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フシギドライバー/#毎週ショートショートnote

雨の夜半、県道で若い女を乗せた。

「どちらまで」
俯いたまま、〇〇墓地まで、と応える。

ルームミラーで女をちらちら観察する。髪の長い、痩せた、白いワンピース姿。乗り込んでから一度も顔を上げない。やばいなあ…。冷静に、冷静に。喋って間を持たせる。

「俺ね、氷河期世代っていうの、大卒なのに就職どこも駄目でね、ずっと底辺でやってきてね、派遣も切られ、酒浸り、結婚20年の女房から別れ話、20年だよアンタ、付き合い期間入れたら24年だよほんとに好きだったんだよぅ、気がついたら俺の下でぐったりしてた、人生こんなもんだよね、あはは、もうね、全部が嫌んなっちゃって、アパート出て、そこのガードレール、ひとつだけ外れたままでしょ、まだ直してないんだね、車も俺もすぐ持っていってくれたのにね、」

しまった。若い女を乗せるとつい、同情を引こうとして喋りすぎてしまう。墓地までまだ1kmあるのに女が降りると言い、料金を払って出て行った。


(404文字)

たらはかに(田原にか)様の企画に参加させていただきました。