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Can|どう伝えるか?

Will-Can-Mustは、リクルートが半期の目標管理をするために使っている考え
方である。選手やメンバーのCanの円を大きくすることは「育成」や「指導」であり、コーチやマネジャーの重要な役割の1つである。「Can|本人は「できている」と思っている」の投稿では「本人ができていると思っているが、実際にはできていない」この難しさに触れた。次に「Can|避けるべき伝え方」を投稿した。今回は、コーチやマネジャーが選手やメンバーに対して、できていない事実をどうやって伝えるか?について整理したい。

Will-Can-Mustのベン図

「伝える」について考える

フラットなフィードバック

コーチやマネジャーは、勇気をもってストレートに伝えることが重要である。できていない事実を伝えるので、選手やメンバーの気持ちに配慮して言葉を選ぶことは大切だ。しかし、気を使い過ぎて曖昧な表現になってしまい、選手やメンバーに、何ができていなかったのか?が伝わらなければ意味がない。それでは、できていない時間が継続するのでお互いに不幸になってしまう。

リクルートでは「フィードバック」と呼んで、率直に意見を伝えあう企業文化がある。マネジャーからメンバーへのフィードバックもあるが、メンバーからマネジャーへのフィードバックもあり、タテ・ヨコ・ナナメでフィードバックが交換される。アドバイスや指導と言う面よりも、本人が気づいていない視座・視点・視野をフラットに伝えるという目的が近い。リクルートには、新規事業提案制度があるが、自分で思いついたアイデアを社内のいろんな人に見てもらい、フィードバックをもらう仕組みが用意されている。アウトプットをすれば、率直なフィードバックがもらえるという感じだ。

フィードバックできる関係性や文化

リクルートの事例を考えてみると、各マネジャーが、フィードバックで「どう伝えるか?」よりも、関係性の方が重要だということに気づく。リクルートでは、個別のマネジャーとメンバーの関係性に加えて、更に、フラットにフィードバックする組織文化があることを発信している前提が大きな意味を持っている。発信するだけではなく、実際に、全社員がフィードバックを経験している。その前提があるので、フィードバックされる側が必要とする「覚悟」も、フィードバックする側が必要とする「勇気」も、多く必要なくなる。それによって「あえて踏み込んで伝えるね」と前置きながら辛辣なフィードバックを伝えることできる。むしろ、率直なフィードバックをしたことで、マンネジャーが感謝させるストーリーなどをよく耳にする。チームのコーチや組織のマネジャーとしては、個人の間の関係性もさることながら、チームや組織として、率直なフィードバックをする文化ができることが重要だと思う。

可能性に期待するフィードバック

どう伝えるか?よりも、関係性や文化が大切という考えに至ったが、更に、それらの基礎になるマインドセット(考え方)も大切だと思えた。
リクルートでは、その企業文化を「起業家精神」「圧倒的当事者意識」そして「個の可能性に期待し合う場」と説明している。つまり、リクルートのマネジャーは、メンバーが今できていなくても、きっと将来できるようになるという期待のマインドセットを持っている。

しかし、「期待」という言葉は注意が必要だ。選手やメンバーに対して強い期待をする場合、期待通りにならないと、コーチやマネジャーがイライラしたくなる。期待すればするほど、腹が立ってくることがある。ミニバスでいうと、コーチだけでなく、保護者がイライラしているケースも多く、バスケ経験者の保護者のほうがその傾向が強い。
しかし、この期待は、上述のリクルートの文化における期待とは少し違う。選手やメンバーへの期待ではなく、彼らの可能性へ期待という違いがある。可能性への期待とは未来への期待である。「彼はこれぐらいできるはず」という期待は現実とのギャップを産みストレスになってしまうことがある。しかし、未来への期待は現実がないのでギャップが生まれない。期待通りにならない目の前の事象は、すでに起こってしまってことなので、イライラしても仕方がない。うまくいかないことは、反省の対象として未来に役立てるのが最良である。

