雑感86:ロベスピエール:世論を支配した革命家(世界史リブレット 人 61)
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私の高校の世界史の授業はそれはもう詰め込み式学習の権化のような代物で、人物や事件が空欄になったA3の穴埋め式プリントが大量に配られ、先生は黒板に黙々と答えを板書し続けるというものでした。
たまに歴史上の人物や事件に関して補足的な情報を話すこともあった気がしますが、如何せん板書のスピードが速く、しかも同じイタリアのことをイタリーと書いたり、ソクラテスと書いたりソークラテスと書いたりと、わざと書き換えているのか?別人なのか?と私は勝手に混乱の渦に落とし込まれていました。
今思うと、あの授業は授業の形式でやる必要はなく、答えのプリントを配布して自習させていた方が、先生にも生徒にもお互いにとって良かったのではないか。
記憶を辿ると、同級生の中には予備校の授業に全力を注ぎ、この世界史の授業は貴重な睡眠時間としている子もいた。
当時は何とも思わなかったが、何が効率的なのか/何が自分にとって最も良いのか、ということを私なんかよりよっぽど判断できていたのだろうか。今思えば非常に合理的活動である。積極的に寝ることは「活動」と言えるのだろうか。
いづれにせよ、そういう一歩引いた物の見方が当時の私にはなかった。
爆睡していた子達が本当に一歩引いてそう考えていたかどうかは、知る由もない。本能的に眠かっただけかもしれない。
さて、そんな前時代的な世界史の授業で山のように登場する歴史上の人物のうち、どういう訳か私の脳みその長期記憶の波にうまく乗って今でも何となく記憶に残っている人物が何人かいる。
そのうちの一人がフランス革命のロベスピエールだった。
急進派とか恐怖政治と言われている割に、他の恐怖政治をした人々(例えばローマ帝国のネロ)に比べると授業の中でも一瞬登場して瞬く間にいなくなってしまう。
この人物は一体何だったのか・・・?という20年越しの私の疑問をこの世界史リブレットシリーズはいとも簡単に解決してくれました。
ありがとう、世界史リブレットシリーズ。
さてこのロベスピエールですが、元々は「国民主権」と「権利の平等」をとにかく要求し続けた政治家のようです。これを愚直に、そして巧みな話術で続けた結果、多くの世論が味方につき「世論による専制支配」とまで評されることになる。現代のポピュリズムに近い何かを感じました。
そして晩年は(と言っても若干36歳で処刑されるわけだが)、集中した権力により右寄りの思想も左寄りの思想も、革命を貶める陰謀だとして粛清してしまった。「私の中道的な思想に共感しない者は右も左も全て敵だ」といったような具合だったのでしょうか。
冒頭のロベスピエールの「ルソーの霊への献辞」が印象的です。ここで彼は一種の誓いを立てる。
革命の進行と自らの報酬が同一化されており、そこに革命そのものの善悪の判断や他者の評価や意見が入る余地はないと。
「国民主権」と「権利の平等」という当初に掲げたポリシーは否定できるものではないですが、この客観性を極端にまで排除してしまった誓いが、後に盲目的恐怖政治へとロベスピエールを進ませてしまったのでしょうか・・・。
個人の望む民主主義以外を全て排除することで、民主主義を希求していたにもかかわらず、晩年は全体主義の様相に陥る点に、主義・信条という概念の連続性と危うさを感じます。
他のリブレットシリーズは知りませんが、このロベスピエールの冊子は100ページ程度で構成されており、素人の私にも非常に読みやすかったです。(非常にニッチで味わい深いシリーズと思います。)
終わります。
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