Teamsの悲劇
2022年7月21日、木曜日。午前10時頃よりビジネスチャットツールTeamsが繋がらなくなる不具合発生。
「あれ？ あれあれ？？・・・メッセが送信できない・・・」
スマホの着メロが鳴った。SVの高木さんからだ。
「あのなー、Teamsに不具合発生してて。んで、案件欲しい時や質問は共有フォルダにメモ帳置いとくんで、そこに書いて頂戴」
ええっ。テレワークめちゃサイコー。メリットしかない。会議無い日は一日中パジャマのままでいれる。風呂に入らなくともよい。もう出社したくない。理不尽な電車遅延に巻き込まれずに済む。どこにも出かけないから少ない給料が溜まる一方。物欲が無くなり僧侶のように悟りが開けそう。メリットしかない。ずうっと一生このままでいさせて。と思っていたけれど、チャットツールが使えないと一気に生産性下がるのが辛い。
佐藤は、くだんのメモ帳を開いた。これか、なるほど。
加藤
佐伯
松本
江藤
山下
中野
畑
竹下
宮野
永井
吉田
坂
安井
近藤
メモ帳の一番下に名前を書き込む。佐藤、と。
しばらくして業務管理システムに次のカタログ作成案件が上がってきた。
なーんだ、こっちの方が楽じゃん。「案件ください」って誤って役員の会議板に送信して恥かく心配がないので、原始的なこっちの方がむしろいいかも。
こうして順調に仕事は進んでいたが・・・
午後4時20分。
次の案件を下さい、と。
佐伯
矢野
加藤
畑
あれ？ だいぶ人数が減ってるけど？
なんでだろう？
みんな時間のかかる、難しい案件やってるのかな？
え。
もしかして俺って、みんなより、簡単な案件ばっかりもらってるのかな？
それって馬鹿まるだしじゃん。恥じゃん。いやだなあ。
とりあえず名前書こう。
午後4時30分。
なんか、簡単すぎてすぐ終わっちゃったよ。
いやだなあ。俺って本当に、馬鹿認定されてるのかな？
俺だって馬鹿の自覚は、ないわけではないけど、こうハッキリと突きつけられるとなんかこう・・・落ち込むよね。
恥じゃん。いやだなあ。
とりあえず次の案件もらおう。
畑
え？ 畑くんだけ？
なんで？？
みんなすごい難しい、時間かかる案件やってるってことだよね？
とりあえず名前・・・
午後4時40分。
もう終わっちゃった。次の案件・・・
メモ帳自体が消えている
え？ 質問のメモ帳も消えてる。なんでなんで？？
定時の5時までまだ20分もあるんだけど。
どうしようどうやって案件もらったら・・・
高木さんに電話するか。・・・いやだなあ。俺、電話って苦手なんだよね。
あっもしかしてTeams使えないから仕方ない、今日の仕事はもう終わりってことかな？ 納期だいぶ先まで作成は進んでるし。メモ帳が消えているってことは、仕事終わったってことだよね。
たぶんそうだよね、じゃあいいよね、今日の仕事はもう終わり！
佐藤は回線を切り、PCを閉じた。
その頃、Teamsは既に回復し、みな通常の作業に戻っていた。
それに気づかず、勝手に退社した者は、佐藤一人であった。