蒲田行進曲/つかこうへい
『蒲田行進曲』は、作家つかこうへいが1982年に出版した小説です。元々は舞台作品で、その舞台がノベライズされ、その後、つかこうへい脚本、深作キンジ監督で映画にもなりました、その後、テレビドラマにもなっています。小説は直木賞受賞、映画は各映画賞を総ナメしました。80年代当時、話題をかっさらっていました。
私は、映画を見て、その後に、小説を読んだんですけど、当時、中学3年でした。
映画のシーンと重なる部分もあって、役者さんのイメージが小説を読んでいても重なっていたんですよね。ただ、小説は映画にはない、原作者、つかこうへいの毒に直に触れた気がしていました。
舞台は、映画撮影所。スター俳優 銀ちゃんの周りに、大部屋俳優が取り巻いている。
新撰組の映画が撮影中で、「階段落ち」のシーンが問題になっている。
階段落ちというのは、新撰組の映画では定番とされているシーンで、土方歳三が脱藩浪士を階段上で斬り捨てる、言わばキメのシーン。今回、土方歳三を銀ちゃんが演じているんですけど、この「階段落ち」を中止するという話がもちあがる。危険すぎる、実際、数年前、この階段落ちをやった大部屋俳優が今は半身不随で寝たきりになっている。映画会社も、世間からの風評を気にしている。一方、銀ちゃんの立場では、そのシーンがなくなってしまうと見せ場がない。むしろ、ライバル俳優の方が目立ってしまう。そこで、銀ちゃんの取り巻きのひとり、ヤスが階段落ちの斬られ役をやることになる。
ヤスと銀ちゃんの関係は独特で、ヤス自身が、他の人間にはわからない特別な関係なんだと感じ、喜びを感じている。ただ、その関係が、ある出来事をきっかけに変わっていく。その出来事というのは、銀ちゃんがヤスの元に小夏を連れてきて、ヤスと結婚させるんですね。小夏は銀ちゃんと3年間同棲している女性で、妊娠している。銀ちゃんと別れて1人で産みたいと小夏は思うんですけど、それを銀ちゃんは許さない。で、ヤスなら安心できるといって、ヤスの暮らす6畳一間に小夏を連れて行って、婚姻届に印鑑を押してしまう。
私にとって、銀ちゃん、ヤス、小夏の三角関係は、鮮烈な原体験でした。
かれこれ、40年ほど前の話ですけどね。
それを今回、あらためて読み返しました。
今読むと、確かに、時代を感じますね。
つかさん自身、10年前に亡くなられてますしね。歴史を感じる。というのは、蒲田行進曲の後のつかさんがどういう活動をしてきたかをわかっているから、ということもあります。
あと、ひとによっては受けつけないだろうなと感じました。
銀ちゃんやヤスのキャラクターって、嫌うひともいるだろうなと思います。
こういうセリフですよね。聴いててうわって感じたひともいるだろうなと思いながら、今、読んでたんですけどね。
パワーハラスメントっちゃあ、パワーハラスメントとも受け取られかねないとも思いますね。そうではないですけど。なぜならそれをすすんでヤスは受け入れている、喜んで受け入れているんですよね。ある種のマゾヒズムですよね。
さっき読んだ、うわっと感じてしまうようなセリフも、80年代には受け入れられていたんですよね。銀ちゃんやヤスのような人物って実在したんですよ。露骨に相手を虐げる、虐げられる関係っていうのはリアルにあったんですね。
今は、それが露骨に目にすることは少ないのかもしれない。
ただ、相手を虐げる、虐げられる関係というのは表立っていないだけなのかもしれないですよね。格差社会とも言われてますしね。
ヤスは、なぜ、喜んで銀ちゃんに虐げられているのか。
ここですよね。ヤスが銀ちゃんに同化するほど、喜んで虐げられている理由は。
銀ちゃんに対してはマゾヒスティックでありながら、他のひとにはサディスティックなんですね、ヤスは。小夏に対しても、銀ちゃんが連れてきた当初から、どんどんサディスティックな態度に変わっていくんですね。それは、階段落ちが近づいてくるのに並行して、度を増していきます。
ヤスのなかにいろんな思いが絡み合っている。その絡み合いの大元は、階段落ちに対しての不安なんですよね。それと銀ちゃんとの同化がズレてきているんですよね。「俺と銀ちゃんのつながりなんか、だれもわかりゃしないさ。」と言っていたつながりが、階段落ちが近づいてくるにしたがって、弱くなってきている。
このヤスの性格、というか、心境は、前半に、ヤス自身が語っています。
銀ちゃんに対するヤスの態度は、アンビバレンツ、というか、裏があるんですよね。
「銀ちゃんのためだから」といいつつも、心底そう思っているわけではない。
そう思えない。それがヤスという人物ですよね。
ただ、ヤスにとって、『階段落ち』がなくなってしまうというのはありえない。
それは、ヤスが銀ちゃんに会った時から感じていた、「この人についていけば、何かが変わる」という、これはカケです。このカケは、何が勝ち負けなのか、わからないようなカケではあるんですけど。
それでは、また、次回、よろしくお願いいたします。
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