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愛すべき偏愛は、苦手を越える。

「苦い、苦い、苦い」
「ビールってめっちゃ苦いから苦手や」

ひとりで飲むお酒が好き。
少数でしっぽりと飲む時間も好き。

だけどビールは大の苦手だった。

苦い、なんなら痛い、
ベロが痛い。

Q:「味が美味しいんですか?」
A:「のどごしだよ」

ビール好きの人に飲む理由を聞くと、「のどごし」と言われる。
それでも苦いビールを飲む意味がわからなかった。
「まだ舌が子どもなんで」って言ってたけど、正しくは「まだ喉が子どもなんで」だと思う。

申し訳ないが、ビールが好きな人の意味がわからない。

そう思って”ました”。

そんな自分が、あるキッカケによってこよなく愛するビールができました。
ビールが大の苦手な僕が、今から美味しいビールの話をします。

「カシオレでええやん」

社会人1年目の時、「とりあえず生」というナゾの同調圧力が苦手だった。

「ビールの人〜?」と聞くとほぼほぼ全員手が上がる。
社会人一年目の会社での飲み会。そんなん手あげるしかないやん。

飲めないビールを頼む。乾杯する。ひとくちつけて置きっぱなしにする。ビールが好きな周りの人は何杯も飲む。ビールが苦手な自分は1杯すら飲めず舌を乾かすために口をつける。2時間かけてぬるくなったビールを飲み干す。最後は飲んだ人と同じ金額を支払い、酔っ払いを介抱して駅まで運ぶ。

一体何をしに行ってるのかわからなかった。だから飲み会も苦手だ。
翌日二日酔いの人がなんとなく「しょうがないよね」という雰囲気になってるのも違和感だった。ちゃんと途中で自制すればいいのに。

本当は最初から最後までカシスオレンジがよかった。
カルーアミルクでもいい。
甘いのが飲みたい。ジュースみたいなお酒が飲みたい。

「慣れたら大丈夫やって」
そう言われ続けていたけど、慣れるなんてことはなく結局30歳を越えた。

ぼくの喉は相変わらず子どもだ。

ビールが苦手なのに飲みたいと思った

今年の2月。神戸でクラフトビールを製造する「インザドア」さんと出会った。神戸の地産地消にこだわり、いまは六甲アイランド(六アイ)の地で営業されている。

「今度飲みに行って良いですか?」
「ぜひ来てくださーい!」

ビールが苦手なはずなのに、自分からそう口走っていた。
なぜだかはよくわからない。
「会いたい!」とか「空間に触れてみたい」とか。きっと何かを感じたんだと思う。

「口走る」って本当なんだな。
想いは言葉になって、Wi-Fiを通じて六アイに飛んでいった。

「カシオレじゃなくてええやん」

そう思うようになったのは、この日からだ。

誘ってくれた友達に聞いてみた。
「ここのオススメはなに?」
「黒汁かなー」
「黒汁?じゃあ、それで!」

なにも考えず頼んで出てきたのは黒ビール。

「あ、飲めないかも」

黒ビールは苦くて濃い。そんなイメージだった。
残したら申し訳ないと思いながら口をつけてみた。

「え。あれ?」

すぐに2口目、そして3口目。2時間かけても飲み干せなかったビールを10分もかからず飲み干してしまった。

「めっちゃ、おいしい」
「うまい」

どこの引き出しを開いても、言葉と感情がおぼつかなかった。
32年間のビールに対するイメージを、華麗にちゃぶ台返しされてしまった。

「これ、ジュースみたいでおいしい」

バカみたいに幼稚な褒め言葉しかでなかったけど、その言葉が自分なりの最上級の言葉だった。

愛すべき偏愛は苦手を越える

ビールの味もそうだけど、僕は人に惚れたのかもしれない。

目に見えるモノや空間をA面とするなら、目には見えない人柄やマインドなど、愛すべき偏愛が滲んでいるのがB面。

日本酒を飲む時も、ワインを飲む時もビールを飲みたい。だから”シャバシャバ”なローアルコールのビールにこだわって作っている醸造担当のチカさん。

インザドアのビールの1番のファン。でもビールよりもテキーラが好きすぎるミカさん。

ビールが生まれるキッカケも、実際に行っている活動も、ここには書けない話もいろいろ聞いた。

オシャレで社会に良いこともやってる場所というよりも、パンクだしファンクで人間的な場所。「六アイの人にこんな場所があってよかったって思ってくれたら嬉しい」という思いをもって、日常をゆるりと楽しんでいる着飾らない空間。

