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毒吐く南瓜 #毎週ショートショートnote

ガスの火を消し忘れる。戸締りをしないで出掛ける。母に惚けの兆候が出て目が離せない。ヘルパーは嫌だと泣き叫ぶ。私は会社を辞めた。県外に家庭を持つ兄は辛うじて生きていけるだけの金を送ってくる。もう十年顔を見ていない。母が兄嫁を苛めたから仕方がない。

スーパーに行くと派手な飾りつけでかぼちゃが山積みされている。今日はハロウィン。いつものばか騒ぎか。あほくさ。
「あほくさ。好きでもない母の面倒をみるだけの人生。全てを切り詰めて蛆虫のように生きている。なぜ私だけがこんな目に遭うの」

かぼちゃのひとつが喋ってきた。ぎょっとして、しかし気づくと掴んでレジに並んでいた。

家に帰るとテーブルにかぼちゃを置き、撫でる。
あなたは私の心がわかるのね。

電話が鳴り近所に出掛け、戻ってくると台所に甘い匂いが漂っている。この匂いは。母が振り返った。

「あんたの好きなかぼちゃの炊いたんやで」

私の唯一の友達。涙を流しながら食べた。
甘くておいしかった。


(408文字)
たらはかに(田原にか)様の企画に参加させていただきました。