文化や風土を作る

率直なフィードバックをするために、関係性や文化を作るべきだと書いた。しかし、それまでにフィードバックをしていないのに急に始めるのもハードルが高い。1・2度フィードバックしても文化にはなりづらい。
そこでお勧めするのは、チームや組織にフィードバック文化を作ると説明することだ。以前に「Goodチームとは?」の投稿で書いた通り、私はミニバスのチームで、「率直に意見を言い合えるチームになることで関係の質の高いチームになって、結果の質の高いチームを目指そう」と子供達に宣言した。その中で「ジョハリの窓」と言う考え方を小学生の子供達に紹介している。
以下の図で簡単に説明する。自分も他人も知っている「開放の窓」、自分は知っているが他人は知らない「秘密の窓」、自分は気づいていないが他人が知っている「盲点の窓」、最後に自分も他人も知らない「未知の窓」で構成される。

ジョハリの窓

良い関係性のチームを作るには「秘密の窓」と「盲点の窓」を小さくして「開放の窓」を大きく開くとした。強いチームになるには「盲点の窓」を小さくすることが大切で、仲間のできていないことを気づいた他の選手が注意することで、チーム全体で強くなろうと説明してきた。私自身、リスクのある選手起用をする時は、選手である小学生の子供達に、その作戦と合わせて、何の目的でこの戦略を取るのか?を説明して「秘密の窓」を小さくしている。

「伝える」以外の方法

行動制限やルールを課す

選手やメンバーには、問題点を説明すれば納得して改善できるタイプと、説明してもなかなか行動を変えられないタイプがいる。
前者のタイプは、上述の通りフィードバックで説明していくので良いが、後者のタイプは簡単には改善しない。その際は、行動制限やルールを課すというアプローチがある。バスケで例えると、右ばかりに進む選手に、左ドリブルのみにする制限を掛けるとか、ボールの保持が長過ぎる子には、2ドリブル縛り制限を掛けるなどをする。最初は、思い通りにプレーするための行動制限になるが、慣れれば制限も気にならなくなり、結果的に苦手を克服できる。
仕事ならば、論理思考に課題があるメンバーには、会議後の議事録を書いてもらうとか、行動量が不十分なメンバーに夕方に日報を書いてもらうとかの仕事のルールを決めることがあると思う。全員にずっとやってもらうと非効率になってしまうが、Canの育成に課題があるメンバーに対して、一定期間のルールを課すのは効果的な指導法だと考える。

プロセスを客観的に見せる

Can|本人は「できている」と思っている」の投稿で触れたスラムダンクの例が分かりやすい。桜木花道が自分のシュートフォームをビデオで見て、その不格好さに驚き、2万本のシュート練習をするシーンがある。スポーツでは、選手のプレーをビデオで撮影して客観的に見せることが有効である。
仕事ではビデオ撮影をする機会は少ないが、営業であれば、営業同行だったりロールプレイングをすることで、ベテラン社員との自分の営業活動を比較できる。システム開発では、ペアプログラミンと言って二人一組になって開発を行う手法も育成には効果的と聞く。
客観的といえば、データで示すという方法もあるが、選手やメンバーのCanを広げる指導という目的ではお勧めできない。バスケでは、スコアシートの記録を集計したり、シュート練習での成功率を記録したり、仕事では営業成績や完成作業量の計測などがある。客観データによって時系列で比較したり、他人と比較したりできる。しかし、これらは結果データでしかない。選手やメンバーに対して、どうすればCanが広がるかを示すためには、結果ではなく、プロセスを客観的に見せることが必要である。

伝えずに聞いてみる

できていない(Can)を伝えて指導するために、フィードバックとは違うアプローチは、こちらから伝えるのではなく、本人に聞く方法だ。
事実は一つなのだが、それぞれが認知する点は異なる。人は、脳で効率よく処理するために、大切な情報と大切でない情報を仕分けしている。この何度言っても伝わらないケースは、この大切なことという認識のギャップである。また、発育段階によっては多くの情報が大切だ!と伝えられても、同時処理できないので、1つずつ指導していく必要がある。1つの大切なことが意識しなくてもできるようになって次のステップに行ける。