ビールやお店(A面)の周りには、たくさんの偏愛が溢れるウラ物語(B面)がある。きっとそこを感じた。だから苦手な”ビール”も”飲み会”も超えて、この場所に来たんだと思う。

なんのために仕事をしているのか。

「あきらはなんのために仕事をしているの?」

これまで何度もそんな質問を聞かれてきた。
その質問をされるたび、今でも心がギュッとする。

「好きなことを仕事にしよう」という言葉がブームになっていて、「好きなことは?」「得意なことは?」と向き合い、必死に自分なりの正解を探していた時があった。

がんばって、言葉を取り繕いだ。
でも、どれも身の丈に合ってこなかった。

気持ち悪い。
借りてきた猫を口から吐き出していたようだった。

こらまでずっと悩んできたけど、
この日、今の自分なりの答えが出たのかもしれない。

「仕事は人生を豊かにするための口実」だ。

ぼくは、前向きなコミュ障だと思っている。

人が好きで、どんな考えを持っているのか、なぜそんなことをしているのかに興味がある。だから知りたいという欲求は強い。人より好奇心はあると思う。

だけど、初めましてが超苦手。そしてアウェーな環境も超苦手。
窓のないお店は、開けて満席だったり怖い人がいたら嫌だから1人では入れない。行けたとしても家に帰ると倒れ込むくらい疲れる。気を張っているからだ。

本当は知りたいけど、踏み出すことができない。
だから前向きなコミュ障と呼んでいる。

ところがだ、
「仕事」を入り口にすると話すことができる。
質問もできる。なんなら相手から質問が飛んでくる。相手が喜んでくれると嬉しいので、ついついまた楽しい話をしてしまう。そもそも話を聞くのが好きだから聞いてしまう。

そのしてるうちに「もっとこうしたらいいのにな〜」と心の中で思ってしまうので口にする。すると「ありがとう」と言ってくれる。

そうやって、仕事を介することで友達や知り合いを増やすことができる。そして結果的に、社会課題を解決したり、誰かの何かをポジティブに変換してる。

仕事を”口実”に知り合い、繋がり、プラスもマイナスも含めて楽しい時間を過ごす。口実というとかたいけど、「キッカケ」や「言い訳」ともいえる。仕事は人生を豊かにするための手段のひとつ。そのためにやっている。

ぼくが仕事をやる理由は、きっとこれだ。


近所にできたホームで乾杯

2023年4月16日。33歳になった。

今年の誕生日はインザドアに行きビールを飲むことに決めていた。
でも「今日、誕生日なんです」と自分から言うことは美意識に反する。
だから誰にも言わずに向かった。

休日の六アイは、家族連れや街で暮らす海外の人がウロウロしていた。観光ではなく暮らしの風景。その独特の空気感が、今はどこか心地良い。

つながりすぎると、心地悪い。
適度な距離感が、心地良い。

インザドアの扉を開けると、奥では5-6人の女子会。お庭ではベビーカーを押してきたご家族とカップルがコーヒーを飲んでいた。

お店の外に向けて並んだテーブルには、海外の人がビール片手にパソコン作業をしていた。1席あけてぼくもそこで飲むことにした。

ノートを開き、頭の中を整理していると後ろからミカさんの声がした

「あきらくーん」

「どうしました?」

「今日誕生日でしょ?Facebookが教えてくれたよ(笑)乾杯しよー!」

最近、アウェーだったこの場所が、ほんの少しホームになったような気がした。

扉を開けるまでアウェイでも、一歩を踏み出せばホームに変わる。
これからも仕事を口実に、一歩踏み出していこうと思う。

33歳、今年も一年ご自愛できますように。

乾杯。


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