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文章の「リズム」を作る(後編) 【文章術016】


僕のnoteでは、これからライターを目指す人や、新たなスキルを身につけたいビジネスパーソンに向けて、文章力を培うためのポイントを解説し、練習課題を出していく。

今回は、前回に引き続き、文章における「リズム」を整えることについて考えてみたい。

前段は割愛するので、未読の場合、【文章術016】をご一読頂きたい。

今回扱うのは、6つの避けるべきポイントについて、後半の3項目だ。

1)一つ一つの文が長い
2)文末に同じ表現が繰り返される
3)間伸びする表現が多い
4)意味のまとまりが分かりづらい
5)情報に抑揚がない
6)話が脇道に逸れすぎる


|4|意味のまとまりが分かりづらい

まず、意味を読み取りづらい書き方を避けたい。たとえば、こんな文である。

父は親友だった田中と僕を後部座席に乗せ、最寄りの駅に向かった。

これは「父」「田中」「僕」の関係性が読み取れなくなる文だ。田中は「父の親友だった」のか、それとも「僕の親友だった」なのか。もし、田中が父の親友だった場合、彼は助手席に乗っているのかどうかーーなど、解釈の余地が生まれてしまう。

読み手の意識は、これらの語の関係について考えるため、この文に出会ったときに止まる。文のリズム = 読者のリズムなのであれば、こういった箇所は無くさないといけない。

父は、僕と、ついさっきまで僕の親友だった田中を、後部座席に乗せ、最寄りの駅へ向かった。

修正すると、このような感じになる。

|5|情報に抑揚がない

続いて、情報の抑揚についてチェックしていこう。

英文の構造について学んだことがある人ならば、新情報旧情報という概念を知っているかもしれない。

ここでは詳細の議論は省こうと思うが、ざっくりと「話の中で新しく出てくる大事なキーワード」のことを新情報と言い、「既に会話に出てきているなどして、共通認識のあるキーワード」のことを旧情報という。

これは何も英文法を学ぶのに限った話ではなく、日本語を書く上でも重要だ。

昔々、あるところに、一匹のたぬきがおりました。

たとえば、上の文では、「一匹のたぬき」が新情報に相当する。「昔々、あるところに〜がおりました」と言う誰もが知る定型文と組み合わせることで、意識のスポットライトが「たぬき」に当たっている。

要するに、この一文を読むと、頭の中で「これからたぬきの話が始まるぞ」と整うのである。

一方、次のような書き出しになるとどうだろうか。

その日、百名山の中でも屈指の登山難易度を誇る利尻岳に、たぬきがいた。

これでは、読者は「一体何の話が始まるんだ??」と混乱してしまう。たぬきの話なのか、それとも山の話なのか。これは一文の中に、新情報が多すぎるのが原因だ。

その山には、一匹のたぬきがいた。

まず、このくらいたぬきにスポットライトを当てた方が、読者の準備は整いやすいだろう。

また、新情報や旧情報に限らず、一文に漢字やカタカナ用語を使いすぎた文章は読みづらくなる。どの部分にスポットライトを当てるべきなのか、考えて書くことが必要だ。

|6|話が脇道に逸れすぎる


文章の展開が悪くなることも読者の理解を鈍らせる要因だ。まずは、以下の文を読み比べて見てほしい。

A)もし「文のリズム」なるものが存在するならば、それは「読者のリズム」と言い換えても良いのかもしれない。我々は、つい文のリズムは書き手が作るものと考えがちだが、実は読み手が生んでいるのではないか、と仮定するわけだ。つまり、読み手が、本来読解に費やすべき意識を、ほかの要素が奪ってしまうことで、リーディングが止まる。本を読んでいる時に話しかけられたり、ランチの懇談中に店員が空いた食器を下げるようなものだ。これが「読者のリズム」を乱すことになり、「文のリズムか悪い」と感じさせる原因なのではないか。筆者も読者として、思考が停止する感覚は知っている。確かに文は読んでいるのに、内容が頭に入っていないような状態だ。そうこう考えてみると、読みづらさを極力解消した文は、一定の「文のリズム」を得る可能性があるのではないかと思えてきた。
B)もし「文のリズム」なるものが存在するならば、それは「読者のリズム」と言い換えても良いのかもしれない。読み手が、本来読解に費やすべき意識を、ほかの要素が奪ってしまうことで、リーディングが止まる。これが「読者のリズム」を乱すことになり、「文のリズムか悪い」と感じさせる原因なのではないか。そう考えると、読みづらさを極力解消した文は、一定の「文のリズム」を得る可能性がある。

もうお分かりだろうが、説明するまでもなくBが無駄を省いた文章であって、Aがそれに余分な文を足して長くした文だ。

以下、Aの余分な箇所を太字にしてみたので、改めてざっと眺めてほしい。

A)もし「文のリズム」なるものが存在するならば、それは「読者のリズム」と言い換えても良いのかもしれない。我々は、つい文のリズムは書き手が作るものと考えがちだが、実は読み手が生んでいるのではないか、と仮定するわけだ。つまり、読み手が、本来読解に費やすべき意識を、ほかの要素が奪ってしまうことで、リーディングが止まる。本を読んでいる時に話しかけられたり、ランチの懇談中に店員が空いた食器を下げるようなものだ。これが「読者のリズム」を乱すことになり、「文のリズムか悪い」と感じさせる原因なのではないか。筆者も読者として、思考が停止する感覚は知っている。確かに文は読んでいるのに、内容が頭に入っていないような状態だ。そうこう考えてみると、読みづらさを極力解消した文は、一定の「文のリズム」を得る可能性があるのではないかと思えてきた。

それぞれ、「無駄な重複」「不要な例え」「機能しない一人称の体験話」だ。これらが話の本筋を見えづらくしてしまっている。要するに、全部取っ払っても、この文で伝えたかった内容は通じる(と思う)。

このように、文の単位だけでなく、文章構造としても、無駄な枝葉を省いていくことで、伝えたい内容が読者に届きやすくなる。


今回の練習課題

では、後半の3項目を意識して文章を書いてみてほしい。

【課題016】「たぬき」をテーマに、(1)意味のまとまり、(2)情報の抑揚、(3)枝葉の少ない文章構造、という3点を意識して、400〜800文字程度の文章を書いてみよう。

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