即興型ディベートの3つの効用と日本の教育への問いかけ

「この前、職場でふとした時に即興型ディベートが役立ったなと思ってさ…」

研究目的のインタビューであっても、ちょっとした思い出話に花が咲く食事のときにも、ついついこんな話題になることもあります。

初めに断っておきたいのですが、私は研究者として駆け出しであり、即興型ディベートの効用も日本の教育の課題も、まだまだ考察中です。一方で、今回は今までの10年の経験や研究から、ぼんやりと分かってきていることをご共有できればと思っています。

前置きが長くなりました。私は、即興型ディベートというのは、日本人が苦手と言われる能力や、今後さらに必要だとされている知見を得る絶好の機会を提供してくれてるのではないかと思っています

様々な研究がなされていますが、私は即興型ディベートの効用は3つあると思っています。それらは、①インプットとしての様々な社会課題に関する知識、②プロセスとしてのスピーディーな思考力、③アウトプットとしての論理的・感情的な分りやすさを意識したプレゼンテーション力です。(英語即興型の場合は当然英語力も身に付きますが、今回は省きます。)

まず1つ目のインプットとしての様々な社会課題に関する知識について説明させてください。即興型ディベートはテーマが毎回変わります。例えば2日間の全国大会だと最大8つの議題を扱います。議題は「投票を義務化する」のような政治、「国連の安保理の拒否権廃止」のような国際関係、「代理母の禁止」のような女性の人権/倫理等、多岐にわたります。議題発表後インターネットの使用は禁止されているため、事前に多くの知識を知っていくことが必要です。事実、先日学会でも発表致しましたが、現在即興型ディベートで最も身についた(同率1位)という分析結果が出ているのは女性、LGBT、障がい者のような世界のあらゆる人たちへの寛容性で、同率2位には知識がランクインしています。また先日、外務省・文科省後援の、Kyushu Debate Openという日本で唯一世界大会様式で行われている国際大会が国連が制定したSDGsへのコミットメントを発表したのも、社会課題への親和性の高さからです。

2つめのプロセスとしてのスピーディな思考力ですが、議題が発表されてからスピーチが開始されるまでは15分から30分しかありません。その間に議論を組み立てるためには相当なスピードが必要になります。巷でよく言われる「ロジカル・シンキング」と言われるような、主張を根拠に基づいて考えることは必須でしょう。また、所謂「トップダウン思考」「ボトムアップ思考」に加え、「相手が何を言ってくるか?」という論点や反対意見を意識した「ホリゾンタル思考」も必要になります。(この頭文字をとって「TBH思考法」と私は呼んでいます)

3つめのアウトプットとしての論理的・感情的な分りやすさを意識したプレゼンテーション力ですが、前回「いまだに誤解されるディベート ─ディベートの目的は"論破"ではない─」で取り上げましたように、即興型ディベートは議会を模しており、「政治家」である選手が、「一般市民」である審査員を説得出来たほうが勝利となります。そこでは、私やあなたのような一般市民を説得する必要があるので、まくしたてたり、論破を目指してただただイチャモンやケチをつけるような「ディベート1.0」的な選手は負け、論理的な分かりやすさに加え、感情にも訴えかけるような「ディベート2.0」を体現する選手が勝利します。なお、即興型ディベートの世界大会中には「パブリック・スピーキング」のコンテストも同時開催されたり、オックスフォードのディベート部はパブリック・スピーキング等のコーチによって指導されています。

そして、これら3つの身につくこと(社会課題に関する知識、スピーディーな思考力、論理的・感情的なプレゼンテーション力)は社会のあらゆる局面で重要になります。

2つ目、3つ目のほうが分かりやすいので先に話しますと、まずスピーディな思考力というのは、あらゆる業種で必要になります。もちろん準備にはじっくりと緻密に考えることが重要ですが、会議などでスピード感が求められる際に重要となります。特にグローバルで活動しようとすると、一部の文化圏では「すぐに質問に答えられること」が信頼獲得に繋がることもあります。私もカナダの高校で、「とりあえずすぐに質問には答え、その根拠は3つあると答えろ」と言われたこともあります。また、とある即興型ディベート経験者の官僚の方は国際会議で「日本人がしどろもどろになりやすい局面で、外国の官僚相手でもすぐに対応できた」ところを高く評価されて抜擢されたこともあったとのことです。

論理的・感情的なプレゼンテーション力も業種に限らず非常に重要です。良く言われることでもありますが、アカデミアの方や、企業の理系の研究職関係の方々とお話ししていると、「日本人は良いアイデアがあるがそれをうまく伝えきれておらず勿体ない」と耳にします。一部の即興型ディベート出身の研究者の方や院生の方の中には「即興型ディベートで身に着けた話し方は、論文の書き方にそのまま応用できる」という人もいます。また、私の後輩で日本や世界でトップクラスのコンサルティング企業で働いている人たちもまず上司に褒められるのはプレゼンテーション力のようです。

そして1つ目の社会課題に関する知識は、一見分かりづらいですがNGOや大学関連者だけではなく、企業も必要性が高まっています。少子高齢化等「課題先進国」と呼ばれる日本が、CSRにとどまらない、事業のど真ん中で競争戦略を構築する際に社会課題解決の観点が必要になることは、ユニリーバなどのサステナビリティ先進企業の経営戦略を見ても、経団連が掲げておりSDGsと密接に関係している「Society 5.0」を見ても、示唆されています。私はESG投資の高まり等、今後サステナビリティがより重要視される社会の中で、「社会課題解決力」はますます求められる能力になると思っています。

繰り返しになりますが、これらはまだ「可能性」・「問いかけ」です。今後研究を重ねていきたいと思いますが、即興型ディベートは社会課題に関する知識、スピーディーな思考力、論理的・感情的なプレゼンテーション力が身につくと思っています。そしてこれらは日本の教育においても重要なテーマなのではないでしょうか、と考えています。

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ディベート教育実践家 / 東京大学英語ディベート部OBOG会顧問、九州大学学術研究者、跡見学園女子大学講師、外務省文科省後援の国際大会審査委員長、全国大会優勝・審査委員長 / "ディベート力"を通じて理不尽さを0に / 三足の草鞋(経営コンサルx研究者x教育者)/ SDGs
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