新型コロナウイルス・オミクロン感染療養戦記~陰性、陰性、陰性、陰性、陽性
11月8日。この日は午後から、なんとなく仕事をやっていて疲れた感覚が襲っていた。同僚と、「今日はなんかやる気がしないね」などと笑っていた。咳喘息の症状は元々あったが、この日の咳は「コンコン」という空咳というより、湿った咳のように感じた。
帰りに藤沢駅前の広場で、皆既月食の赤い月を見上げていた。
帰宅して、ふと倦怠感に気づいて、体温を測ると37度だった。もしかしたらコロナ感染かなと思い、職場から支給されている抗原検査キットでセルフ検査をしたが、「陰性」だった。
翌朝、再び体温を測ると36.7度に下がっていた。再び抗原検査をしてみると、やはり「陰性」だった。少し迷ったが、職場に「抗原検査は陰性だったが、念のため今日は休む」と連絡を入れた。近所のドラッグストアで、風邪用の総合感冒薬とミネラルウオーターを買った。
午前中、体温は36度台だったが、夜になって突然38.3度まで上がった。抗原検査をしたかったが、すでに検査キットは手元にない。急遽、ネットで購入したが、届くのは12日土曜日になりそうだった。咳もきつくなってきた。当面、症状が軽快するまでは、自宅療養することにした。
翌10日木曜日、体温は終日37度台が続いた。夕方になって、ようやく36度台後半まで下がってきたが、相変わらず咳が続いた。
医者に行けばいいではないかと思うかもしれない。
ところが、新型コロナウイルスがオミクロン株が主流になってから、発熱などの症状があっても、セルフ抗原検査で「陰性」の場合、発熱外来を受診できず、自宅療養となるというフローになった。つまり、新規感染者数の「全数把握」見直しの一環である。
困った。フロー図をご覧になればわかるように、抗原検査で「陰性」が出てしまうと、患者は行き場を失う。PCR検査にはたどり着けない。
途方に暮れた。
民間のPCR検査は、無症状に限られる。発熱があって、咳が出る人は検査を受けられない。体温は下がってきたが、もしも抗原検査が「偽陰性」で、外に出た途端に感染を広げたら、元も子もなかった。とりあえず、職場には週末まで自宅療養とすることを報告した。
仮にコロナ感染の場合、発生から8日で自宅療養が解除、その後は10日目まで自主的な健康観察・感染対策となる。
翌週から職場復帰しようとすれば、少なくとも抗原検査キットで「陰性」を確認したかった。
12日土曜日に抗原検査キットが届き、さっそくセルフ検査したところ、結果は「陰性」だった。それでも、PCR検査していないのは落ち着かない。だいぶ症状も軽快してきたので、地元の民間のPCR検査を受けることにした。今なら神奈川県の無料検査も受けられる。13日日曜日の午前中、PCR検査を行い、結果はやはり「陰性」だった。
これで安心して、職場復帰できる。ただ、若干咳が残っていたのが気になった。職場の上司に相談すると、「症状があるのであれば、無理しなくていい」と言われた。思えば、もしも抗原検査で「陽性」であれば、16日までは自宅療養だったのである。念には念を入れたい。
週が明けた14日月曜日、午前中に近所のかかりつけ医を受診することにした。クリニックにあらかじめ電話すると、受診の前にまずPCR検査を受けてほしいということだった。お昼過ぎにクリニックを訪れ、裏口から別室に入れられ、PCR検査を行った。
数時間後、夕方に医師が電話をかけてきた。結果は、なんと「陽性」。発症日を、38度台の発熱があった9日とし、自宅療養の指示があった。本来なら抗ウイルス薬が処方されるはずだったが、すでに処方される5日分の期間が過ぎていたので、意味がなかった。咳止めの薬のみ、薬局から自宅に配達してもらうことになった。
3回の抗原検査と1回のPCR検査が「擬陰性」だったのか、それとも最後のPCR検査が「偽陽性」だったのか。そこは正直、分からない。後者なら38度超の発熱の正体は、インフルエンザだったのかもしれない。
私としては、2度目の新型コロナウイルス感染である。1度目は、2021年2月だった。今回と比べると、1度目の方が症状ははっきりしていた。
