見出し画像

アイドル状の物体 #毎週ショートショートnote

秋の日、最近できた店の窓辺に。

「犯した罪は償うべきと思うけれど、」
斉木さんが美しい手つきでパスタを巻く。

「彼の生い立ちや例の宗教の話を聞くと……なんだか彼だけを責める気持ちになれないのよ」

物事の一面だけをみて一方的に糾弾したりすぐに結論づけたりしない。僕は彼女のこういうところが好きだ。

「そうだね、僕も。詳細を知るまでは憤りしかなかったけどね」
「宗教ってなんなのかしら」

「組織をつくったり何かの偶像アイドル状の物体を崇める意味ってあるのかな。神は万物に宿ると僕は思うけどね」
「アニミズムね」

「そう……あの銀杏の木をわたる風にも神はいる」
僕は窓の外の通りをみやった。

「無機物も例外ではないわね。このグラスにも神はいる」
「人を不幸にするおかしな宗教よりかはグラスを崇め奉っている方がずっとマシだ。それから個々の人間の中にも神はいるんだ。君の中にも……」

え?と、澄んだ瞳で斉木さんが僕をまっすぐ見た。
僕は慌てて下を向いた。



(410文字)
たらはかに(田原にか)様の企画に参加させていただきました。