有効な声掛けは、選手やメンバーの認知を確認することである。これは、国語の授業で音読をさせることによって、子供がどこで読み飛ばしをしているのか?を先生が確認することと同じである。先のバスケの「ボックスアウト」でいうと、選手に対して「ボックスアウトで大切なことは?」と聞いてみると良い。これは仕事の場でも同じである。特定の作業を正確に行えない場合、本人に「その仕事のポイントは何だろうか?」と尋ね、認識を確認することが効果的である。複数人に同時に質問して、チームや組織前提で知識を共有することも有効だが、認知ギャップを発見する目的では、1人1人に個別に質問したり、一度、付箋紙に書かせて発表してもらうなど、個人の認知を確認しながら進めるほうが効果的である。

バスケにおいて、コーチと選手で認知のズレを小さくするためには、大切なことに数字を使うことである。例えば、私のチームでは、ゴール下から両手で打つポンパシュートには5つのルールがあるとしている。
 ①ボールは、両手の親指をカタカナの「ハ」の字にする
 ②リングに対して45度の角度に立つ
 ③リングの周りの黒い四角の角を狙う
 ④ジャンプしてシュートする
 ⑤フォロースルーの手で黒い視覚を指さす
こうすると、5つ言える子と言えない子で、コーチが認知を確認することができる。書籍のタイトルや動画のサムネイルでも、◯つの法則、◯つのルールという表現はよく使われる。

「伝える」で気にしておくこと

タイムリーに伝える

できていないを認識させるためには、ミスが起きた直後に指摘をするのが効果的だ。選手交代をしたりタイムを取ったりして「直前のミス」を伝えると記憶に残りやすい。仕事のミスが起きた場合も、すぐに注意をすることが効果的に伝わる。もちろん、そのような機会を持ってないケースもある。タイミングを逸したら伝えるのをやめる方が良いとは思わない。伝えるべきことは、時間が経っていたとしても伝える必要がある。しかし、選手やメンバーが進化してくれるためには、本人が認識している状態の時にタイムリーに伝えるのが効果的であるのは間違えない。

寄り添って自責に誘う

うまくできていない原因を他責にする選手やメンバーもいる。問題の原因が自分にあったと認識せず、運が悪かったと解釈していたり、他責にしていたりする人だ。実際、本当に運が悪いケースもあるし、他人が発端になる不可抗力もあるので、否定は仕切れない。バスケで、パスをキャッチミスする子がいるが、その子へ出した選手のパスが悪いケースもある。仕事であれば、前のプロセスが遅れてしわ寄せが起きたケースもある。しかし、全ての他責にしていたら、Canを広げることが難しい。しかし、頭ごなしに「他責にするな」と言ってしまい、選手やメンバーが責められている気持ちが強くなり過ぎて、聞く耳が塞がってしまうのも問題だ。
このようなケースでは、まずは他責であっても言い分を受け止めるのが良い。その上で、自分でできることは何だろうか?と寄り添って、視点を自分に向けらるように指導できるとう良い。よく言う「過去と他人は変えられない、未来と自分は変えられる」という話だ。

定期的に振り返る

コーチから選手へ、マネジャーからメンバーへの評価を定期的に行うのは、Canを広げる目的で効果的だと考える。小中高の成績は学期ごとに通知表が渡される。会社であれば、半期や1年で1度は業績評価があることが多いのではないか。
逆に、バスケなどのスポーツや部活では定期的に行っていないことも多いのでは?と思う。実際には、チームスポーツであれはレギュラーメンバーやベンチ入りメンバーの指名から、選手の起用として、コーチから選手には頻繁に評価のフィードバックが行われている。しかし、これは上述のデータは客観的だがプロセスに対するフィードバックがないことと同じである。「なぜ自分はレギュラーに選ばれなかったのか」の理由が明確でないと選手は改善すべきことが分からない状態が続いてしまう。挙句の果ては、「言われたことはちゃんとやっているのに理不尽だ」「あの監督は分かっていない。」「上司は無能だ」と人間関係性を壊していく可能性すらある。だからCanに対する認識の違いは、定期的に伝えるのが必要だと考える。

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