このころはまだ、ワクチンを打っていない。今回は4度目のワクチン接種を今年7月29日に終えていた。ファイザー、ファイザー、モデルナ、モデルナの順である。11月12日には、東京の自衛隊大規模接種センターで、5度目のワクチン接種を終える予定だった。
前回のワクチン接種から3か月しか経っていない。それもあって、気のゆるみはあったのかもしれない。
6日の日曜日に所用で東京・渋谷を訪れた。あのスクランブル交差点の雑踏を見れば、その中に何人か感染者がいてもおかしくないと感じる。とはいえ、誰かと会食をしたわけでもないし、この日から8日まで、酒場には出入りしていなかった。
感染経路は分からなかった。
前回の感染では、保健所からの連絡が入ったが、今回は「全数把握」の対象ではないらしく、電話を通して医師から「陽性」が伝えられ、薬を薬局から配達してもらうだけで、行政とのかかわりはいっさいない。届け出対象ではないということは、医療保険の給付金も支給されない。
やりきれない気持ちが残る。
以下、現状のコロナ対策の課題を提示しておきたい。
①現状の枠組みでは、セルフ抗原検査で「陰性」だった場合、発熱外来にはつながらず、PCR検査も受けることができない。したがって、何らかの症状があっても、医師の診断が受けられず、よって処方箋も出してもらえない。体調不良でも行き場がなくなる。
ちなみに、抗原検査キットがなければ、発熱外来につなぐことができる。つまり、最初から抗原検査キットを持っていなければ、余計な手間を取らなくてよいし、一発で発熱外来を受診し、PCR検査を受けることができる。抗原検査キットなど持たない方がお得なのだ。これは制度の不備としか言いようがない。
②セルフ抗原検査で「陰性」だった場合、症状が軽快すれば職場復帰する人がほとんどだ。私の場合、職場が寛容だったから自宅療養することができたが、多くの職場はそう簡単ではなかろう。結局、抗原検査が「偽陰性」だったら、感染を広げるだけなのではないか。
③抗原検査キットの流通量が少なすぎる。私の場合、職場から支給されたキットが2つあったが、これを使い切ると自分で購入しなければならない。ところが、近所のドラッグストアは売り切れで、ネットで購入したが、自宅に届いたころには症状が軽快していた。これでは意味がない。国か自治体が一定量の検査キットを無料で配布する仕組みが必要だ。
④根本的には、国や自治体が責任をもって、症状が出た人が必ずPCR検査を受けられるような体制を整備するべきだ。これは、無症状向けの無料検査のことではない。〝いつでも、だれでも、どこでも〟という、コロナ初期に言われたPCR検査体制は、はっきり言って現在では無意味である。大切なのは、症状が出た人が確実にPCR検査につながる体制である。そのためには、抗原検査キットを発熱外来受診の入口にせず、PCR検査キットを手軽に入手できる体制を整えることが必要だ。
⑤岸田政権の「何もしない」戦略は、無尽蔵に感染者を増やし、それに比例して死者数も増える亡国の道である。マスクをつけるとか、つけないとか、国がどうでもいいことに介入するより、まずは感染者の増加カーブを、一般診療に影響のない範囲でコロナ病床を運用できる程度の上昇にとどめるために、国民へのメッセージや一定の行動制限等を行っていただきたい。
コロナ療養から復帰して、もう2週間以上が経ったが、いまだに後遺症が残り、体力が回復していない。体調が改善したら、打ち損ねた5回目のコロナワクチンを接種するつもりだったが、いったん思いとどまった。まずは、先々の予防を心配するより、自己の体力回復を優先したいと思った。いまは、体力が消耗するようなイベントは避けたいのだ。
2週間、自宅療養して、いろいろと考えさせられた。年齢的にも無理はできなくなってきた。体力の衰えとうまく付き合いながら、健康で文化的な生活を維持したい。来年は55歳である。勢い任せの仕事の仕方は、もう通用しないからね。
長引く後遺症の話は、また次の機会に。
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