利な立地と快適な寝泊まり」だけを求めるトラベラーばかりを、Wythe Hotelが集客してしまっていたら、「コスパが微妙なホテル」と評価されてしまいます。

「便利な立地と快適な寝泊まり」の+アルファを探している顧客層、例えば「深い感動をホテル体験に求めている」顧客層に対して、Wythe Hotelは付加価値の宝庫です。

Wythe Hotelの成功は、ターゲットとする顧客層にとっての付加価値を洗い出し、設計し、具現し、告知し、継続し、そのどれもをチームが同じ方向を向いてやり切っているところに、あるのだと思います。

10周年記念の展示:Wytheに関わってきた人々(従業員等)

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