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Can|避けるべき伝え方

Will-Can-Mustは、リクルートが半期の目標管理をするために使っている考え
方である。選手やメンバーのCanの円を大きくすることは「育成」や「指導」であり、コーチやマネジャーの重要な役割の1つである。前回の「Can|本人は「できている」と思っている」の投稿では「本人ができていると思っているが、実際にはできていない」状況に焦点を当てた。自己認識の難しさや認知の癖、発達段階について考察した。以降の投稿で、この認識のギャップをどのように伝えるかについて考えていこうと思う。中でも、今回は、避けるべき伝え方について考えてみた。

悪手を避ける

「どう伝えるか」よりも先に、「どう伝えるべきではないか」を考えることが重要である。Canの範囲を広げようとしているのに、伝え方が間違っていると、逆にWill(やる気)を削ぐリスクがある。私自身も、指導の失敗を経験し、その反省を踏まえてこの投稿を書いている。良い伝え方は常に学び続けるべきものだが、避けるべき点は比較的少ない。これらを意識することで、コーチやマネジャーは、選手やメンバーの育成において大きな失敗を避けることができる。

才能とは何か?

まず、才能の問題にしないことが重要である。実際には才能には個人差が存在する。例えばバスケットボールで「誰でもダンクができるか」と問われれば、答えは難しい。身長170cmのスパッド・ウェブ選手がダンクを成功させた例もあるが、これは垂直跳び117cmという特異な才能の表れである。生まれ持った個人の特徴としての才能を否定するわけではない。

しかし、コーチやマネジャーが選手やメンバーの指導を考える際、非常に難易度が高く多くの人ができないことを目標にすることは意味が薄い。例えば、ダンクができることや東京大学に合格することは、挑戦できる人には良いが、汎用的な議論にはならない。普通や平均というのも扱いが難しいが、多くの人ができることに範囲を限定して考えたい。となると、問題は「できるか、できないか」ではなく「できるまでにどれぐらいの時間が掛かるか、何回の練習が必要か」ということである。つまり、才能とは習得効率だと考える。才能がないからできないわけではなく、時間が掛かるだけである。ひょっとすると、同じ指導方法を繰り返しても、できるようにならないこともある。その場合、コーチやマネジャーが指導方法を変える選択肢も考えるべきかもしれない。

「お前、才能ないな」と伝えても、選手やメンバーが成長しないことは明らかである。発奮するかもしれないが、本人ができるようになりたいという意志(Will)を持っている場合、それは何も変わらない。むしろWillを小さくしてしまう。才能は習得効率の問題であり、時間が掛かる選手やメンバーにとっては、その時間をどれだけ投資するかが問題である。いつまでにどうなりたいか、人生の大切な時間をどれだけ使うかは、個人それぞれのWillの問題である。バスケの強豪高校に未経験で入部してレギュラーになるのは難しいかもしれない。しかし、バスケをやりたい、上手くなりたいというのは本人の問題である。習得効率が低くても、できるだけ上手くなりたいという気持ちは大切である。逆に自分から退くこともある。転職や異動希望を出すこともあるが、それは「才能がない」という話ではなく、自分の習得効率を考え、人生の時間をそれに費やすべきかという意思決定の問題である。

コーチやマネジャーは、その時間を伴走してサポートすることが有効である。才能がないという否定的な言葉ではなく、「お前は、できるようになるまでに時間が掛かるかもしれない。一緒にじっくり取り組もう」と声を掛けることが答えである。

気合が足りないからか?

気合の問題にすることも良くない指導の一つである。例えば、「ボックスアウトをしろ!」と何度も指示しているにも関わらず、ボックスアウトができない子がいる。ボックスアウトの方法を説明し、練習で確認しているにも関わらず、試合ではできない子がいる。外から見ると、何度も指導しているので、「やらない」という意識の問題に見えることがある。コーチはつい、「やる気を出せ!」「気合を入れろ!」「ちゃんとやれ!」と言いたくなることがある(私もそう言ってしまうことがある)。

しかし、前回の「Can|本人は「できている」と思っている」の投稿で述べたように、本人の自己認知とコーチやマネジャーの他者認知のギャップの問題である場合がある。つまり、本人はボックスアウトを「できている」と思い込んでいる可能性がある。そのため、「ちゃんとやれ!」と言われても、本人は「ちゃんとやれている」と認識なので、何も改善されないことが多い。これは、やる気の問題でもなく認知のギャップの問題なので、コーチが「やる気を出せ!」と指摘しても、選手のCanが伸びることは少ない。仕事でのマネジャーも同じで、できていないメンバーに対して「もっと気合を入れろ」と言っても、メンバーの改善は起きないと思う。

イライラしない、させない

「気合の問題にしない」と同様に、コーチやマネジャーがイライラして伝えないことも大切である。実際、私自身もイライラすることがあり、日々反省している。コーチとして何度も伝えても、プレーが伝えた通りにならないと、思い通りにならないことに腹が立つことがある。「なんど言ったら分かるんだ」と言いたくなることもある(実際に言ってしまうこともある)。ここは我慢のしどころと言えるが、我慢するよりも、認知ギャップを理解することがより重要である。

また、指摘される選手やメンバーも、「できていない」と言われることは快く思わない。これはスポーツのコーチよりも、会社のマネジャーとメンバーの関係で起こりやすい。スポーツでは技術的な解説が可能だが、仕事では正しいやり方が曖昧で、時代によって変わることもある。そのため、マネジャーの指導やアドバイスの権威が小さいことがある。

一般的に他人からの指摘は快く受け入れられないものである。特に自分はできていると思っているのに、実はできていないと言われることは辛い。問題点の指摘は受け入れ難いもので、選手やメンバーにとっては苦痛であることがある。コーチやマネジャー自身も、自分の指導力に問題があると指摘されると、心に刺さる。指導する立場であっても凹むことはあるので、選手やメンバーが苦い気持ちになるのは自然である。コーチやマネジャーからのメッセージが非難や揚げ足取りとして伝わるのは避けたい。

マネジメントの意味を考えると、「管理」と訳されることもあり、リクルート・マネジメント・ソリューションズでは「資源や資産・リスクなどを管理し、経営上の効果を最適化する手法」と説明されている。簡単に言えば、「成果を出すための方法」ということであり、マネジャーはそれを実行する人である。コーチもチームを指揮する人として同様の役割を担う。選手やメンバーをイライラさせてしまうと、目的を達成することが難しくなる。コーチやマネジャーがイライラすることは、チームや組織に大きな影響を与える。このことを考えると、イライラは全体に大きな影響を及ぼしてしまうため、悪手中の悪手だと言える。


今回の投稿では、コーチやマネジャーが、選手やメンバーにできていないことを伝える時に、避けるべき悪手を整理してみた。次は、どう伝えるべきか?に関して考えたいと思う。

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